「地核到達後、タルタロスの振動装置を起動させたら、アルビオールでタルタロスの甲板上に移動しとくれ」

三日後、作戦を決行するとき、最後の注意をルークたちは聞いていた。

「甲板に上昇気流を生み出す譜陣(ふじん)が描かれておる。それを補助出力にして脱出するんじゃ。ただし、アルビオールの圧力中和装置も、三時間しかもたん。急いで脱出戦と、ぺしゃんこになるぞい」

タマラの言葉に続けてそうイエモンは忠告した。

「何から何まで命懸けか……」

それに思わず、ルークは呟いた。

「ねぇ、そういえばアッシュの姿が見当たらないだけど?」

集会所にアッシュの姿がないことの気付いたアニスは首を傾げた。

「それがねぇ、一度用事でシェリダン港に行ったらしいんじゃけど、そのときにアストンたちに捕まったようなんじゃよ」
「うわぁ; アッシュ、ついてないね;」

タマラの言葉を聞いたアニスは気の毒そうにそう言った。

「そんなわけじゃから、アッシュとはシェリダン港で合流しておくれ」
「ああ……わかった」

タマラの言葉にルークが頷いたとき、集会所に技師が入ってきた。

「狼煙が上がりました!」
「港も準備完了のようじゃ」

技師の言葉にイエモンは上手く連携が取れていることに満足そうに頷き、皺の深い手を擦り合わせた。

「さぁ、見送るぞい」

ルークたちは頷き、集会所の外に出た。






〜Shining Rain〜








集会所を出た途端、ルークたちの足が止まった。
いつの間にか、集会所の周囲はぐるりと神託の盾(オラクル)兵に囲まれていた。
そして、その中心にいたのは……。

「リグレット教官!?」

ティアの声にも、≪魔弾のリグレット≫は笑みさえ浮かべなかった。

「スピノザも言っていたが、ベルケンドの研究者共が逃げ込む先は、シェリダンだと言う噂は本当だったの」
「そこをどけ!」

腰にある剣に手をかけ、ルークは怒鳴った。
だが、リグレットはそれには動じなかった。

「おまえたちを行かせるわけにはいかない。地核を静止状態にされては困る。港も神託の盾(オラクル)騎士団が制圧した。無駄な抵抗はやめて武器を捨てろ!」

リグレットは譜業銃(ふごうじゅう)を引き抜いて構えた。
それに続いて他の神託の盾(オラクル)兵たちも武器を構えた。

(港を制圧しただって?)

そんなことありえるはずがない。
港にはアッシュがいるのだから……。

「リグレット! こんなこと、やめて! 道を開けてです!!」
「アリエッタ!? 何故ここに!?」

ルークの後ろにいたアリエッタが前に出てそう言った。
アリエッタの姿を捉えたリグレットは驚きで目を丸くした。

「どうして、邪魔をするの? ルークと兄さまは世界を救おうとしてるのに!!」
「……おまえたちのやり方では、甘いのだ」
「そんなことはない! リグレットだって、本当は気付いているはずです! こっちのやり方の方がいいってこと!!」
「くっ……!」

