「……すまなかったな、みんな」

ガイは振り返らずにそう言った。

「……俺は、どうしてもけじめをつけたかったんだ。……母上や姉上や、消えていったホドの皆の為にも……」
「……戦争ってひどい、です」
「ホント、勝手すぎるよ!」

アリエッタとアニスはそれぞれそう言った。

「ええ……自国の為とはいえ、あんまりですわ」

ナタリアも哀しそうに呟いた。

「それが戦争なのですよ」

ジェイドは静かにそう言った。
彼の立場では、そう言うしかないかもしれない。

「ヴァンも、戦争の被害者だったんだな……」
「でも、兄さんがやっていることは、復讐とすらいえないわ」

ティアの言葉にガイも頷いた。

「そうだな。……ヴァンも俺と同じ痛みを持って、俺と同じように復讐したいんだと思ってたけど……どうやら、そうじゃないらしい」
「ええ。そもそも発端は、ホド戦争にあったかもしれませんが、それは既に口実と化しているようです」

ジェイドの言葉通りだと、ルークは思った。

「……俺は、同じ痛みを持っていた人間として、今俺は何としてもヴァンを止めたいと思っているんだ。……その為には、最後に仕上げをやらないとな」
「地核の振動の中和……」

ルークがそう呟くと、ガイは頷いた。

「わかった。……行くぞ! シェリダンに!!」

そして、ルークたちはシェリダンへと向かった。






〜Shining Rain〜








「おお。タルタロスの改造は終わったぞい」

シェリダンに到着し、集会所に入るとすぐにイエモンが顔を出した。

「そうか、さすがだな」
「年寄りを舐めるなよ? タルタロスはシェリダン港につけてある」
「後は、オールドラント大海を渡って、アクゼリュス崩落後へ行くだけさ。そこから地核に突入するんだよ」

タマラの言葉にイエモンが頷く。

「ただ、注意点が幾つかあるぞい。作戦中、障気や星の圧力を防ぐ為、タルタロスは譜術(ふじゅつ)障壁を発動する。これは大変な負荷が掛かるのでな。約百三十時間で消滅してしまう」
「……百三十時間って、随分半端だな」

ガイがそう言うとイエモンが頷いた。

「負荷が掛かり過ぎるんでな。ここからアクゼリュスへ航行して、近くまで辿り着く時間を逆算し、何とか音機関をもたせるんじゃ」
「それと、高出力での譜術(ふじゅつ)障壁発動には、補助機関が必要なんだよ。あんたたちが近く突入作戦を開始すると決めたら、あたしらがここから狼煙を上げる。すると港で控えているアストンが、譜術(ふじゅつ)障壁を発動してくれる」

イエモンの言葉に続けてタマラはそう言った。

「つまり、俺たちがこの街度出た瞬間から、限られた時間が消費されていくってことだな。後戻りも寄り道も出来ない、ってわけか」
「ここから、アクゼリュスまでタルタロスで約五日。近く突入から脱出までを、十時間で行え、ということですか。これは厳しい」
「ほんの少しの遅れや失敗が命取りってことね」

ジェイドの言葉を聞いてティアはそう言った。

「脱出は、アルビオールで行う、その為に圧力を中和する音機関はもうアルビオール三号機に取り付けて、タルタロスの格納庫に入れてあるぞい」
「どうする? もう、作戦を開始するかい?」
「……大丈夫だ。すぐに出発――」
「待って!!」

ルークの言葉を遮って、アッシュは叫んだ。
そして、ルークたちを見て申し訳なさそうな顔をした。

「……悪いけど……三日間、待ってくれないかな?」
「アッシュ、おまえ何言ってんるんだ!?」

ガイはアッシュの言葉に目を丸くした。

「時間が惜しいのは、俺だってわかってる。でも……その前にどうしても済ませないといけないことがあるんだよ。だから……頼む」
「それは……作戦を決行してからでは、駄目なんですか?」

