アブソーブゲート。
そこは、世界の北端に位置する、プラネットストームが収束する場所。
強大な結晶郡が屹立するそこへ、ノエルはアルビオールを着陸させ、しっかりと固定した。

「すごい音素(フォニム)を感じますの!」

タラップを下りて辺りを見回しながら、ミュウは言った。

「ここがアブソーブゲートですのね……。プラネットストームが吸い込まれていますわ。あの光っているのは――」
記憶粒子(セルパーティクル)だな」

ナタリアの言葉にガイがそう言った。

「……ここで、外殻大地を降ろすんだな」

ルークの言葉にジェイドが頷く。

「ええ……。ですが、あまり時間の余裕はないでしょうね」

地核の振動を止めてから、ヴァンの動きが全くない。
そろそろ何か仕掛けてくるだろう。

「そうだな。……行こう」
「みなさん、お気を付けて」

ノエルに見送られてルークたちは、アブソーブゲートの中へと入っていった。






〜Shining Rain〜








「……よし、行くぞ」

なんとかパッセージリングへと繋がるリフトの前までルークたちはやってきた。
息を吐いて、ルークはティアを見てそう言った。
それにティアたちは頷く。
そして、ルークたちはリフトへと乗った。
光に包まれ、そして出たところは巨大な部屋のようだった。
慎重に前へと進み、そしてルークは腰にある剣へと手を伸ばした。
目の前にいる人物、ヴァンを警戒して。

「……やっと来たか、ルーク」

ルークたちに気付いたヴァンが悠然とルークたちへと向かい合った。

「どうだ、ルーク? 私と共に秩序を生み出さないか?」
「秩序……だと?」

ヴァンの言葉にルークは眉を顰めた。

「フォミクリーは大量の第七音素(セブンスフォニム)を消費する。この星全体をレプリカ化するには、世界中の第七音素(セブンスフォニム)を掻き集めても足りませんよ?」

ジェイドの血のように赤い瞳が、ヴァンを射抜いた。
だが、それに対してヴァンは、笑みを浮かべた。

「それなら心配は要らぬ。地核の膨大な第七音素(セブンスフォニム)――ローレライを利用すればいいのだ。地核に振動が激しくなれば、プラネットストームが強まり、第七音素(セブンスフォニム)の供給量も増す。おまえたちがそれを止めてしまったがな」
「だから地核の静止を嫌がったのか……」

ガイの呟きを聞きながら、ジェイドは一歩前へと出た。

「フォミクリーは不完全です。しくじれば、すぐに消滅するレプリカが誕生する」
「それは第七音素(セブンスフォニム)がレプリカから乖離するために起きる現象だ。乖離を止めればレプリカは消えぬ」
「無理です。そもそも音素(フォニム)は同じ属性同士で引き合う。第七音素(セブンスフォニム)も同じだ。物質から乖離してプラネットストームへ戻っていく」
「大佐……」

ティアはジェイドを見た。

「兄は、第七音素(セブンスフォニム)の集合体であるローレライを消滅させるつもりなんです。そうすれば、余剰第七音素(セブンスフォニム)が消える」
「引き合う第七音素(セブンスフォニム)がないから乖離しない……って、ことか」
「そうだ」

ルークの言葉にヴァンは満足そうに笑みを浮かべた。

預言(スコア)第七音素(セブンスフォニム)がなければ詠めない。世界から預言(スコア)は消え、レプリカも消滅しなくなる。一石二鳥だ。その為には、おまえとアッシュの力が必要だ」
「……まだ、アッシュを利用するつもりなのか」

ヴァンの言葉にルークは唸るように言った。

「アレはその為に作ったのだ。それの何が悪い?」
「ふざけるなっ!!!」

ルークの怒気を孕んだ声が部屋に響き渡る。

「てめぇは、アッシュを一体なんだと思ってやがる!!」
「アッシュを何だと思ってる、だと? 決まってるだろうが。アレは人形だ」
「兄さまは、人形なんじゃないです!」

それにアリエッタが叫んだ。

「兄さまだけじゃない! イオン様もシンクも、一人の人間です!!」
「アリエッタ……」

イオンはアリエッタを見つめた。
いつも小さく見えた背中が今はとても大きく見えた。

「……まさか、おまえからそんなことを聞くとは思わなかったよ。アリエッタ」

ヴァンの鋭い眼光にも臆することなく、アリエッタはヴァンを睨みつけた。
それを見たヴァンはフッと笑みを浮かべた。

「……まぁ、いいだろ。所詮、おまえ達では世界はおろか、アッシュすら助けられないのだからな」
「どっ、どういう意味だ」
「そうか……。おまえ達は何も知らないのだな。アッシュの状態を」
「どういう意味だと、聞いているだろうがぁっ!!」

今にもヴァンに斬りかかっていきそうなルークをガイが何とか止める。
だが、そのガイの瞳も苛烈な光を帯びていた。
そんなルークを無視するかのようにヴァンはティアへと視線を向けた。

