「……どういうことだ?」

パッセージリングを見てルークは驚いたようにそう言った。

「パッセージリングが起動している……」
「まさか、兄さんが?」
「うっそ!? でも、なんで!?」

ティアの言葉にアニスは首を傾げた。

「……もしかして、アッシュの為ではないのでしょうか?」
「うっそ!? あの総長が!?」

何気ないナタリアの言葉にアニスは目を丸くした。

「…………無意識というのは、本当に怖いですねぇ」
「ジェイド。何か言ったか?」

ポツリとそう呟いたジェイドにガイは不思議そうにそう尋ねた。

「いえ……何でもありません。それより、早く始めましょうか」
「ああ……」

ジェイドの言葉にルークは頷くと、パッセージリングの前に立った。






〜Shining Rain〜








「くっ…………!」

空中に浮かぶ譜陣(ふじん)に手をかざし、己の体内の音素(フォニム)を高めて照射しているルークは唇を噛んだ。

(くそっ! ……力が足りない!!)

照射している音素(フォニム)の量が足りないのか、パッセージリングに書き込まれた命令が上手く実行できない。
ルークはさらに己の身体からそれを搾り出すように歯を食いしばり、瞳を閉じた。

――――……ルー……ク。
「!?」

瞼に一瞬浮かんだ光景は、己と同じようの何処かのパッセージリングの譜陣(ふじん)に手をかざすあいつの姿。
頭の中に響いたのは、あいつの声……。

(アッシュ……)

それに、ルークは思わず安堵した。
よかった。
アッシュは生きていた。
本当に、よかった。

――――大丈夫。俺が傍にいるから。俺も力を貸すから……。
(だが、そんなことしたら、おまえが!?)
――――……大丈夫だよ。俺は、まだ死んだりしないから。…………俺のこと、信じて!
(…………わかった。……頼む)

今は、アッシュのことを信じるしかない。
きっと、アッシュはわかっていたんだ。
俺だけでは、外殻大地を降下させるのは難しいことを。
だから、あんな身体なのに無理してパッセージリングまで行ったんだ。
悔しい。
俺にもっと力があれば、アッシュにこんなことをさせずに済んだのに……。

――――……じゃぁ……いくよ!!

そうアッシュの声が響いた途端、第七音素(セブンスフォニム)が照射されたのが伝わる。
ルークも負けじと照射した。
あまり、アッシュの身体に負担を掛けたくない。
辺りが、大地が揺れる。

「……ルーク。全大陸が降下し始めました。想定通り、障気もディバイティングラインに吸着していますね」

ジェイドがそう言うのが聞こえた。

(アッシュ……すまない)
――――何言ってんだよ? こういうときに言う台詞は、そうじゃないだろ?

己の言葉にアッシュが、苦笑しているのが見える。
そうだ。
本当に言いたい言葉は、これじゃない。
本当は………。

――――……じゃぁ、またな、ルーク。
(! おっ、おい! ちょっとま――っ!)

アッシュの言葉にルークが、口を開きかけたそのときだった。
ルークの頭にまたあの痛みが襲ってきた。

『……≪聖なる焔の光≫よ! おまえに鍵を送る! その鍵で我を解放しろ! 栄光を掴む者が……我を――』

声と共に痛みが頭に響く。
その声が完全に途絶えると同時にルークは膝をつき、荒く息をした。

「ルーク、どうしましたか?」

何処か心配げなジェイドの声が頭から降ってくる。

「……ローレライが…………!?」

それに答えようとしたルークは瞠目した。

「なっ、何! アレ!?」

それに気付いたアニスも声を上げた。
パッセージリングから第七音素(セブンスフォニム)が収束し、形どっていく。
それは一振りの剣だった。
音叉を思わせるその剣がゆっくりと降下し、ルークの許へとやって来る。
それをルークは少し躊躇いながら掴んだ。
手に吸い付くようなそれは、全く重みを感じなかった。

「……これは一体?」
「…………鍵だ」
「えっ?」

呟くようにそう言ったルークの言葉にティアは目を丸くした。

「……鍵って…………まさか≪ローレライの鍵≫!?」
「ああ。……あの野郎が鍵を送ると。そして、それを使って我を解放しろと、言ってやがった」

驚くティアにルークは頷くとそう言った。

「≪ローレライの鍵≫は≪ローレライの剣≫と≪ローレライの宝珠≫の二つからなると聞いています。ですが、これには≪ローレライの宝珠≫がありませんね」
「じゃっ、じゃぁ、≪ローレライの宝珠≫は一体何処にあるんですか?」

イオンの言葉にアリエッタがそう首を傾げて訊いた。

「…………アッシュだ」

その問いに答えたのはルークだった。

「……おそらく、ローレライは宝珠をアッシュに送ったんだ」
「では、アッシュは生きているってことなんですね?」

ルークの言葉にナタリアは、何処か嬉しそうな声でそう言った。

「ああ……。あいつは生きている」

それを躊躇うことなく、ルークは言い切ることが出来た。
アッシュは生きている。
それが事実だから……。

「とにかく、一度外へ出る。無事に外殻大地を降ろせたことを知らせないといけないだろ」
「ええ……そうですわね」

それにナタリアたちは頷くと踵を返して外へと歩き出した。

「ティア」

その時ルークはティアに声をかけた。
今のティアは嬉しいような、哀しいようなそんな表情をしていた。
おそらくそれは、アッシュが生きていると言う事実を知ったことと、実の兄であるヴァンを倒したことのせいだろう。

「私なら…………大丈夫よ」

それにティアは笑った。
だが、それは無理して笑っているように見えた。

「これで……よかったのよ」
「…………」

その言葉に返す言葉が見つからなかった。
そんなルークの様子に気付いたのかティアは、少し困ったように笑った。

「ほら! さっさと行かないと、みんなにおいて行かれるわよ!!」
「あっ、ああ……」

それにルークは頷くとティアと共に歩き出した。
外に出れば、あいつに会える。
すぐに会えるとこのときは思っていた。
だが、ルークたちがアッシュと再会するのはずっと後になることなのだ。
























Rainシリーズ第7章第17譜でした!!
わ〜い、アッシュとルークの共同作業♪
そして、パッセージリングを起動させていたヴァンさん!
ジェイドも言ってますが、無意識って本当に怖いですよ。そして性質が悪い!!
そして、今回にて第七章は完結となります♪


H.25 10/22



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