「…………」

アルビオールの中、ルークはずっと無言だった。

「なんかルーク、こわ〜い;」
「ルーク、怒ってる、です」

それにアニスたちは少し離れたところで見ていた。
今のルークを見れば誰もが不機嫌であることがわかる。
そして、理由も彼らは知っている。

「まぁまぁ、ルーク。アッシュにフラれたからと言って、そんなに不機嫌にならないでください」
「別にフラれてねぇ!!」

ジェイドの言葉にルークは怒鳴った。
だが、敢えて地雷を踏んだジェイドはそれくらいで動じることはなく、涼しい顔をしている。

「ご主人様! そんなに怒っていたら、眉間に皺が消えなくなっちゃうですの!!」
「うるせぇ!! おまえは黙ってろ!!!」
「みゅうううぅぅ……」

ますます機嫌が悪くなるルークにティアたちは、溜息をつくのだった。






〜Shining Rain〜








「…………ごめん。まだ、ルークたちとは一緒に行けない」

事の始まりは、アッシュの言葉からだった。
あの空間から戻ってきたルークたちはアッシュが回復するのを待った。
そして、アッシュに一緒に行こうと誘ったのだ。
だが、アッシュは首を縦には振らなかった。

「なっ、何故だ?」

予想だにしなかったアッシュの返答にルークは戸惑った。

「…………≪ローレライの鍵≫のことはもう話したよね?」
「あぁ。≪ローレライの剣≫と≪ローレライの宝珠≫を合わせたものがそれだと」
「ルークは、≪ローレライの剣≫ローレライからちゃんと受け取った。でも……俺は、宝珠を受け取ることが出来なかった。ローレライをヴァンから解放する為には絶対必要なのに……」

アッシュは、まるで自分がダメな人間であるかのようにそう言った。

「だから、俺は宝珠を捜さないといけないんだ。俺、独りで……」
「何言ってるんだ! 独りで捜すより、俺たちと捜した方が効率がいいだろうが!!」
「そうよ、アッシュ! 私たちと一緒に捜しましょう!!」
「…………本当に、ルークたちがそんなことをしている暇があるの?」

ルークとティアの言葉にアッシュは静かにそう言った。

「知ってる? 最近、突然死をする人が増えてるんだよ。しかも、その人たちはある共通点があるんだ」
「共通点?」

アッシュの言葉にガイは眉を顰める。

「突然死をした人は全員、ローレライ教団の預言(スコア)を聞きに行っていることだ」
「! そっ、そんなの変です!!」

アッシュの言葉にアリエッタが声を上げた。

「そうだよ! だって、教団では預言(スコア)の詠み上げを中止してるんだよ? イオン様がそう決めたから…………」
「だが、実際には旅の預言士(スコアラー)が各地を回っているんだ。それには間違いなく、モースと六神将が絡んでいる」
「そっ、そんな!?」

アッシュに事実を聞かされたアニスは酷くショックを受けたようだった。

「突然死に預言(スコア)の再開……まさか…………」
「ジェイドには、心当たりがあるみたいだね」

ジェイドの表情を見たアッシュはそう言った。

「どっ、どういうことですの?」
「彼らはフォミクリーでレプリカ情報を抜かれたかもしれない。実験では情報を抜かれた被験者(オリジナル)が一週間後に死亡、もしくは障害が残る確率が三割だった。そうだろ、ジェイド?」
「ええ。……間違いありません」

アッシュの言葉にジェイドは頷く。

「レプリカ情報を抜かれた人は死んでしまうのか…………?」
「いえ、そういう被験者(オリジナル)もいるということです。必ず命を落とすわけではありません。ルークのようにね」

ガイの言葉にジェイドはそう言った。
それに一同は安堵の表情を浮かべる。

「ですが、それが本当だったらこれ以上レプリカを作らせるわけにはいきません。被験者(オリジナル)の為にも、レプリカの為にも」
「それなら、もうわかるよね。ルークたちがすべきことは……」
「……旅の預言士(スコアラー)の捜索、か?」
「そういうこと♪」

