守りたい。
大切な人を……。
失いたくないんだ。
もう、見たくないんだ。
彼が消えていくのを……。
だから、今度こそ守るんだ。
絶対に…………。






〜Shining Rain〜








「私、イオン様を探してくる!」

イオンの部屋にやってきたルークたちだったが、そこには肝心のイオンの姿は何処にもなかった。
それを見たアニスが部屋を飛び出したのは数分前のことだ。

「皆さん、お久しぶりです!」

すると、部屋の扉が開き、そこからイオンが現れた。
だが、そこにアニスの姿はなかった。

「イオン、アニスはどうした?」
「えっ? 先にルークたちのところへ戻るって言ってましたが……」
「来てないが?」
「おかしいですね……」

そう言ってイオンが首を傾げたそのときだった。

「イオン様! 大変です!!」

部屋の扉が乱暴に開いて、アニスがツインテールの髪を振り乱して飛んで来た。

「アニス、何処へ行ってたんです?」

イオンの問いに、アニスは拳を握った腕を上下させる。

「それが、外が大変なんです!」
「外が……どうしたんです?」
「だから! 障気がバーンと出てきてマジヤバですって!!」
「障気だと!?」

アニスに言葉にルークは瞠目した。

「また障気が出てくるなんて、一体どうなってるんだ!?」
「障気は消滅したわけではありませんからね。漏れ出てくる可能性はゼロではありませんでしたが……しかし、偶発的なものとは思えませんね」

ガイの言葉にジェイドは、少しも慌てていないような口振りでそう言った。

「いいから、イオン様! 来てください!!」

アニスはイオンの腕を掴むと、止める間もなく部屋を飛び出していった。

「俺たちも行くぞ」

ルークがそう言うとティアたちは頷き、部屋を出て譜陣(ふじん)に乗った。
そして、周囲の変化に気付き、ほとんど反射的に腰にある剣の柄に手をかけようとした。
だが、

「動くな!」

鋭いその声にルークの動きが止まる。

(何だ……?)

辺りを素早く見渡すと神託の盾(オラクル)兵に囲まれていた。

「大人しくしてもらおう」

聞き覚えのある声と共に人垣から現れたのは、最早見慣れた女の姿。

「リグレット教官……」
「何の真似だ?」

驚くティアの声を聞きつつ、ルークは≪魔弾のリグレット≫を睨みつけた。
譜業銃(ふごうじゅう)の銃口は今は下を向いているが、いつでもこちらに向けられてもおかしくない。

「答えろ!!」
「今、おまえたちに動かれては迷惑なのだ。それに……」

銃が持ち上げられ、それが自分へと突きつけられたのが解った。

「おまえの腰にあるそれは、≪ローレライの鍵≫の一つだろう? それについて、聞きたいことがある。大人しくしてもらおう」
「くっ!」

思わずルークは唇を噛んだ。
断るなどとは言えないだろう。
ティアたちもルークに銃口が突きつけられているせいで身動きが取れない。
ここは大人しく従うしかない、そう思ったそのときだった。

「!?」

突如、扉が開いてライガが飛び込んできた。
それによって、リグレットから隙が生まれ、銃口がルークから離れる。
脇から伸びたティアの指の間に、投げたナイフが煌いた。
それは完全にリグレットを捉えたはずだったが、彼女は僅かに身体を捻っただけでそれをかわした。

「今よ!!」

そのティアの言葉にルークたちは一斉に駆け出した。

「待て!!」

それを阻止しようとリグレットはしたが彼女の前にライガが立ち塞がり、遮った。

「早くっ! 図書室へ行く、ですっ!!」
「図書室だと?」

走りながらそう言ったアリエッタの言葉にルークは不思議そうな顔をした。

「イオン様はアニスが、ここの教会のセフィロトに連れてったの! ……イオン様に、第七譜石(だいななふせき)預言(スコア)を詠み直させるつもりなんです!!」
「アニスが!?」

アリエッタの言葉にガイが驚きの声を上げる。

「ルーク! とにかく、例の隠し通路へ行きましょう」
「ああ、わかった!」

ジェイドの言葉に頷いたルークは図書室へと向かった。
そこにザレッホ火山のそこのセフィロトに続く隠し扉があるのだ。
扉を掻い潜り、書架を回ると隠し扉に今にも消えようとしている人々が目に飛び込んできた。
そこにはイオンとアニス、そして数人の神託の盾(オラクル)兵を引き連れたモースの姿があった。

「………これは、一体どういうことなんだ、アニス!」
「……そっ、それは…………っ!」

ルークの言葉にアニスは俯いて唇を噛んだ。
モースは、アニスを突き飛ばすようにして、ルークたちへと押しやった。

「リグレットめ、こんなガキどもすら足止めできんとは! アニス! ここは任せたぞ! 裏切ればオリバーたちのこと、わかっているな!?」
「っ!!」

モースの言葉にビクッとアニスは震えると、背中のトクナガに手を伸ばした。
アニスの思わぬ行動にルークたちの足が止まる。
その隙に、モースがイオンを連れて隠し通路に消えた。

「おい、アニス! オリバーさんたちがどうしたって言うんだ!!」
「うっ、うるさいな! 私はもともと、モース様にイオン様のことを連絡するのが仕事なの!!」

ガイの言葉にアニスはそう言うと、トクナガを巨大化させることなく、ルークたち目掛けて投げつけた。
そして、モースたちを追って隠し通路の奥へと消えて行った。

「待ちなさいっ!」

ジェイドの言葉にも、アニスは耳を貸さなかった。
慌てて後を追ったが、後一歩というところでアニスは譜陣(ふじん)に乗って消えた。
その上、ルークたちが譜陣(ふじん)に乗っても、何の変化も起こらなかった。

「駄目ですね。反応しません」
「他にセフィロトへ行く方法はないんでしょうか?」

ジェイドとティアの会話を聞きながら、ルークは受け止めたトクナガを見下ろした。
すると、トクナガが何か持っていることに気付く。
爪の間から外してみると、それは手紙だった。
開いたルークは思わず瞠目した。

『ザレッホ火山の噴火口からセフィロトへ繋がる道あり。ごめんなさい』

そう書かれていたからだ。

「アニスからですわね?」

いつの間にか覗き込んでいたナタリアがそう言った。

「それにしても、モースのあの口振りからだと、まさかご両親を人質に取られているのでは?」
「…………アニスのママとパパは、モースに捕まってる、です……」

ナタリアの言葉に小さくそうアリエッタは呟いた。

「アリエッタ。あなたは、全てを知っていたんですか?」
「……兄さまに、教えてもらった、です。アニスはモースに脅されてるって……」
「なるほど、アッシュですか……」

アリエッタの言葉にジェイドは、納得したようにそう言った。

「とにかく、今はザレッホ火山へ向かいましょう。イオン様はレプリカです。惑星預言(プラネットスコア)を詠めばその瞬間に、体内の第七音素(セブンスフォニム)が尽きて、亡くなられてしまうでしょう」
「! ……そんなこと、させるかよっ!!」
「ええ。急ぎましょうっ!」

ルークの言葉にティアたちは頷くと、急いでザレッホ火山へと向かうのだった。
























Rainシリーズ第8章第8譜でした!!
久しぶりの更新です。
ついにアニスが裏切りましたね。
果たして、ルークたちはイオンを救えるのか!?


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