「……わかりました。今後、預言士(スコアラー)には細心の注意を払いましょう」

話を聞き終えたアスターは、そう言って髭を撫でた。

「頼む。後……ナタリアの乳母がここにいると聞いたんだが?」
「左様でございますが」
「彼女に会いたいんだが、呼んでもらえるか?」
「わかりました。只今、お呼びします。イヒヒ」

ルークの言葉にアスターは、快く頷くと手元にあったベルを取ってチリンと鳴らした。
すると、部屋の扉が開き、ナタリアの乳母が現れた。






〜Shining Rain〜








「これは、ルーク様!」

ナタリアの乳母はルークたちの姿を見て、驚いたようにそう言った。

「どうなさったんですか? ナタリア様は、ご一緒ではないのですか?」
「今日は、あなたに聞きたいことがあるんだ」
「私にですか……?」

ルークがそう言うと乳母は不思議そうな顔をした。

「はい。あなたは…………バタックという人物を知ってるか?」
「!?」

それを聞いた途端、乳母の表情が一変した。

「知ってるんだな?」
「…………はい。バタックはメリルの父親……シルヴィアの……私の娘婿です」

乳母は、力なくそう言うと暫し天井を見上げた。
記憶を探っているのか、気持ちを整理しようとしているようだったので、ルークは黙って彼女が話してくれるのを待った。

「…………バタックは、砂漠越えするキャラバン隊の護衛を生業にしていました……」

そして、ゆっくりと乳母は話し始めた。

「あの人は気の置けない仲間には、砂漠の獅子王と呼ばれていたとか……。身の丈が大きくて、心の優しい人でしたよ」
「獅子王……黒獅子…………それに巨体、か。……共通点はあるな」
「ええ。間違いないようですね」

小さくそう呟いたガイにジェイドも頷く。

「? 何がですか、大佐?」
「まぁ……そのうち、わかりますよ」
「?」

一人、話の内容が理解できなかったティアは不思議そうに小首を傾げた。

「それで、その人……バタックは、今何処に?」
「娘のシルヴィアが亡くなってから、姿を消しました。それきり……会っていません」

ルークの問いに乳母はそう言った。
その目は明らかに泳いでいた。

「…………≪黒獅子ラルゴ≫」
「!!」

そうルークが呟くと乳母の肩がビクッと動いた。

「それが今のあいつの名だな?」
「…………」

ルークは乳母から目を逸らすことなくそう言うとジッと乳母を見つめた。
そのルークの視線に耐え切れなくなったのか、乳母はルークから目を逸らした。
そして、それ以上何も応えなかった。
その沈黙がルークの言葉を肯定しているのだとルークにはわかった。

「…………ありがとうございます。もう充分です」

そう言うとルークは、踵を返して歩き出そうとした。

「! ルーク様! あの!!」
「なんだ?」

乳母の声に振り返ることなくルークはそう言った。

「あの……このことはナタリア様には……」
「安心しろ。まだ、ナタリアはこの事実を知ってはいない」

そう言うと乳母はホッと息をついたのが聞こえた。

「だが、あいつはいつかその事実と向き合う日が必ずやって来る。……それが遅いか早いかだけだ」

そして、ナタリアがその事実にちゃんと向き合えるかどうかでナタリアがダメになるかどうかわかってくるだろう。
でも、あいつだったら、ナタリアがダメにならないタイミングでそれを打ち明けてくれるだろう。
そして、ナタリアもちゃんとその事実を受け入れるだろう。
俺は、あいつとナタリアを信じている。

「お邪魔しました」
「いえいえ。また、何かありましたら、いつでもお立ち寄りくださいませ。イヒヒヒヒ」

ルークはそう言うと、アスターの独特な笑い声に見送られ、屋敷を後にするのだった。





















「うそ……。ナタリアの実の父親がラルゴだったなんて……」

アスターの屋敷を出たルークは、ティアに全てを話した。
それを聞いたティアは、信じられないといった表情になった。

「でも、そのことをいつ知ったの?」
「あなたがバチカル城でお着替えしているときですよ♪」

ティアの問いに答えたのは笑みを浮かべたジェイドだった。

「たっ、大佐! 何でそれを知っているんですか!?」
「いやですね〜♪ そんなことぐらいみんな知ってますよ♪」
「っ///」

ジェイドの言葉にティアの顔は、見る見るうちに赤くなっていく。

「いや〜。これをアッシュに見せたらどういう反応をしますかね♪」
「!?」

ジェイドが取り出した一枚の写真にティアは瞠目した。
その写真に写るティアは、城のメイドたちが着ている服を着用していた。

「……こんな写真を撮ってたなんて…………アニスね!」

実際にその写真を取ったであろうアニスがこの場にいないので、ティアは市場の方を睨みつけた。

「……ジェイド。おまえ、わざとだろ?」
「いやですね〜、ルーク。人聞きが悪いですよ」

笑みを浮かべてそう言ったジェイドに対してルークは、呆れたように溜息をついた。

「しっかしなぁ、ナタリアがこの事実を知る前に戦うことになったらどうする?」
「……黙っているしかないだろう」
「辛いなぁ……」

ルークの言葉にガイは重い溜息をついた。

「そして、いつか真実を知られたときに、恨まれるわけですね」
「そうだよなぁ; 知らせるのも辛いが、知らないまま、ラルゴと戦うのも問題がある」
「アッシュがナタリアに話す前にラルゴと遭遇しないことを祈るしかないか……」

やがて、見えてきた市場の人々の間に、ナタリアたちの姿を捉えた。
彼女たちは、ルークたちに気付くと手にしていた品物を店に戻して、こちらへとやってきた。

「もうよろしいんですの? アスターさんにお話は伝わりました?」
「ああ…………一応な」

そう言ったナタリアにルークは頷くとそう言った。

「それにしても、新生ローレライ教団のことは、気になりますわね。ティアはどう思います?」
「えっ? え、ええ……あちらは預言(スコア)を詠むといっています。人々がどちらを頼るのかと言えば……」
預言(スコア)を詠んでくれる方、か……くそっ!」

ティアの言葉に続けるようにルークは、そう言うと舌打ちした。

「政治が預言(スコア)に頼ってきた報いです」
「そんなことは! ……いえ。…………そうなのかもしれませんわね」

ジェイドの言葉にナタリアは悔いるようにそう言った。
それはナタリアだけのせいではないのに……。

「とにかく、一度お祖父様に相談しましょう」
「となると、ユリアシティだな!」

気持ちを切り替えるように、ティアがそう言うとガイの表情がパッと輝いた。

「俺は、あの街が好きなんで嬉しいね!」
「あら、そうだったの? でも、どうして?」
「音機関、音機関♪」

そう言ったガイの答えに誰もが納得するのだった。
























Rainシリーズ第9章第4譜でした!!
ナタリアの乳母に会ったルークたち。
これで完全にルークはラルゴがナタリアの実の父親だと確信してしまいました。
次は、ガイが大好きなユリアシティへ向かいます!!


R.1 7/21



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