ルークの言葉にアッシュは笑みを浮かべてそう言った。

「ですが、旅の預言士(スコアラー)は今何処に?」
「う〜ん; バチカルへ向かったって言う噂は聞いたけど……」
「そうですか……。では、とりあえずバチカルに行ってみますか」
「…………」

ジェイドの言葉にティアたちは納得したように頷いたが、ルークは黙ったままだった。

「ルーク?」

それを不思議に思ったアッシュが声をかける。

「……どうしても、独りじゃないと駄目なのか?」
「うん……。でも、今度はちゃんと連絡するから。…………信じて」
「…………わかった」

アッシュの翡翠の瞳に見つめられたルークは、もうそう言うしかなかった。

「ありがとう、ルーク!」

それを聞いたアッシュは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「じゃぁ、また連絡するからっ!」

そして、アッシュは足早にその場から離れていった。

(………ごめん、『アッシュ』)

まだ、みんなと一緒にいるわけには行かないんだ。
だって、一緒にいたらバレてしまいかもしれないから……。
俺の身体の中に≪ローレライの宝珠≫があるってことを……。





















「あっ! いた!!」

最初に声を上げ、ある方向を指差したのは、アニスだった。
アッシュの情報でバチカルにやってきたルークたちは街が騒がしいことに気付いた。
近くにいたキムラスカ兵に話を聞くと、今ここにモースがいることを知った。
一度は捕まえ連行したらしいが、隙を突かれて逃走されたらしい。
それを聞いたルークたちもモースの捜索を始めた。
そして、港へ向かうとモースの姿を見つけた。

「モース!!」
「うぬぅ! もうすぐエルドラントが浮上するというのに、掴まってたまるか!」
「モース! 潔く、ローレライ教団の査問会に出頭し、自らの罪を認めなさい!」

すぐさまモースを取り囲み、ティアがモースに杖を突きつけてそう言った。

「冗談ではない! 罪を認めるのはおまえたち、預言(スコア)を無視する愚か者だ! 私は正しい! おまえたちは、何故それがわからぬのだ!」
「――――そうですとも、モース様!」

そうモースが言葉を吐いたとき、聞き覚えのある声と共に豪華な椅子がモースの上に降りて、頭上でピタリと止まった。
長い足を組んで、薄い笑みを浮かべる男はもちろん、

「おお、ディストか!」

モースは喜びを滲ませてそう言った。
逆に、ジェイドは大袈裟に溜息をついた。

「ジェイド! 何でそこで溜息をつくのですか!!」
「つきたくもなりますよ。あなたに遭ったんですから」
「ムキーーッ! なんですかそれ!!」

ジェイドの言葉にディストは足踏みをした。

「さぁ、モース様。こんな奴らは放っておいて、エルドラントへ参りましょう」
「待て、ディスト! 私はこの場で導師の力を手に入れる!」
「よろしいのですか? エルドラントで厳かに行うほうが……」

モースの言葉にディストはそう言ったが、明らかにそれを喜んでいるように聞こえた。

「いいや! 世界のあるべき姿を見失っているこの愚か者どもに、私の新たな力を見せ付けてやるのだ!!」
「そうですか! それでは……遠慮なく!」

ディストは、笑みを浮かべるとぐるんと椅子の天地を返した。
そして、ディストはモースの額に何か石のようなものを張り付け、顔を掴んで強く押し付けた。

「ディスト、何をしているのです! まさか、その技は――」
「お黙りなさい、ジェイド! モース様は自ら望んでおられるのです。あなたに止める権利はない!!」

それを見たジェイドが言った言葉をディストは、そう言って遮った。
そして、モースの姿が見る見るうちに変わっていく。
膨れ上がり、魔物のような姿に……。

「なっ、なんだあれは……」
「私の目と同じです……」

驚いて声を上げるルークにジェイドはそう声を圧し殺したように言った。

「身体に音素(フォニム)譜陣(ふじん)を刻んで、譜術(ふじゅつ)力を上げる。ただし、あれは……第七音素(セブンスフォニム)を取り入れる譜陣(ふじん)です」
「! 第七音素(セブンスフォニム)の素養のない人がそんなものを刻みつけたら、全身の音素(フォニム)が変異するわ!!」
「それが、これですか……」

