私のせいだ。 私のせいでイオン様を危険な目に遭わせてしまった。 イオン様だけじゃない。 アッシュが刺されたのも私のせいなんだ。 みんな、私のせいなんだ。 全部、私の……。 〜Shining Rain〜 「アッシュはどうだ?」 アッシュを治療する為、ルークたちはすぐにダアトへと戻った。 入り口でトリトハイムに出会い、彼はアッシュの状態を見て驚いたが、すぐさま部屋を用意してくれた。 そして、ティアとナタリアがすぐに治療を始めた。 「傷口は塞がったから、後は安静にしてれば大丈夫だわ」 「そうか……」 ティアの言葉にルークは、安堵の表情を浮かべた。 「あら? そういえば、アニスはどうなさいまして?」 首を傾げてそう言うナタリアの言葉にルークは辺りを見渡した。 さっきまでそこにいたアニスの姿は何処にもなかった。 「……おい、ルーク?」 突如、歩き出したルークにガイは、困惑したような声で呼びかけた。 「…………ちょっと、一人で出歩いてくる」 そう言い残すとルークは、ガイたちから離れていった。 (…………いた) 教会内を歩き、礼拝堂へと足を踏み入れたルークは、一つの人影を見つけた。 広い礼拝堂の隅っこでしゃがみ込んだアニスの姿を……。 「アニス……」 「!!」 その背中に声をかけるとアニスの肩がビクッと震えた。 「ル、ルーク……」 「こんなところにいたのか。捜したぞ」 「…………」 ルークの言葉にアニスは、黙り込んだ。 「さぁ、戻るぞ。みんなも心配してる」 「…………戻れるわけないじゃん! みんなを騙してたんだよっ!」 「だが、それは仕方なかったことだろ。オリバーさんたちを人質に取られたから……」 「違うの!」 ルークの言葉をアニスは遮った。 「……私、最初からイオン様を騙してた。モースにイオン様のすること全部、連絡しろって言われてて……ずっと、報告してたの。戦争止めようとしてたことも、ルークたちと一緒にいたことも……全部!!」 「!!」 「だからっ! タルタロスが襲われたのも、六神将が待ち伏せしてたのも、私のせいなんだよっ! 全部、私のっ!!」 「それも……オリバーさんたちを盾にされてたからじゃないのか?」 ルークの言葉にアニスが自嘲の笑みを浮かべた。 「……パパたち、人がいいでよ? 私がうんと小さい頃、騙されて物凄い借金作っちゃったんだ。それをモースが肩代わりしたの。だから、パパたちは教会でタダ働き同然で暮らしてたし、私も……モースの命令に逆らえなかった……」 「…………」 「……全部、私のせいなのっ! 私のせいでイオン様は死にそうになったのっ! しかも、アッシュまで……。あのとき、私がモースに刺されて死ねばよかったのにっ!!」 「…………何、ふざけたこと言ってやがんだ」 アニスの言葉を聞いたルークは静かにそう言った。 「自分が死ねばよかっただと? それは、アッシュの行動が無駄だったと言ってることと同じなんだぞ! おまえは、アッシュから守られるくらい価値があるんだ。だから……もっと、自分に自信を持て、アニス」 「……だっ、だけどっ……」 「――――人は何度だって、やり直すことが出来る」 「!!」 突如、響いた声にアニスが顔を上げる。 「自分の過ちに気付いたそのときから、やり直すことが出来るんだよ。アニス」 アニスの許にゆっくりと近づいたのは、夕焼けのように赤い長髪に翡翠の瞳を持つ少年だ。 「…………アッシュ」 「アニス。今まで独りで、偉かったな」 「っ!!」 アニスに笑みを浮かべるとアッシュは、ぽんとアニスの頭に手を置いて優しく撫でた。 「でも、もう大丈夫だから。……俺たちが傍にいるからな」 「……っ! …………アッシュ!!」 それまで堪えていたものが一気に溢れ出す。 