後、少しだ。
あと少しで全てが終わる。
世界も『アッシュ』も救うことが出来るんだ。
そして、俺がこの世界に居られる時間も……。






〜Shining Rain〜








ノームリデーカン・レム・二十八の日。
外殻大地を降下させてからルークは屋敷へと戻ってきた。
あれから、一ヶ月の月日が流れた。
ティア、アニス、イオン、アリエッタはダアトへ、ガイとジェイドはグランコクマへ、俺とナタリアはバチカルへそれぞれ戻った。
そして、それぞれが忙しい日々を送っているようだ。
そのせいかティアたちからの連絡はなく、一番近くにいるはずのナタリアでさえもまともに会えないのだ。
ルークも屋敷に戻ってから公務をするようになったが、あまり手につかなかった。

「……ご主人様、どうしたですの?」
「…………何がだ?」
「ご主人様、ずっと同じところ読んでるですの!」

ミュウの指摘でルークは、書類を読むことを忘れていることに気付いた。

「…………」

ルークは書類から手を放すと息をついた。
今日だけでも何度こうしただろうか。

「ご主人様、大丈夫ですの? 何か悩み事があるですの?」
(悩み事、か……)

そんなの一つしかないとわかっていて、このチーグルはそれを聞くのだろうか。
それは……。
その時、ルークの思考を遮るように扉をノックする音が聞こえた。

「……はい」
「失礼します。ルーク様、公爵様がお呼びです。応接間の方にお越しください」

ルークが返事をすると一人のメイドが部屋に入ってきてそう言った。

「…………わかった、さがれ」

立ち上がってルークがそう言うとメイドは一礼をしてから部屋を出て行った。
そして、ルークも自分の部屋を出て、応接間へと向かった。





















「失礼します」

ルークは応接間の扉をノックしたから中へと入った。
そこに置かれた長いテーブルの上座には、いつものように父、ファブレ公爵とその隣に母、シュザンヌが座っていた。
だが、ルークを待っていたのはこの二人だけではなかった。
赤い軍服に身を包んだ、淡い金髪の女性がこちらへと視線を向けた。
そして女、セシルは軽く会釈をした。

「父上、お話とは何ですか?」
「ルーク。……アブソーブゲートでの戦いについて、確認しておきたい」
「!!」

父の言葉にルークは自然と背筋が伸びるのを感じた。

「ヴァンが地核に落ちて行ったとき、剣は床に突き刺さったままだったか?」
「……はい、間違いないです」

あのときのことを思い出しながらルークはそう頷いた。

「元帥。では、やはり何者かが……」
「うむ……」
「……何かあったのですか?」

ルークが眉を顰めるてそう訊くと、公爵は再び深い溜息をついて、重く口を開いた。

「プラネットストームが急激に活性化を始めたと、ベルケンドから報告があった」
「!?」

ルークは思わず息を呑んだ。

「それに、アブソーブゲートとラジエイトゲートへ調査隊を派遣したところ、何者かが侵入した形があり、ヴァンの剣もなくなっていたそうだ」
「誰かが……回収したということなのか?」
「そうなると思います」

淡々とそうセシルはそう肯定した。

(一体、誰が……)

公爵は椅子から立ち上がった。

「セシル少将。陛下にご報告するぞ」
「はい」

二人は、厳しい表情のまま応接間を後にした。
正直この二人の後をついて行きたいとは思いつつも、ルークはその場から後にして公務の続きをしようと部屋へ戻ろうとした。

「……ルーク」

すると、それを止めるかのようにシュザンヌがルークに声をかけた。

「……お友達に会いに行ってはどうですか?」
「母上…………?」

突然のシュザンヌの言葉にルークは目を丸くした。

「屋敷の戻ってからあなたはずっと上の空だったわ。公務にばかり追われて、本当はやりたいことがあるんでしょう」
「別に……やりたいことなんて…………」
「本当はアッシュを捜しに行きたいのでしょう?」
「!?」

その言葉にルークは息を呑んだ。
外殻大地を降下させてから一ヶ月。
あれからアッシュの消息が全くわからないのだ。
ガイたちがアッシュを捜しているようだが、それでも見つからないようだ。
ずっと、自分も捜しに行きたかった。
そんな思いをルークの表情から悟ったシュザンヌは優しく微笑んだ。

「行ってきなさい。公務のことは気にしなくていいから。……アッシュを連れて帰ってきてくださいね」
「母上……ありがとうございます」

ルークは軽くシュザンヌに頭を下げた。

「後ね、お友達の大体の居場所だったら、ラムダスが知っていると思うわ」
「……そうですか。わかりました」

シュザンヌの言葉に少し疑問を感じながら、ルークは踵を返すして応接間を出た。
応接間を出た途端、ルークはラムダスを見つけた。

「ルーク様」

ラムダスはルークを見ると、一礼した。
そんなラムダスにルークは近づく。

「……どうかされましたか?」
「母上が……おまえが俺の仲間の居場所を知っていると言っていたんだが」

ルークの言葉にラムダスの眉が微かに動いた。
そして、隅に置かれていた机の引き出しから複数の封筒を取り出してきた。

「旦那様から止められておりましたが、ルーク様宛のお手紙をお預かりしております」
「何で父上がそんなことを……」
「……公爵様の跡取りとして、相応しいお方とだけお付き合いなさるようにとの、旦那様のご配慮です」
「……父上に伝えておけ。俺が誰と付き合おうが、俺の勝手だとな」

そう言いながらルークは、ラムダスの手の中にある手紙を奪い取ると自分の部屋へと戻った。
そして、すぐに荷物をまとめ始めた。

「ご主人様、どうしたですの?」

只ならぬルークの様子にミュウは、驚きつつそう訊いた。

「今から、シェリダンに行く。そして、アルビオールを借りて、みんなに会いに行く」

荷物をまとめる手を休めることなくルークはミュウにそう言った。

「ティアさんたちに会いに行くですの?」
「ああ。……さっき、父上から気になることを聞いた。それに……」

一瞬、頭の中にあいつの顔が浮かび、ルークは一度手を止めた。

「…………それに、俺は……あいつを捜したいんだ」

何故、あいつは帰って来ないんだ。
その理由がわからない。
けど、あいつに逢いたいんだ。
あいつに逢って、そして……。

「ほら、さっさと行くぞ」
「はっ、はいですの!」

荷物をまとめ終わったルークがそう言うと、ミュウはぴょんとルークの肩へと飛び乗った。
最後に部屋の隅に置いてあった二振りの剣をルークは腰へと収めた。
一つは自分がずっと愛用している剣。
もう一つは≪ローレライの剣≫を……。
そして、ルークは屋敷を後にして港へと歩き出した。
























Rainシリーズ第8章第1譜でした!!
ついに新章突入です!ヴァントの決戦から1ヶ月後になります。
屋敷に戻ってきたルークは公務に追われいるけど、頭の中はアッシュのことでいっぱいじゃないかなぁと思います。
これから、ルークのアッシュ捜しの旅が始まります♪


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