怯むことのないアリエッタの瞳にリグレットは奥歯を噛んだ。
そのとき、

< 「タマラ! やれいっ!!」

イエモンの声が後ろでしたかと思った瞬間、ルークの間から管のようなものが伸び、その先端から炎が噴出した。
神託の盾(オラクル)兵が悲鳴を上げて逃げる。

「今じゃっ! 港へ行けいっ!!」
「だが――」
「奴らにタルタロスを静められたら、あたしらの仕事が無駄になるよ!」

その場から動かないルークにタマラは譜業(ふごう)火炎放射器を振り回しながらそう言った。

「……わかった!」

ルークは皆を見回すと、炎の隙間を縫って走った。
ティアたちもその後に続く。

「行かせるかっ!」

リグレットの譜業銃(ふごうじゅう)が火を噴くが、ルークたちはそれをかわし、そのまま街の外へと走り抜けた。

「奴らを追えっ!!」

銃をあげてリグレットがそう命じると神託の盾(オラクル)兵は機械的に走り出した。

「させるもんかね!」

それにタマラは再び炎を噴出した。
他の技師たちも手に工具を持って神託の盾(オラクル)兵たちに殴りかかった。

「ちっ! ……民間人がしゃしゃり出るな!」

リグレットは舌を打つと、その何人かを無造作に打ち倒した。

「リグレット様! 北からキムラスカ兵が!!」
「……もう来たか。この人数では厄介だな……。急げ! ここはもういい! 連中を港の兵と挟み撃ちにする!!」

そう言うとリグレットは銃を収め、シェリダン港を目指して走り出した。





















「あっ! みんな〜。遅かったね!!」

シェリダン港に辿り着くと、ルークたちはアッシュの笑みに迎えられた。
だが、辺りには幾人の神託の盾(オラクル)兵が倒れていた。

「……おっ、おまえが全員倒したのか?」
「うん! と言っても、起きないように気絶させただけだけどね」

ルークの言葉にアッシュは笑みを浮かべてそう言った。
さすがアッシュだと、ここにいる全員が思った。

「おかげで、俺たちが作った譜業(ふごう)の催眠煙幕を仕えなかったわい」
「よっ、よく言いますよ; 神託の盾(オラクル)兵が来た途端、俺をいきなり突き出したのに;」

アストンの言葉にアッシュは溜息をついてそう言った。

「奴ら、街にも行ったみたいだけど、タマラたちは?」

キャシーの笑顔にルークはすぐに答えることが出来なかった。

「タマラさんたちだったら、大丈夫だよ」

それに答えたのは、アッシュだった。

「……どういうことだ?」
「三日間、時間をくれって俺が言ったの覚えてる? アレはシェリダンの人たちに携帯自動防御装置を配ってたんだよ。もしもの為の保険としてね」
「あれにはそういう理由があったのですね」

アッシュの言葉にナタリアは安堵したようにそう言った。
そのとき――。

「呑気に立ち話していていいのか?」

その声にルークたちは振り返った。
そこに立っていた人物は……。

「ヴァン!!」

敵意剥き出しのルークの声にヴァンは不敵に笑った。
ヴァンの後ろには一人の老人の姿もあった。

「スピノザ……!」

ヘンケンは驚いたように呟いた。

「……おまえは、本当に俺たち仲間より、神託の盾(オラクル)の味方をするのか!」
「……わ、わしは……わしは…………」

ヘンケンの言葉にスピノザは目を逸らした。

「……ルーク。俺が合図したら、一気にタルタロスまで走って。ここは俺が、ヴァンを食い止めるから」

アッシュが小さな声でルークに囁いた。

「……だが、そんなことしたら、おまえが!?」
「大丈夫。そう簡単には捕まったりしないから」

ルークの言葉にアッシュは優しい笑みを浮かべた。
それにルークはそれ以上何も言えなくなる。

「……わかった。……捕まるなよ」

ルークの返事にアッシュは頷いた。
そしてティアたちにも視線を向けた後、アッシュは深く息を吸った。

「走って!!」

アッシュの声にルークたちは一気にタルタロスへと駆け出す。

「行かせるかっ!」

ヴァンはそれを阻止しようと走り出すが、アッシュによって阻まれた。

「……ここから先は、行かせないっ!!」

剣を抜き、それをヴァンへと向けた。
これだけは邪魔される訳にはいかない。
アッシュの美しい翡翠の瞳に苛烈な光が帯びた。
























Rainシリーズ第7章第6譜でした!!
ついに作戦開始!それをリグレットたちが邪魔してきました!!
アリエッタの言葉に怯むリグレットはやっぱりそう思っているのかな?
そして、アッシュのおかげでシェリダンの人たちは死なずに済みそうです!
次回はヴァンとアッシュが対峙!アッシュの運命は如何に!?


H.24 12/22



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