誰にも頼ることが出来なかった辛さ。 大切な人たちを騙し続けていた罪悪感。 その全てが涙となって溢れ出す。 泣きじゃくるアニスをアッシュが、優しく抱き締める。 そして、アッシュは優しい笑みをルークへと向けた。 そして、暫くするとアニスは恥ずかし気にアッシュから押しやるようにして離れた。 「さぁ、みんなのところへ戻ろう」 「…………うん」 アッシュの言葉にアニスは素直に頷いた。 それにアッシュは、嬉しそうに笑うとアニスの手を取り歩き出す。 「ほら! ルークも行くよ!!」 「あ、ああ……」 アッシュの笑みに何処か拍子が抜けつつ、ルークは頷く。 そして、三人はティアたちの許へと向かった。 パン! 乾いたその音が響いたのは、アッシュたちがティアたちのいる部屋へと戻ったすぐだった。 アニスが部屋に入った途端、アリエッタがアニスに思いっきり平手打ちをしたのだ。 アニスの頬は、見る見るうちに赤くなっていった。 「アリエッタ! いきなり、叩くことないだろ!!」 「兄さまは、黙ってて!!!」 アッシュの言葉にアリエッタは、はっきりとそう言い、アッシュは思わず怯んだ。 「…………アニス。自分が何したのか、わかってるの!」 「…………」 アリエッタの言葉にアニスは、黙ったままだった。 「アニスのせいでイオン様は死にそうになった。イオン様だけじゃない! 兄さままで……」 「アッ、アリエッタ、それは――」 「だから、殴ったです! ……それだけですんで、よかったと思うです!!」 「「えっ?」」 アリエッタの言葉にアニスとアッシュは目を丸くした。 「アリエッタ。それって……アニスを許すってこと?」 「アリエッタだって……アニスと同じ立場だったらきっと……同じことをしたと思う、です。だから……これで許す、です!」 「アリエッタ……」 アリエッタの言葉にアニスは、目頭が熱くなるのがわかった。 「アニス……」 その声にアニスは振り返るとそこにはイオンの姿があった。 「イオン様……その……」 「アニス、すみませんでした」 「! どっ、どうして、イオン様が謝るんです!?」 突然、イオンが謝ったことにアニスは慌てた。 「僕のせいでアニスには、辛い思いをさせてしまいました」 「そっ、そんな! 悪いのは私で、イオン様じゃ――」 「いえ、僕も悪いんです。僕は全部、わかってたんです」 「!?」 意外なイオンの言葉にアニスは耳を疑った。 「アニスが何をしているのか分かっていて、僕は黙っていたんです」 「どっ、どうして…………?」 「アニスとずっと一緒にいたかったからです」 「っ!!」 優しいイオンの笑みにアニスの瞳からまた涙が溢れ出す。 「だから、もう独りで苦しんだりしないでくださいね、アニス」 「…………はっ、はい……っ!」 イオンの言葉にアニスは、それ以上言葉が出なかった。 何もかも知っていてイオン様は、いつも私に優しい笑みを浮かべていてくれた。 本当に、この人を失わないでよかった……。 「…………ちょっと、いいか?」 話が一段落したのを見計らってから、そうアッシュは口を開いた。 「イオン、アニスそれに、アリエッタ。……ちょっと、俺に付き合ってくれないか?」 「「「えっ?」」」 アッシュの言葉に三人は、不思議そうに首を傾げた。 「…………三人に見せたいものがあるんだ」 Rainシリーズ第8章第10譜でした!! はい。これで漸くアニスも救われました。よかったね、アニス。イオン様も死なずに済んだし♪ イオン様も死なず済んだおかげで、自動的にアリエッタとの戦闘も回避! ビンタ一つですべてを許すアリエッタは、さすがです。さてさて、アッシュが3人に何を見せたいのやら。 H.28 7/13 次へ |