「……ナタリア。城に戻っているだろうか?」

バチカルへと戻ったルークは広場の先に聳え建つ、空を突くようなバチカル城を見上げてそう呟いた。

「呼びまして?」

その途端、背中から明らかに機嫌の悪い少女の声が聞こえた。
驚いて振り返ると、そこにはナタリアが不機嫌そうな表情を浮かべて立っていた。






〜Shining Rain〜








「おまえ、何でここに……?」

驚いたようにルークはナタリアに歩み寄った。
ナタリアの後ろには武装したキムラスカ兵がいた。
彼らは皆厳しい表情をしていて、中には明らかにジェイドを睨みつけている兵士もいた。

「ケセドニアの視察を終えて戻ったところですわ」

そう言うとナタリアは、一人の兵士に指示を送った。
兵士はそれに少し躊躇いを見せたが、ナタリアが無言で兵士を見つめた。
それを見た兵士は苦渋の表情を浮かべると、ジェイドを再び睨んだ後、他の兵士を引き連れて先に城へと戻っていった。
それを見届けた後でナタリアは、ルークたちに向き直るとカツッと踵を鳴らして前に出た。
そして、ルークが止める間もなくナタリアは、ジェイドの胸倉を素早く掴んだ。

「相変わらず涼しい顔で! どういうことですの!? 我がキムラスカ王国は平和条約に基づき、マルクト軍に対して軍事活動を起こしていませんのよ!?」
「ああ、やはりそうでしたか♪」

ジェイドはそれに全く動じることなく、笑みを浮かべてそう言った。

「やはりどうでしたか、ではありません! ケセドニアでは、まるでこちらが悪事を働いたと言わんばかりに白い目で見られ、屈辱でしたわ! アレはマルクト軍の示威行動ですの!?」
「ナタリア。俺たちはその話をしたくて来たんだ。非公式に陛下に取り次いでくれないか?」
「…………よろしいですわ」

ルークの言葉にナタリアは、少し考え込むとジェイドを軽く突き飛ばすように手を放した。

「お父様のお部屋で、詳しい話を伺いましょう」
「助かる」

ルークの言葉にナタリアは答えることもなく、彼らを押し退けるようにして城へと向かっていった。
その後をルークたちは追いかけるのだった。





















ルークたちがインゴベルトと謁見している丁度その頃、イオンは図書室から部屋に戻ろうとしていた。

「…………アッシュ?」

すると、通路の中央にある譜陣(ふじん)から突如アッシュが現れた。
アッシュは、何事もなかったかのように歩き出そうとしたが、その途端イオンと目が合った。

「! イオン……!?」

アッシュは心底驚いているようにそう言った。
そして、逃げるようにその場から立ち去ろうとした。

「まっ、待ってください! アッシュ!!」

イオンの横をすり抜けようとしたアッシュの腕をイオンは咄嗟に掴んでそう言った。
それに、アッシュは立ち止まる。

「久しぶりですね、アッシュ」
「…………」

イオンの言葉にアッシュは何も答えなかった。
それに対してイオンは、少し寂しそうに笑った。

「アッシュ。少しお時間いただけますか? あなたとお話がしたいんです」
「…………わかった」

イオンの言葉にアッシュは、少し戸惑ったような表情を浮かべたが、頷いた。

「では、僕の部屋に行きましょう。そこでいいですか?」
「あぁ。そのほうがいいだろう」

アッシュの言葉を聞いたイオンは、笑みを浮かべると再び部屋へと向かった。





















「どうぞ、そこに座ってください」

部屋へと着いたイオンはアッシュのそう促した。
アッシュは、素直にそれに従い腰を下す。
イオンはアッシュと向かい合って座った。
暫く、部屋には沈黙が流れる。
何から話していいのかわからなくなった。

