ヴァンとルークたちの戦いが始まった頃、ラジエイトゲートのパッセージリングの前に一つの人影が現れた。
夕焼けの様に赤い長髪に美しい翡翠の瞳を持つ少年が……。






〜Shining Rain〜








「やっと…………着いた」

息を吐くようにアッシュはそう呟いた。
目的のパッセージリングの前に……。
アッシュは、少しでもパッセージリングに近づこうと足を進めた。
だが、足が思うように動かない。
しかも、視界がだんだんぼやけていた。
おなしいなぁ……。
俺にはまだやらなくちゃいけないことがあるのに……。

「っ!!」

突然、膝が折れその場に崩れる。
まだ、倒れるわけにはいかない。
アッシュは、立ち上がろうとしたが、もう力は入らなくなっていた。
瞼が重い……。
もう瞳を開けることは出来なかった……。

『ルーク!!』

そこにローレライが、血相を変えて顕現した。
そして、ローレライはすぐさまアッシュを抱きかかえた。
まだ、息はしている。
だからと言って安心は出来ない。
このままでは『ルーク』は死ぬ。
身体を蝕む障気を取り除かなければ……。
そう、今すぐそれをやらなければ……。
ローレライは、ゆっくりとアッシュに手をかざそうとするが、途中でそれを引っ込めた。
駄目だ。
『ルーク』との約束がそれを邪魔をする。
自分が望むまでそれをやるなと。
だからと言って、このまま『ルーク』を死なせることなど出来ない。
『ルーク』との約束より、『ルーク』の命が大事なのだから……。

『ルーク……。悪いがあの約束は破棄させてもらうぞ』

ローレライはそう言うと、今度こそアッシュに手をかざし、力を使った。
優しく暖かい光がアッシュの身を包み、アッシュを癒していく。
それと同時にアッシュの右手にある指輪に嵌め込まれた宝石にヒビが入り、徐々に大きくなっていく。
そして、アッシュの体内から全ての障気を取り出したとき、それは勢いよく弾けた。

「う゛っ…………」

ピクリとアッシュの瞼が動き、ゆっくりと上がる。
そして、美しい翡翠の瞳がそこから現れる。

「……ローレ……ライ……?」
『ルーク! ……よかった…………』

アッシュの声を聞いてローレライは安堵の表情を浮かべた。
アッシュはそのまま視線を下へと動かした。
そして、指輪を見た途端、表情が一変した。

「……指輪が……壊れてる!?」
『ああ、力を使ったからな』
「! どうして!?」

ローレライの言葉にアッシュは叫ぶ。

「どうしてだよ! 俺は、まだ望んでなかったのに! ……これじゃぁ、ティアから障気を取り除くことが出来ないじゃないか!!」

『ルーク』がずっとそれを拒んでいた理由。
それは、『ルーク』から障気を取り除くと同時に指輪の宝石が砕ける為だ。
ローレライの力に障気を吸収し穢れたそれは耐えることは出来ない。
一度、体内から障気を取り除いてしまったら、二度とティアから障気を取り除くことが出来なくなってしまうのだ。
駄目だ!
< ティアが苦しむ姿を見たくない!
そして、なによりそれがイオンの死にも繋がるのだ。
だから……。

『ルーク……。我は言ったはずだ。ルークの命の灯火が消えかかったときは、約束を破棄してルークの命を優先させると』
「でっ、でも!」
『それに、我は完全に約束を破ったわけではない。……ルークがここへ来るずっと前から、アブソーブゲートのパッセージリングは起動していた』
「えっ? でも……」

アッシュはローレライの言葉に戸惑った。
それは、アブソーブゲートのパッセージリングが起動していることに全く気付かなかったから。
パッセージリングが起動すれば、ティアから障気が流れ込むはずだから、気付かないはずがないのだ。
なのに、それはなかった。
気付かなかったのは何故だろう。

