「…………よかったのか? 俺たちも一緒で?」 「嫌だって言っても、何人かはついてくると思ってたし」 「当たり前ですわ!!」 ルークとアッシュの会話にナタリアが割り込んだ。 「アッシュ! あなたは、わたくしたちが治癒譜術を使ったらから、今そうしていられますのよ! 本当は、もう少し休まなければいけませんのにっ!!」 「だっ、だから、もう大丈夫だって;」 ナタリアの強い口調にアッシュは、思わず後退りをした。 アッシュはイオン、アニス、アリエッタに見せたいものがあると言った。 一体、それは何なんだ? 〜Shining Rain〜 「ここって…………?」 アッシュの連れてきた場所にルークたちは困惑した。 それはイオンの部屋へと続く譜陣がある場所だ。 「アッシュ。私たちを見せたいものってイオン様の部屋にあるの?」 アニスの問いにアッシュは首を振った。 「いや……。確かにこの譜陣はイオンの部屋に通じているけど、別の部屋にも通じているんだ」 「そうなんですか。僕、初めて知りました」 「うん。それを知ってるのは、俺と……ヴァンだけだからさ」 驚いてそう言うイオンにアッシュは、そう言うと譜陣へと乗った。 それに続いてルークたちも譜陣へと乗った。 全員が譜陣へと乗ったのをアッシュは確認すると小さく息を吸った。 「――――誰も知らない、魂の眠る場所」 そうアッシュが言うと譜陣は淡い光を放つのだった。 「ここは…………?」 次の瞬間、ルークたちは、薄暗い空間へと移っていた。 そんな中、アッシュは迷うことなく真っ直ぐ奥へと進んでいく。 その後をルークたちも続いて歩く。 そして、目の前に一ヶ所だけ光が差し込む場所を見つけた。 光が差し込むその場所には、一つの石碑らしきものがあった。 「!!」 その石碑を見た途端、アリエッタが息を呑んだのがわかった。 その石碑には、文字が刻まれていた。 『被験者イオン ここに眠る』と……。 「イオン……様……」 そう言ったアリエッタの声は、ひどく震えていた。 そんなアリエッタの声を聞きながら、アッシュは石碑の前にしゃがみ込んだ。 「久しぶり、イオン。……と言っても、この前ここに来たばっかりだったけどさ」 そして、石碑に向かってそう語り始めた。 「…………ごめんな。俺、おまえとの約束、破っちゃった」 イオンが必死に隠そうとしていたことを隠し通すことは出来なかった。 「けど、本当はこれでよかったと思ってる。おまえを……こんなところに一人ぼっちにしたくなかったし……」 もう、俺がここへ来れるのは、後僅かな時間だけだ。 そしたら、彼はここで一人ぼっちになってしまう。 誰にも知られることなく、ずっと……。 それだけは、避けてあげたかったのだ。 「……イオン……様……」 アリエッタがゆっくりとアッシュの隣へと近づいた。 そして、そっと石碑へと手を伸ばす。 触れた石碑は、ひんやりとして冷たかった。 「……ずっと……ここにいたんですね」 アリエッタの知っているイオン様は、ずっとここにいたのだ。 ずっと、独りで……。 「イオン様、ごめんなさい、です。アリエッタ、本当はわかってたのに気付かないフリしてたです」 自分を傷付けたくないから、気付かないフリをしてた。 でも、そのせいで兄さまやイオン様に辛い思いをさせていたのだ。 それに、何よりあなたが生きた証を消し去ろうとしてしまった。 それは一番やっていけないことなのに……。 「アリエッタ……」 イオンの声にアリエッタは笑みを浮かべ、再び石碑へと目を向けた。 「……アリエッタは、イオン様と過ごした時間を忘れないです。それが、イオン様が生きた証だから……」 もう、あなたとイオン様、そしてシンクと見間違えることはない。 絶対に……。 「…………僕は、ずっとあなたのことが嫌いでした」 「イオン様………?」 そう呟いたイオンのことをアニスとアリエッタは、驚いたように見つめた。 それは、アッシュも同じだった。 「周りの人間はずっと、あなたと僕を比べていた。同じではない僕を白い目で見る人もいました」 だから、出来るだけ自分を持たぬように生きてきた。 