「…………元気だったか?」

その沈黙を破ったのはアッシュだった。

「はい。あの旅以来、ダアト式譜術(しきふじゅつ)を使う機会がないので」
「そっか。……よかった」

イオンの言葉にアッシュは、安堵の表情を浮かべた。

「……ルークたちがアッシュを捜してましたよ?」
「知ってる。ついさっき、ルークたちから逃げてきたし」

アッシュは、苦笑雑じりでそう答えた。

「どうしてですか? みなさんあなたのことを心配してましたよ?」
「………まだ、やらなきゃならないことがあるんだ」

イオンの問いに少しアッシュは、困ったようにそう言った。

「それは……独りじゃないと出来ないんですか?」

困っているなら、頼って欲しい。
独りで悩まないで欲しい。

「うん。……これは、俺独りじゃないと出来ないんだ」

ルークたちと一緒にだとダメなんだ。
そうじゃないと助けられない。
大切な人を……。

「でも、それさえ終わったら、ルークたちのところへ行こうと思ってるんだ。たぶん、怒られると思うけど」

特に、ジェイドが。
顔は笑っていても目は笑ってないのが怖すぎるのだ。

「そうですか」
「だから……。ルークたちには、ここに来たことは内緒にしてくれないか?」
「えっ? でも……」

アッシュの頼みにイオンは困惑した。

「頼む! ……な?」
「……わかりました。ルークたちには黙っておきます」

あまりにも必死なアッシュを見てイオンは仕方なく同意した。

「ありがとう、イオン!」

それを訊いたアッシュは、嬉しそうに笑ってそう言った。
久しぶりだった。
アッシュがこんなにも嬉しそうな顔で笑うのを見たのは……。
その笑みにつられてイオンも笑みを浮かべた。

「……じゃぁ、俺そろそろ行くわ」
「………もうですか?」

立ち上がったアッシュにイオンは寂しそうな表情でそう言った。

「うん……。また来るよ」

そう笑みを浮かべて言うと、アッシュはイオンの部屋から立ち去った。





















「ねぇ………本当にダアトに行くの?」

インゴベルトの謁見を終え、アニスは不安そうにそう言った。

「そのほうがいいと思うわ。兄さんが生きている可能性があることも、イオン様に知らせたほうがいいでしょうし」
「それは手紙で知らせてあるよ。だから……やめない?」

ティアの言葉にアニスは、少し戸惑ったようにそう言った。

「何だ? 帰りたくないのか?」
「……そうじゃないけどさ」

ルークがそう訊くと、アニスは慌てたように首を振ってそう言った。

「だったら、ダアトに行くぞ。ナタリアの言う通り、何らかの基準は必要だ」
「…………」

アニスは俯いたが、これ以上反対するつもりはないようだ。

「ん? そういや、アリエッタは何処に行ったんだ?」

すると、近くにアリエッタの姿がないことにガイが気付いた。

「そういえば、何処に行ったのかしら?」
「困りましたねぇ。今すぐダアトに向かいたいのですがねぇ」

そんな会話をしていると何処からともなくアリエッタがルークたちの許へと歩み寄ってきた。

「ちょっと、アリエッタ! 何処に行ってたのよ!!」
「ちょっと……友達に会ってた、です……」
「友達? 友達って……魔物か?」

「はい…………」
ガイがそう訊くとアリエッタは頷いた。

「ちょっと、アリエッタ! もうちょっと考えて行動してよね!!」
「アッ、アリエッタだって色々と用事があるんだもんっ!」
「用事って何よ?」
「そっ、それは……言えない、です」
「だったら、意味ないじゃん!!」
「うっ……アニスのいじわるっ!!」

アニスの言葉にアリエッタは、今にも泣き出してしまいそうな表情でそう言った。

「アニス、それは言い過ぎよ」
「そうですわよ、アニス」
「ぶ〜〜〜っ!」

ティアとナタリアにそう言われたアニス、は不満そうに頬を膨らませた。

「まぁまぁ、とにかくダアトに向かおうぜ。な?」
「そうですね。あまり時間もありませんし」

場を和ませる意味でガイがそう言うのにジェイドも同意した。

「あぁ。そうだな。急ごう」

それをまとめるようにルークが言うと皆頷き、ダアトへと向かうのだった。
























Rainシリーズ第8章第7譜でした!!
こちらも久しぶりの更新ですね;
今回は、バチカルでのナタリアとの再会とダアトでのイオンとの再会となりました。
それにしても、アッシュはダアトの何処に行っていたのだろうか?


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