「……まさか…………」
『その考えで間違っていないだろうな』

アッシュにローレライは頷いた。

「でっ、でも、どうしてヴァン師匠(せんせい)がパッセージリングを?」
『さぁな。アレの考えることは、我にはわからぬ』

不思議そうなアッシュに対してローレライは首を振った。
だが、もし己がアレは同じ立場に立ったら、迷わず同じことをしただろう。
それで『ルーク』を助けられるなら……。
アレの本心がどうだったかは知らないが。

『…………もう……大丈夫だな。我は地核へと戻る』
「……師匠(せんせい)に取り込まれるとわかってるのに?」
『仕方ないだろ。アレが大譜歌(だいふか)を歌われれば、我は応えるしかないのだ。ユリアとの契約の証は絶対だ』
「……そっか…………」

嫌そうな顔でそう言ったローレライに対して、アッシュは少し複雑そうな顔をした。

『まぁ……一応、抵抗は試みるつもりだ。そして、鍵をそなたたちに送る』
「うん……頑張ってね」

ふざけたようにそう言ったローレライにアッシュを苦笑した。
そして、アッシュは立ち上がるとパッセージリングを見上げた。
もう少ししたら、ルークたちが外殻大地を降下させるだろう。
その手伝いをアッシュはしなければならない。

『ルーク……』

そんなアッシュの姿を見て、ローレライはアッシュを強く抱き締めた。
あまりにも、アッシュが儚くて今にも消えてしまいそうだったから……。

『ルーク……。死ぬな』
「!!」

突然のローレライの言葉にアッシュは瞠目した。

『……まだ、諦めるな、生きることを。我はそなたに生きていて欲しいのだ』

正直、『アッシュ』達がどうなろうとローレライにとってはどうでもいいのだ。
『ルーク』さえ生きていればそれでいいのだ。
だから、諦めるな。
生きることを……。

「ローレライ。……ありがとう」

酷く震えているだろう己の声にアッシュはそう優しく言った。

「大丈夫。俺は、まだ諦めてないよ。俺は……生きたいと思っているから」

そう言ってアッシュは笑った。
その笑みを見てローレライは確信してしまった。
『ルーク』が嘘をついていることを。
そして、その意志は決して変わらないことを……。

『……そうか…………』

ローレライは、哀しく微笑むとアッシュに背を向けた。
これ以上あの顔を見ることが出来なかったから。

『……ルーク。これだけは言わせてくれ』
「…………何?」

アッシュの意志にローレライが気付いていないと思っているアッシュは不思議そうにそう尋ねた。
これだけは伝えなければ。
ローレライは深く息を吸った。

『……絶対、希望は捨てるな』
「…………」

アッシュから返事は返ってこなかった。
アッシュに背を向けてるので、どんな表情をしているのかはわからない。

『……では、地核で待っているぞ』

そこに生きてやって来ることを信じて……。
アッシュの顔を再び見ることなく、ローレライは光となって地核へと戻っていった。

「……希望を……捨てるな……か…………」

完全にその場からローレライがいなくなると、アッシュはポツリと呟いた。
結局、ローレライを騙すことは出来なかった。
だから、ローレライはあんなことを言ったのだろう。
でも、その言葉に応えることはおそらく不可能に等しいのだ。
アッシュの手が微かに震える。
そのとき、パッセージリングがパッと輝き始めた。

「始まったんだ……」

アブソーブゲートにいるルークが、パッセージリングを操作し始めたのだ。
アッシュは空中に浮かぶ譜陣(ふじん)へと手をかざした。
そして、自分の中の音素(フォニム)を高め、それ照射した。
























Rainシリーズ第7章第16譜でした!!
はい、アッシュが向かってた場所はもちろんラジエイトゲートでした♪
そして、アッシュを助ける為に約束を破棄するローレライさんがマジでカッコいいです♪
最後に言ったローレライの言葉はアッシュには届くのかなぁ?


H.25 10/22



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