「……ですが、アッシュやみんなと出会って僕は変わることが出来た。僕は僕だと言ってもらえることがこんなに嬉しいことだと思えるようになったんです」 「イオンはイオンだ」と優しい笑みを浮かべてアッシュが、そう言ってくれたことが嬉しかった。 「ですから、今はあなたに感謝しています。あなたがいたから僕は生まれることが出来た。そして、アッシュやみんなと出会うことが出来たから……」 「イオン様……」 イオンの言葉を聞いたアニスは、何を決心したように一歩前へと踏み出した。 「……私は……あなたのこと、全然わからない。私の知っているイオン様は、隣にいるイオン様だけだから…………」 そして、ゆっくりと石碑に語り始めた。 「でも、あなたがいたから私は、イオン様と出会うことが出来ました。だから……ありがとうございます」 あなたのおかげで大切な人と出会えた。 絶対に失いたくない人と……。 「…………」 そんなイオンたちのやり取りをアッシュは、無言で見つめていた。 石碑へと騙るイオンたちの表情を見れば何も言うことなどない。 それぞれの思いに決着をつけた彼らの表情を見えれば……。 「ティア……」 アッシュは、すうっと立ち上がるとティアへと視線を向けた。 「譜歌を……大譜歌をここで歌ってくれないか?」 「えっ?」 突然のアッシュの言葉にティアは、驚いたように目を丸くした。 「あいつにも聴かせてやりたいんだ。ユリアの譜歌を……ダメかな?」 「そっ、そんなことはないけど……まだ、途中までしか歌えないけど?」 「うん。ティアが歌えるところまででいいからさ」 「…………わかったわ」 アッシュの言葉にティアは頷いた。 そして、ゆっくりと息を吸って、譜歌を歌った。 辺りに美しい旋律が流れる。 「!!」 すると、突如ティアの口から美しい旋律が止まった。 「ティア、どうかしまして?」 それを不思議に思ったナタリアが問いかける。 「…………今、何だか譜歌のわからなかった部分がわかった気がしたの」 「本当か!?」 「ええ……たぶんだけど」 驚くルークにティアは、頷いてそう言った。 (よかった……) これでまた一歩、大譜歌の完成に近づいた。 ローレライの開放に必要な大譜歌の完成が……。 (ありがとう、イオン……) 石碑へと目を向けたアッシュは、心の中でそう言った。 「兄さま……」 「? どうした、アリエッタ?」 アリエッタに裾を引っ張られたアッシュは、その方向にいるアリエッタを見た。 「あの……また、ここに来てもいいですか? イオン様に会いに」 「うん、そうしてあげて。そのほうがイオンも寂しくないと思うから」 「はいです! また、ここに来ます!!」 アッシュの言葉にアリエッタは、嬉しそうに笑ってそう言った。 「……では、そろそろ戻りますか?」 「うん、そうだね」 それまで静かにことの成り行きを見守っていたジェイドが、そう口を開いた。 それにアッシュは、同意するように頷いた。 まだ、やるべきことはたくさんあるのだ。 「んじゃぁ、戻るか」 そう言ってガイたちは、来た道を戻り始めた。 アッシュもその後ろに続いて歩き出そうとした。 そのとき、小さな風がアッシュの髪をなびかせた。 決して風が吹くことのないこの空間で……。 ――――…………アッシュ……ありがとう……。 「!?」 そして、何処からともなく一つの声がアッシュの耳に届いた。 それに驚いたアッシュは振り返り、石碑を見た。 だが、石碑には誰もいなかった。 「アッシュ? どうかしたか?」 「あっ、ううん。……なんでもない」 ガイの声にアッシュは、首を振ってそう言った。 そして、今度こそルークたちの許へと歩き出したのだった。 Rainシリーズ第8章第11譜でした!! はい。ここで、アッシュが独り謎の行動をとっていた理由が漸く明かせました。 ダアトへ来る度に、アッシュは必ずここに顔を見せに来てたんですよね。 これで、イオン・アニス・アリエッタそれぞれが被験者イオンと本当の意味で向き合うことができたかと。 そして、今回で第八章は、完結となり、次回からは第九章へ突入します!! H.28 7/13 第九章へ |