声を震わせてそう言ったティアの言葉を聞いて哀しそうにイオンはそう言った。
ルークは、もう一度モースを見た。
腐って紫色となった玉葱のような身体に短い手足と翼が生えている。 妙に口だけが大きいそれは元の面影など何処にもなかった。

『ぐふぅ……!』

海に映った自分の姿を見てモースは息を荒げた。

『ディスト! なんだ、この醜い姿は!!』
「それは第七音素(セブンスフォニム)が暴走しない為、モース様のお身体を最も相応しい形を取ろうとしているまで。ご安心ください。力は導師そのものでございますとも!」

ディストがそう言った途端、モースの周りに音素(フォニム)の渦が発生し、ルークたちを強引に下がらせた。
アニスとアリエッタがイオンを庇うのが見える。
ルークは剣を何とか振るおうとしたが、見えない壁に弾かれるように降り抜くことが出来なかった。

『……おおぉ! これは……! 確かに力がみなぎってくる! これが始祖ユリアのお力か!!』

モースの身体がふわりと上がり邪悪としか表しようがない笑みを浮かべた。

『ディスト! 私はこのままエルドラントへ向かう。おまえも後で来るがいい!!』

そう言い残すとモースは一瞬にして海の彼方へと飛び去っていった。

「人間があんな姿になるなんて……」
「素養のない者が第七音素(セブンスフォニム)を取り込めば、いずれ第七音素(セブンスフォニム)との間に拒否反応が起こり、正気を失います」

そう言ったジェイドの頭上にディストの耳障りな笑い声が落ちる。

「モースは導師の力を欲しがっていましたから、本望でしょう。まっ、私は実験さえ出来れば誰でもよかったのですが」
「おまえっ!」
「何を怒っているんですか? 私はちょっとした罰をモースに与えただけですよ」
「罰だと……?」
「アッシュを刺したことですよ……」

そう低い声でディストは言うと椅子を急上昇させ、あっという間に見えなくなってしまった。

第七音素(セブンスフォニム)を無理に扱えばどうなるか解ってディストはやったんだわ……」
「…………ああやって、体内に音素(フォニム)を取り込む技術も、私が幼い頃開発したものです」
「ジェイドが!?」

ジェイドの言葉にルークは瞠目した。

「はい」
「幼い頃って――」
「本当ですよ」
「大佐って……本当、何でも作ってますね;」

少し呆れたようにそうアニスが言うとジェイドは空を仰いだ。

「……時間を遡れるのなら、私は生まれたばかりの自分を殺しますよ。全く、迷惑なものばかり考え出してくれる」
「…………それは困る」
「?」

ジェイドの言葉ににそう言ったのはルークだった。

「その迷惑なものがなければ、俺は生きてない。そして、ここにいるイオンも……アッシュも生まれなくなる」
「…………そうですね。起こってしまったことは変えられない、か」

ルークを、イオンを見て、そして瞳の奥に映る優しい笑みを浮かべるアッシュの顔を思い出し、ジェイドは笑みを浮かべてそう言った。

「さて、モースの騒ぎで後回しになってしまいましたが、勝手に預言(スコア)を詠んでいる預言士(スコアラー)を捜さなくては」
「まだ、いると思います?」

アニスの問いにジェイドは首を振った。

「その預言士(スコアラー)がアッシュの言う通り六神将に関係しているとしたら、この騒ぎです。とっとと逃げ出したでしょう。これからどうしますか?」
「そうだな……。バチカルに来たついでに伯父上に挨拶して行くか?」
「あら、そうですわね! 参りましょう♪」

ルークの言葉にナタリアは、嬉しそうに微笑むと城へと歩き出した。
そして、ルークたちはバチカル城へと向かった。
























Rainシリーズ第9章第1譜でした!!
久しぶりの更新です。そして、いきなりルークがご機嫌斜めですww
まぁ、アッシュにフラれたから、仕方ないかもしれませんが;
次回は、インゴベルトに会いにバチカンに行きます!


H.28 12/5



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