「ハァッ……ハァッ……」

息を切らせながら、アッシュは走った。
それを妨げるように次々と魔物がアッシュに襲いかかる。
アッシュをそれを何一つ無駄のない動きで魔物を斬り倒す。
だが、いつもと違ってその動きにキレはない。
己の身体を蝕む障気が、アッシュの動きを鈍らせる。
本当は立っているのもやっとだが、そんな身体に鞭を打つようにアッシュは走った。
目的はただ一つ。
この地の、ラジエイトゲートの奥のパッセージリングを目指して……。






〜Shining Rain〜








「光龍槍!」

練られた剣気が、黄金の光となって襲い掛かってくる。
それをルークたちは、間一髪のところで避ける。
剣気を避けたガイが、一気にヴァンへと詰め寄る。
左右から剣を叩きつけるように振り、最後に下から思いっきり振り上げた。

「断空剣!」
「ぬうっ!」

それを受けきったヴァンは後ろへと下がり、その場で踏み止まる。
だが、ガイの攻撃はまだこれで終わっていなかった。
ガイの足元に風のFOF(フィールドオブフォニムス)が発生する。
ガイは着地と同時に再び剣を振るう。

「刃よ乱れ飛べ! ――――龍爪旋空破!」

無数の風の刃がヴァンに一気に襲い掛かる。
逃げ場は完全に断たれた。
だが、

「なめるなっ!」

ヴァンは風の刃を斬り裂き、そのままガイへと叩きつける。
それをガイは、間一髪のところで避けた。
そして、ガイと入れ替わるようにジェイドがヴァンの間合いに入り、槍をヴァンに振り下ろす。
ヴァンは、それを軽々と受け止めた。

「…………何故ですか?」

剣越しにジェイドは、ヴァンに問いかける。

「何故、あなたはそこまでアッシュに拘るのですか?」
「……私がアッシュに拘っている、だと?」

それにヴァンは眉を顰めた。

「当初のあなたの計画では、アッシュは捨て駒でしかなかったはず。ですが、今のあなたを見ていると、ルーク以上にアッシュを必要としているように見えますが?」
「アレの方が使い勝手がいいだけだ」
「本当にそれだけですか?」

ジェイドの言葉が静かに響く。

「……本当は、あなたはアッシュが怖いのではないのですか? だから、無理矢理力で押さえつけようとしている、そうじゃないのですか?」

その言葉にヴァンは瞠目した。
この男は一体何を言っているんだ。
私がアッシュを恐れているだと?
そんなこと、あるはずがないのに。
そんなわけ………。

――――だから、お願いです! 俺と……ルークと一緒に……。

突然、頭に浮かんだのは必死なアッシュの姿。
あの何処までも真っ直ぐな翡翠の瞳だ。
あの瞳を何故か真っ直ぐ見ることが出来なかった。
だから、あの瞳が見えないようにアッシュに仮面を付けさせたのだ。
それは何故?
私はアッシュを……。

< 「私がアッシュを恐れているだと? そんなわけあるはずがない!!」

己の思考を振り払うかのようにヴァンは剣を振るった。
それをジェイドはギリギリのところで避ける。
そして、

「聖なる槍よ、敵を貫け!」

ティアの声が辺りに響き渡ったことに気付いたときにはもう遅かった。

「――――ホーリーランス!」

ヴァンの足元に譜陣(ふじん)が現れ光の槍が次々へとヴァンへと襲った。
そこへルークがヴァンへと駆け寄った。

「轟雷食らいやがれ!」

ティアの発動したホーリーランスのおかげでルークの足元には光のFOF(フィールドオブフォニムス)が出現した。
ルークは思いっきり姿勢を低くした。

「襲爪雷斬!」

飛び上がりながら剣を振った。
剣が空気中に静電気を発生させ、それがさらに静電気を呼ぶ。
雷撃がヴァンに落ち、そのままルークは剣を振り下ろした。

「ぬ、うっ……」

ヴァンの口の端から血が溢れ、髭が赤く染まっていく。

「くっ……さすが、アッシュの被験者(オリジナル)だ……」

床に自分の大剣を突き立てられて、身体を支えた。
皮肉にも、さっき食らった技は自分がルークに初めて教えた技、双牙斬を応用した技だった。
ヴァンは自嘲めいた笑いを浮かべると、裂けた床の縁から、吸い込まれていく記憶粒子(セルパーティクル)の流れと共に、何処までも落ちていった。

「…………」

無言でティアは、突き刺さったヴァンの大剣を見つめていた。

「……ティア」

ルークが呼びかけると、ティアは泣きそうな顔でルークを見た。

「……私なら、大丈夫よ。それより早く外殻大地を降ろしましょう」

もう、残された時間は少ないのだ。
こんなことで、時間を取っている場合ではないのだ。

「……ああ、わかった」

ティアの言葉にルークは頷くとパッセージリングへと繋がる階段を下り始めた。
それに倣ってティアたちも歩き出す。

「!?」

だが、ティアはすぐに足を止めた。

「……? ティア、どうしたの?」

それに気付いたアニスが首を傾げた。
だが、ティアはそれには答えず、静かにブレスレットを見つめていた。

「……ティア?」
「…………砕けたの」

ルークの声にティアは小さく呟いた。

「……アッシュに貰ったブレスレットに嵌め込まれた宝石が……砕けたの」
「「「「「「「!?」」」」」」」

そう言ったティアの言葉にルークたちは瞠目した。

「じゃぁ、アッシュは……」

それ以上言葉を続けることは、ナタリアには出来なかった。

「……とにかく、外殻大地を降ろしましょう」
「ジェイド! こんなときにっ!!」
「こんなときだからそう言っているのですよ」

声を荒げてそう言ったガイにジェイドは静かにそう言った。

「それに、これくらいのことでアッシュが死んだと断定するのは、早過ぎると思いますよ?」
「……そうだな、すまない」

願いにも等しいジェイドの言葉にガイは申し訳なさそうにそう言った。

「……いえ。では、行きますよ」

それにジェイドは軽く笑みを浮かべると、再び歩き出した。

「…………ティア」

未だに顔色の良くないティアにルークは声を掛けた。

「…………私ったら、馬鹿ね。大佐の言う通りだわ」

まだ、アッシュは死んだとは限らないのに。
まだ、アッシュが生きているかもしれないのに……。

「行きましょう、ルーク」
「ああ……」

ティアの言葉にルークは頷くと、再び歩き出した。
アッシュが無事であることを祈りつつ……。
























Rainシリーズ第7章第15譜でした!!
今回は、ヴァンとの戦闘がメインとなっています。
ジェイドさんの言葉にかなり動揺するヴァンさん。やっぱり、あなたも無自覚なんですよね。
そして、最後の方でティアが付けていた指輪が壊れたのは……。それは、また次回で!!


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