「……つれていく。……あの方の許へ……つれて……いく……」
「……悪いけど俺、捕まる気全然ないからっ!」

アッシュは、ニッと笑うとレプリカ兵へと駆け出した。






〜Shining Rain〜








「くっ……!」

アッシュは、予想外にもレプリカ兵に苦戦した。
俺の事をを何としてでもヴァンの許へ連れて行こうという意思の為か、アッシュがいくら倒しても彼らは起き上がってくる。
そして、何より数が多過ぎるのだ。
彼らはそうやってアッシュの体力を奪っていく作戦のようだ。
それがわかっていているのに何も対策を打つことだ出来ない。
このままでは本当に捕まってしまう。
自然と唇を噛んだ。
この状況を回避するには唯一つだけ。
だが、それをするにはあまりにもリスクが大き過ぎる。
でも、それを躊躇っている時間などないのだ。
覚悟を決めたアッシュは、己の体内の音素(フォニム)を高めた。

「響け! 集え! 全てを滅する刃と化せっ! ――――ロスト・フォン・ドライブ!!」

そして、一気に音素(フォニム)を放出した。





















「!?」
「どうした、ルーク?」

突如、動きが止まったルークを見てガイは不思議そうに尋ねた。
だが、ガイの言葉にルークは、反応しなかった。

「ルーク!!」
「!!」

さっきより大きな声でそう叫ぶと、ルークはハッとした表情をした。

「ルーク、どうしたんですか?」
「…………べつに、何でもない」
「何でもないって……とてもそんな風には見えないんですけどぉ?」
「…………」

鋭いアニスの指摘にルークは何も言えなくなった。

「おや? 皆さん、何故ここに?」

聞き覚えのあるその声に振り返ると、そこにいたのは血のように赤い瞳の男だった。

「ジェイド! おまえこそ、何でここに?」
「私は元帥に用事がありましてね。……ですが、それも後回しになりそうですけど」
「何かあったんですか?」

ジェイドの言葉にティアはそう言った。

「…………つい先程、ケセドニア地方に大量の第七音素(セブンスフォニム)が放出され、超振動(ちょうしんどう)が起こったようです」
「「「「!?」」」」

ジェイドの言葉にティアは瞠目した。

「ルーク。何かご存知ですか?」
「……なんで、俺に訊く?」
「あなたの表情を見る限り、何か知っているかと思いまして♪」

笑みを浮かべてそう言ったジェイドにルークは眉を顰めた。
そして、溜息をつく。

「……ジェイドの想像通りだ」
「やはり、そうですか……」
「どういうことですか?」

二人の会話についていけてないティアたちは首を傾げた。

「…………あいつが超振動(ちょうしんどう)を起こしたんだよ」
「うそ!? アッシュが!?」
「でも、どうして兄さまが超振動(ちょうしんどう)を?」
「それは、本人に聞いてみないとわかりませんよ」

アリエッタの言葉にジェイドは肩を竦めてそう言った。

「……しかし、ケセドニアには、丁度マルクト軍が演習に出ています。もしかしたら……」
「マルクト軍に何かあった……か?」
「なくは、ないかもしれませんね」

ガイの言葉にジェイドは真剣な面持ちでそう答えた。

「とにかく、一度ケセドニアに行ってみましょう。第七音素(セブンスフォニム)が放出された正確な場所は、ルーク。……わかりますよね?」
「……ああ」

ジェイドの言葉にルークは頷く。
さっき感じたものは、アッシュから感じたもの。
アッシュから大量の第七音素(セブンスフォニム)が放出された。
つまり、アッシュが何らかの理由で超振動(ちょうしんどう)を発動させたということだ。
それによって、ルークはアッシュの居場所がはっきりとわかった。

