「……兄さま、大丈夫かな?」 タルタロスに乗り込んだルークたちはすぐにタルタロスを発進させた。 暫く、タルタロスに乗ったルークたちは沈黙を続けていたが、不安に耐え切れなくなってアリエッタが口を開いた。 「大丈夫だよね? 兄さま、捕まったりしないよね?」 「大丈夫ですよ、アリエッタ。アッシュは強いですから」 今にも泣き出してしまいそうなアリエッタにイオンは優しく語り掛けた。 (……イオンの言う通りだ) アッシュは強い。 きっとこの中にいる誰よりも……。 だから、捕まったりしないだろう。 アッシュも笑ってそう言ったのだ。 だから、大丈夫のはずだ。 なのに、何故だ。 あいつがああ言ったのに、笑ってくれたのに……。 胸の奥で、ずっと何かが騒いでる。 だが、もう後戻りすることは叶わなかった。 ~Shining Rain~ 「……アストンさん。ここは俺に任して、アストンさんたちはシェリダンへ行ってください」 ヴァンから目を逸らすことなく、アッシュはそうアストンたちに囁いた。 「……わかった。気をつけるだぞ、アッシュ!」 それにアストンたちは快く頷くと、すぐにシェリダン港を後にした。 それに対してスピノザはアストンたちを追いかけように駆け出した。 アッシュはそれを止めたかったが、その場から動くことが出来なかった。 アッシュの目の前にはヴァンがいるのだ。 一瞬の隙が命取りになる。 「……私に剣を向けるということがどういうことだがわかっているのか、アッシュ?」 ヴァンは微笑を浮かべるとそうアッシュに言い放った。 「…………俺は、あなたのやり方を認めない」 「私のやり方を認めたから、おまえはアクゼリュスを崩落させたのではないのか」 「違う! あれは、すべきことだから、やっただけだ」 タルタロスを地核まで降下させる為には、どうしてもアクゼリュスを崩落させる必要があったのだ。 「……もう少ししたら、ルークたちが地核を静止状態にする。そして、外殻大地を降下させるんだ。そうすれば、あなたの望んだ預言に囚われない世界にきっとなるはずです!」 これが成功すれば、被験者を殲滅しなくても、レプリカ世界を創らなくてもいいのだ。 「だから、お願いです! 俺と……ルークたちと一緒に――」 「黙れっ!!!」 アッシュの言葉を遮ってヴァンは怒鳴った。 「地核を静止状態にさせて、外郭大地を降ろすだと? 笑わせる! そんなことしたって、人は預言に囚われたままだ!!」 「そんなことはない! 俺が生まれた瞬間、この世界はもう預言から外れたんだ! もうこれ以上、人を傷付ける必要はないはずです!!」 ヴァンの言葉を否定するようにアッシュは首を振ってそう言った。 「……ルークのレプリカがっ! 私に意見するなど、十年早い!! ≪愚かなレプリカルーク≫よ!!!!」 「っ!!」 ヴァンの言葉にアッシュの身体に異変が起こる。 ヴァンの言霊がアッシュの身体を縛り、力が入らなくなった。 (……っ……しまった……!) アッシュに一瞬の隙が生まれた。 それをヴァンが見逃すはずがなかった。 ヴァンはアッシュに一気に近づき、アッシュの首を掴むと思いっきり壁へと押し付けた。 「がぁっ!!」 背中に受けた激しい衝撃にアッシュは声を上げた。 アッシュの手から剣が滑り落ちる。 「……やっと、捕まえたぞ、アッシュよ」 それに対してヴァンは、ニヤリと笑みを浮かべた。 「おまえが私に勝てるとでも思っていたのか、アッシュ?」 「……はっ……はな……せ……」 空気が掠れるような声でアッシュは言った。 踠けば踠くほど息が上がり、身動きするのが辛くなる。 「……どうした、これ以上抵抗はしないのか?」 それにヴァンは眉を顰めた。 いくら言霊に縛られていても、アッシュならある程度は抵抗できるはずだ。 アクゼリュスのときのように……。 「……なるほど、そういうことだったか」 視線を下に向けたヴァンは全てを理解したように笑った。 「……メシュティアリカが思っていた以上に元気そうだったな。障気に身体を犯されているはずなのに」 「!?」 ヴァンの言葉にアッシュの顔色が変わった。 ヴァンはもうひとつの手でアッシュの右手首を掴んだ。 アッシュの右手には、燃えさかる炎のような赤い宝石が嵌め込まれた指輪があった。 「メシュティアリカの腕にはこれに似たブレスレットをしていたな。おまえはブレスレットに移った障気をこの指輪に移して、自身の身体に取り込んでいるのだな。どういう方法で障気を移しているかは解らんが……」 「…………」 アッシュは何も言わずに目を逸らした。 それは、ヴァンの言葉を肯定しているのだとよく解る。 「メシュティアリカの障気を引き受けて、おまえは死ぬつもりだったのだな。だが……」 「――――っ!!」 アッシュの右手から手を放したかと思った瞬間、アッシュは声にならない悲鳴を上げた。 ヴァンがアッシュの腹を思いっきり殴ったのだ。 ヴァンがアッシュの首から手を放すと、アッシュは倒れ込むようにヴァンの胸の中に入った。 ヴァンの胸の中に入ったアッシュの意識は完全に失っていた。 「……おまえは私のものだ。私に逆らうなど、許しはしない」 既に意識のないアッシュを見下ろしてヴァンは静かに呟いた。 「おまえには私の為に働いてもらう。……簡単には死なせないぞ」 残酷にも聞こえる声だが、何処か優しさが含まれていた。 辺りに、ふわりと風が吹いた。 風がアッシュの夕焼けのように赤い髪を静かに揺らした。 「!?」 「? どうした、ルーク?」 突然立ち上がったルークに、ガイは眉を顰めた。 立ち上がったルークの顔色は明らかにおかしかった。 「いや……何でもない」 「何でもないって……どう見たってそうは見えないぜ?」 「何でもないと言っているだろうがっ!!!」 「!?」 声を荒げてそう言ったルークにガイは驚いたように目を丸くした。 それはティアたちも同じだったのか、全員の視線がルークへと注がれる。 「あっ、いや……すまない……。少し、一人にさせてくれ……」 我に返ったようにルークはそう言うと踵を返して、部屋を出て行った。 そのとき、ティアに呼び止められたような気がしたが、それを無視した。 「……わかってるんだ」 部屋を出て歩くルークは自分に言い聞かせるようにずっと呟く。 手には自然と力が入り、震える。 それを壁に押し付けて、震えを止めた。 辺りに大きな音が響いたが結局、手の震えは止まらなかった。 もう、後戻りは出来ないんだ。 そんなことは、もうずっと前からわかっている。 だが……今すぐ戻りたいと思う気持ちが確かにルークの心の中に存在していた。 それは、聞こえたから。 あいつが俺を呼ぶ声が……。 Rainシリーズ第7章第7譜でした!! やってしまったよ!!ヴァンとアッシュの絡みww 今回でどうしてアッシュの体調が優れないのが完全にバレてしましました!! あのブレスレットと指輪にはそんな意味があったのです!! だぁ!!アッシュがとうとうヴァンの手に!! ルークもなんとなくそれを察知したのに、助けにいけないもどかしさと戦ってますよ!! さぁ、次回はどんな展開に!? H.24 12/22 次へ |