(頼む! 間に合ってくれ!!) ザレッホ火山の中をルークたちは疾走した。 イオンを助けたいその思いを胸にただセフィロトを目指して走るのだった。 〜Shining Rain〜 「導師よ。惑星預言を詠むのだ!」 ザレッホ火山のセフィロトに着いたモースは、イオンにそう言った。 その言葉を聞いたイオンは、視線を変えた。 その先にいたのは、檻に囚われたオリバーたち。 その姿を捉えたイオンはゆっくりと譜石へと歩き出した。 「イオン様! ダメッ!!」 それを見たアニスが声を上げ、イオンに駆け寄ろうとした。 「ええいっ! うるさい!!」 そんなアニスをモースが腕を掴むとそのまま後ろへと突き飛ばした。 アニスは後ろへ尻餅をついたが、すぐに立ち上がろうとした。 だが、それはできなかった。 モースの傍にいた神託の盾兵がアニスに剣を向けたからだ。 「アニス!!」 それを見たイオンが声を上げる。 「さぁ、導師よ! アニスの命を助けたければ、預言を詠むのだ!!」 「「!!」」 モースの言葉にイオンは瞠目する。 それはアニスもだった。 自分が脅しの道具に使われるだなんて。 こんな奴ら、トクナガさえあれば、ブッ殺せるのに……。 それができない悔しさからアニスは、自然と唇を噛んでいた。 「さぁ!!」 「…………」 モースの言葉にイオンは無言で踵を返すと、再び譜石へと歩き出す。 「イオン様、ダメ!!」 必死にアニスが叫ぶ声にもイオンは耳を貸さなかった。 (どうしよう………) このままじゃ、イオン様が死んでしまう。 まだ、数年しか生きていないのに。 私のせいだ。 私のせいでイオン様が……。 一体、どうすればいいの? ――――アニスが助けて欲しいときは、絶対助けに行くから。 突如、頭に浮かんだのは夕焼けのように赤い長髪に翡翠の瞳を持つ少年の顔。 優しく自分を抱きしめて、そう彼は言ってくれたのだ。 「…………助……けて……」 誰にも聞こえないような声でアニスはそう言った。 私は、もうどうなってもいい。 だけど、イオン様だけは、助けて欲しい。 「…………アッシュ」 祈りに近い声がアニスの口から漏れたそのときだった。 「魔神拳!!」 辺りに一つの声が響き渡り、譜石目掛けて衝撃波が飛んでいった。 その衝撃波は、見事に譜石に命中し、譜石には細かいヒビが急速に走り、粉々に砕け散った。 「ああ、譜石がっ! 譜石があっ!!」 モースは、砕け散った譜石に欠片を掻き集めようと地面に這いつくばった。 「……どう……して…………?」 突如、目の前に現れた少年にアニスはそう呟いた。 「約束しただろ。アニスが助けて欲しいときは、絶対助けに行くって」 それに少年――アッシュは優しい笑みを浮かべてそう言った。 その言葉にアニスの瞳から涙が溢れ出す。 これは哀しくて泣いているのではない。 嬉しくて泣いているのだ。 こんな私の為にアッシュが来てくれたことが……。 「……これでもう、イオンに惑星預言を詠ませることはできなくなったな、モース」 「アッシュ……。貴様っ!!」 アッシュの言葉にモースの表情が一変する。 それと同時に神託の盾兵が一斉にアッシュへと武器を向けた。 それに、アッシュは顔色一つ変えることはなかった。 「アッシュ! 貴様、自分が何をしたのかわかっているのかっ!!」 「……別に預言が無くたって、人は生きていける」 「ふっ、ふざけるなっ! おまえたち!! アッシュを殺れっ!!」 モースの言葉に神託の盾兵が一気にアッシュに襲い掛かる。 「アニス! イオンたちを頼む!!」 神託の盾兵の攻撃をかわしながらアッシュは、アニスにそう言うと徐々にアニスたちから距離をとった。 今のアニスは、トクナガを持っていないから戦うことができない。 それをアッシュは、ちゃんと覚えていたからだ。 「イオン様! こっち!!」 その間にアニスは、イオンに駆け寄るとオリバーたちがいる檻へと近づいた。 そして、近くにあった石を使って檻の鍵を壊そうとした。 「アニス!!」 イオンの声に振り向いたアニスは固まった。 目の前に剣を手にしたモースが立っていた。 「アニス……。よくも、よくも裏切ってくれたな!!」 そう言ってモースは、アニスに剣を向けたが、その手は明らかに震えていた。 「許さんぞ、アニス!!」 そして、一気にモースはアニスに襲い掛かった。 「アニス!!」 辺りには、イオンの声が響き渡る。 だがその瞬間、イオンが見た光景は美しい夕焼けのような赤だった。 「…………うそ、だろ」 ザレッホ火山を抜けてセフィロトへとやってきたルークたちは、目の前に広がる光景に愕然とした。 思考がすべて停止する。 目に映る光景は、剣を手にしたモース。 そして、その剣の先は一人の人物を貫いていた。 美しい夕焼けのように赤い長髪の少年を……。 「アッシュ!!」 剣を引き抜けれたアッシュは、力なくその場に倒れた。 それを見たルークは、すぐさまアッシュの許へと駆け寄る。 「おい、しっかりしろ!!」 そして、すぐにアッシュを抱き起こすとアッシュに呼びかけた。 「……あはは……。ちょっと……失敗しちゃったな……」 その言葉にアッシュは、苦笑いを浮かべてそう言った。 神託の盾の攻撃を受け流していたあのとき、アッシュの目に映ったのは今にもアニスに襲い掛かりそうなモースだった。 そして、モースがアニスを刺そうとしたのを見た途端、必死になって走った。 アニスを庇うことに必死になりすぎて、自分が刺されてしまった。 マジで、カッコ悪い。 「アッシュ…………っ!」 そんなアッシュの笑みを見たルークは、悔しそうに唇を噛んだ。 もっと早く辿り着いていれば、アッシュがこんな目に遭うことはなかったのに。 こいつの傷つく姿なんて、見たくないのに。 いつも、あと一歩のところでそれが叶わないことが歯痒くて仕方ない。 「……わっ、私は悪くないぞ。そいつが! アッシュが突然目の前に飛び出すから――」 「ふざけるなっ!!!!」 アッシュを指差し、声を震わせてそう言ったモースの言葉をルークが遮った。 そのルークの剣幕にモースは思わず後退りをし、そして、一目散に逃げていった。 「待ちやがれっ、モース!!」 「待ちなさい、ルーク!」 すぐさまそれを追いかけようとしたルークをジェイドが腕を掴み阻止した。 「放せ、ジェイド! あいつだけは、許せねぇ!!」 「あなたの気持ちは、よくわかります。……ですが、もっと冷静になりなさい。今は何を一番すべきかを」 「!!」 ジェイドの言葉にルークは瞠目した。 そして、そのままアッシュへと視線を移した。 今のアッシュは、ぐったりとした様子だ。 今一番すべきこと。 それは、アッシュの治療だ。 その為にも、一刻も早くアッシュを安全な場所へと連れて行かなければならない。 「…………すまなかった、ジェイド」 「いえ。わかればいいんですよ」 ルークがそう言うとジェイドはすぐに手を放した。 そして、ルークたちは意識を失ったアッシュと放心状態のアニスを連れてセフィロトを後にした。 Rainシリーズ第8章第9譜でした!! なんとか、イオンの死は回避できました!! ですが、代わりにアッシュが!?(゜□゜;) 完全にモースが悪役ですww H.28 5/16 次へ |