「では、急ぎましょうか」

ジェイドの言葉にルークたちは頷くと、ケセドニアへと急いだ。





















「ハァ……ハァ……」

砂漠の中に人影が一つだけある。
超振動(ちょうしんどう)を発動させたアッシュは、肩で息をしていた。
砂漠に己の剣を突き立ててそれで何とか身体を支えている。

「っ! ……やっぱり、きついなぁ…………」

額から止め処なく流れ落ちる己の汗を見てアッシュは、ポツリと呟いた。
いつもだったら、ここで一つの人影が現れる。
自分と同じ翡翠の瞳と燃える上がるような炎のように紅い長髪の彼が……。
『無茶をするな!』と俺を思って怒鳴るのだ。
だが、今は、ローレライが俺の前に現れることはない。
ローレライは、ヴァンの身体の中に取り込まれているから……。
いつもの怒鳴り声が聞こえないとちょっと淋しい。
そんなことを考えているうちにも、強い日差しがアッシュから体力を奪っていく。
このままここにいたら、本当に倒れてしまうだろう。
そう思ったアッシュは、この場から立ち去ろうと身体に力を入れた。

「動くなっ!」

そのとき、一つの声によってアッシュの動きが止まった。
背後から聞こえたその声にアッシュは、聞き覚えがあった。

「…………久しぶりだね」
「動くなと言ったはずだが?」
「顔ぐらい見たっていいじゃん」
「…………」

緊張感の欠片もないアッシュの声に彼女の青い瞳が少し呆れたように揺れた。

「…………アッシュよ。もう少し自分の立場を理解した方がいいと思うが;」
「あっ! それ、前にディストにも言われた気がする;」

リグレットの言葉にアッシュは、思わず苦笑した。

「……アッシュ、悪いが大人しく閣下の許へ来てもらおう」
「悪いけど、俺をヴァンのところに連れて行っても望みのものは、手に入らないと思うよ?」

今、ヴァンが俺に求めているのは、≪ローレライの鍵≫だ。
だが、俺はそれを持っていない。
いや、持っていることは持っているのだが、予想外のトラブルが起こったのだった。
ローレライから≪ローレライの宝珠≫を受け取ったとき、コンタミネーションの影響で誤って身体の奥に取り込んでしまったのだ。
何度取り除こうと試みたが、ダメだった。
コンタミネーションは、完全に修得したと思っていたのに、迂闊だった。

「……劣化している俺は、やっぱ出来損ないなんだ」
「そんなことはない!」

アッシュの言葉にリグレットは悲痛な面持ちでそう言った。

「新しい世界を創造する為には、アッシュの力が必要なんだ」
「……世界はもう、預言(スコア)から解き放たれている。逆にヴァンの計画を進めれば、世界は滅ぶ。……本当はそれをわかってるんじゃないの?」
「完全に預言(スコア)を消さなければ、人は預言(スコア)に囚われたままだ」
「…………俺から見たら、本当に預言(スコア)に囚われているのは、リグレットたち方だと思うよ」
「!?」

アッシュの言葉にリグレットは瞠目した。

「……例えそうだとしても、私は自分が信じた道を進むだけだ」

リグレットの言葉にアッシュは、残念そうな表情を浮かべた。

「そう……。だったら、俺も同じだよ」
「抵抗するのか? そんな身体で私とまともにやりあえると思っているのか?」
「…………っ!!」

リグレットの言う通りだ。
本来だったら、彼女と互角にやりあえただろう。
だが、今の俺は立っているだけでもやっとの状態だ。
やりあって勝てるわけがない。
そう思ったそのとき、突如足に力が入らなくなり、アッシュは膝をついた。

「さぁ、大人しく閣下の許へ…………っ!!」

そうリグレットが言ったそのときだった。
突如、アッシュとリグレットの間に衝撃波が走った。
リグレットはそれを避ける為、後ろに飛び退いた。
衝撃波が飛んできた方向を見たアッシュは瞠目した。
そこにいたのは、燃え上がる炎を思わせるような赤い長髪に翡翠の瞳の少年。
誰よりも逢いたくて、逢ってはいけない思っていた彼が……。

「…………ルーク」

アッシュは、小さな声で彼の名前を呟いた。
























Rainシリーズ第8章第5譜でした!!
こちらのシリーズも久々に更新しました!
相変わらず、アッシュは無茶をする子ですね;
だが、そのピンチの彼らは、すかさずやってくるのですっ!!


H.27 5/24



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