「……メシュティアリカ。おまえは何故、元気なのかわかるか?」
「えっ?」

ヴァンの言葉の意味が解らず、ティアは戸惑う。

「おまえは、パッセージリングを起動させる度に、障気に汚染された第七音素(セブンスフォニム)がおまえの身体へと流れ込んでいるのだ」
「そっ、それが何だって言うんだ!?」

ヴァンの言葉に怒鳴るルークに対して、ティアの顔色は見る見るうちに青ざめて言った。

「…………まっ、まさか!?」

そして、ティアは自分の腕に視線を落とした。
そこにあるのは、アッシュから貰ったブレスレット。
アッシュに貰ったときには、燃え盛る炎のように赤かった宝石が、今は黒く濁った色をしている。
一体いつから、こんな色になってしまったのだろう。
ティアの反応にヴァンは満足そうに笑みを浮かべる。

「そうだ。おまえが障気を身体に取り込む度に、それが障気を取り込み、そして、アッシュの右手に嵌められた指輪へと送られる。アレの身体は障気に犯されている」
「「「「「「「!?」」」」」」」

ヴァンの言葉にルークたちは瞠目した。

「でっ、でたらめを言うなっ!」
「でたらめではない。……そうだろ、メシュティアリカ?」
「っ!!」

ティアは何も言い返せなかった。
それが何よりもヴァンの言葉を肯定していることになる。

「もはや、アレはまともに動くことも出来ないだろうな。そんなアレと捕らえるなど、簡単だ。既にリグレットたちがケテルブルクにいる。おまえたちが出て行くのを確認してからな」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」

追い打ちとばかりのヴァンの言葉にルークたちの表情が凍った。

「どうだ、ルーク? これでも、まだ私と手を取ろうとは思わぬか?」
「…………黙れ」

そう言ったルークの声は震えていた。
それは、ヴァンに対しての怒りなのか、今までアッシュの身体のことに気付かなかった自分に対しての怒りなのかはわからなかった。

「私なら、アレを助けることが出来る。おまえたちでは、それは不可能だ」
「っ!!」

ヴァンが勝ち誇ったような笑みを浮かべたそのときだった。
辺りの電子音が響く。
ヴァンは徐にそれを取るとスイッチを押した。

「……私だ」

それは小型の無線機のようなものだった。

「……リグレットか。アッシュを捕らえたか?」

それを聞いたルークは悔しさで唇を噛んだ。
やはり、無理をさせてでもアッシュを一緒に連れてくるべきだった。

「……!? 何!? それは、どういうことだ!?」

だが、次の瞬間、ヴァンの表情が一変した。

「アッシュが何処にもいないだと! そんなわけがないだろ!!」

そう言ったヴァンの言葉にルークたちは耳を疑った。

「……やってくれましたね、アッシュ」

それにジェイドがポツリと呟いた。

「ですが、アッシュは何処に行ったのでしょう?」
「さぁ、アッシュですからね……」

ナタリアのところにジェイドは明後日の方向を見た。

「あんな身体でそう遠くは行けるはずがない! 何が何でも捜せ!!」

そうヴァンは怒鳴ると無線を切った。

「…………おのれ、アッシュめっ!!」
「どうやら、アッシュは、巧く逃げられたようですね♪」

悔しそうにそう言ったヴァンに対して、ジェイドは楽しそうに笑みを浮かべた。

「もう、おまえたちと遊んでいる時間などない。ルーク! 私と共に来い!!」
「断る!!」

ヴァンの言葉にそうルークは言い切った。

「てめぇの力なんか借りなくても、アッシュを助けてみせる!!」

決めたんだ。
アッシュを護ると。
アッシュを護れるだけ強くなると……。

「そうか……。おまえはあくまでも私の邪魔をするというわけか。なら、仕方あるまい」

それに対して、ヴァンは残念そうにそう言った。
そして、ヴァンにある剣を抜いた。

「おまえたちを倒して、アッシュを捜すとしよう」
「上等だっ! 殺れるもんなら、殺ってみろ!!」

ルークも剣を抜いて構えた。
それに倣うようにティアたちも武器を構える。

「……メシュティアリカ。おまえと戦うとは……残念だよ」
「兄さんはレプリカ世界を創るのでしょ。だったら、私を倒して私のレプリカを創ればいいわ」

残念そうにそう言ったヴァンに対して、ティアはそう言い放った。

「そうか……では、行くぞ!」
「望むところだぁ!」

ルークは一気にヴァンへと走り出した。
























Rainシリーズ第7章第14譜でした!!
ついにアッシュの状態を知ってしまったルークたち。
さぞかし、ショックでしょうね。
そして、アッシュ。そんな身体で何処行ってるんですか!?
次回、ヴァンとの戦闘です!!


H.25 8/4



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