ジェイドは目を細めてアッシュに尋ねた。

「うん。……作戦を決行してからだと……もう遅いんだよ」

作戦を決行してからじゃ、遅い。
今、やらないとダメなんだ。

「……わかった。待ってやるよ」

そう言ったのは、ジェイドでもガイでもなく、ルークだった。

「…………いいのか?」

ルークにアッシュは恐る恐る聞き返した。

「良いも悪いも、作戦前にやりたいことがあるんだろ? だったら、さっさとやって来いよ」
「! ……ありがとう、ルーク!!」
「っ////」

ルークの言葉にアッシュは表情はパッと輝き、そのままルークの胸に飛び込んだ。
ルークはアッシュの予想外の行動に一瞬固まった。

「わっ、わかったから/// さっさと、やって来い////」

何とか我に返ったルークはアッシュを自分から引き離すとそう言った。

「うん! じゃぁ、行って来る!!」

アッシュは嬉しそうに笑みを浮かべると、さっさと集会所を後にした。

「いや〜、青春ですねぇ〜♪」

ジェイドを笑みを浮かべていたが、若干その笑みに恐怖を感じる。

「まさか、アッシュがあんな行動に出るとは。こんなことなら、私が言えばよかったですね♪」
「何言ってるんだよ; あんたが言ったからって、ああなるとは限らないだろう;」
「おや? 失礼ですねぇ。少なくても、アッシュに突然抱きつかれた程度で、固まった誰かさんよりは、マシだと思いますけどねぇ〜♪」
「うっ、うるせぇぞ!! てめぇは!!!」

その後にルークの怒鳴り声が響いたことは言うまでもない。





















「……どうかしましたか?」

イオンは隣にいる人物に問いかけた。
隣には美しい桃色の長髪の少女がいた。
少女、アリエッタがずっと自分のことを見つめていたことは初めから知っていた。
自分に向けられる瞳が何処か不安さを駆り立てる。

「あの……イオン様……」

恐る恐るといった感じでアリエッタは口を開いた。
そして、ぬいぐるみをギュッと抱き締めた。

「……アリエッタ。イオン様に聞きたいことがある、です……」

アリエッタの言葉にイオンの心臓がドクンと跳ね上がったように感じた。

「……なにを……ですか?」

胸の鼓動を抑えて、イオンは言う。

「……それは――」
「イオン〜!」

アリエッタが口を開いたとき、その声は違う者の声によって掻き消された。
その声が聞こえるほうへ視線を向けると、こちらに向かって美しい夕焼けのように赤い長髪の少年が走ってくるのが見えた。

「……やっと、見つけたよ、イオン」
「……どうかしましたか、アッシュ?」

息を切らしているアッシュを見て、イオンは不思議そうに首を傾げてそう尋ねた。

「うん、それがさ……あっ……」

このとき、アッシュはイオンが一人ではないことに気が付いた。

「ごっ、ごめん! 話、邪魔しちゃった?」
「そっ、そんなことないです! アリエッタの話は大したことじゃないもん」

申し訳なさそうにそう言ったアッシュに対して、アリエッタは首を思いっきり振ってそう言った。

「……アリエッタ、他に用事思い出した、です。イオン様、兄さま、失礼します」
「アッ、アリエッタ!」

二人に頭を下げてその場から立ち去っていくアリエッタをアッシュは呼び止めたが、それをアリエッタは無視して走っていった。

「……邪魔したよね、俺;」

アッシュの言葉にイオンは苦笑を浮かべた。

「で、どうしたんですか?」
「あっ! そうだった!! ええっと……」

イオンの言葉にアッシュは思い出したかのように慌てて何かを取り出した。

「これを……イオンにあげようと思って」
「僕に……ですか?」

それはペンダントだった。
萌え立つ緑を思わせる緑を思わせる緑色の宝石にシンプルな装飾があしらわれていた。

「うん!」

それにアッシュは笑みを浮かべるとそれをイオンへと手渡した。

「……ありがとうございます」

イオンは微笑むと、それを大事そうに握った。
初めて人から物を貰った。
それも、初めて物を貰った相手がアッシュである。
それだけで、嬉しくて、嬉しくて堪らない。

「じゃぁ俺、他に用があるから行くね。……それ、絶対に肌身離さず持っててね!」
「はい、わかりました!」

イオンの返事を聞くと、アッシュは踵を返して街の外へと走り出した。
目指すは、シェリダン港。
そこにいるアストンたちに渡す物があるから。
完成した携帯自動防御装置を……。
























Rainシリーズ第7章第5譜でした!!
漸く、シェリダンに舞い戻ってきました!!
アッシュに抱きつかれて赤面するルーク。面白すぎww
オアシスでアッシュに押し倒された(?)ときは、そんなに反応がなかったのに。
これから、アッシュは携帯自動防御装置を街の人に配るのに大忙しですww
そして、次回はいよいよ作戦決行です!!


H.24 12/22



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