「あっ! ティアたち、久しぶり〜♪」

ティアたちがケテルブルクの宿屋の一室に入ると、なんとも明るい笑顔があった。
その笑顔を浮かべていたのは、言うまでもアッシュだった。






〜Shining Rain〜








ティアたちは笑顔にホッとしつつ、思わず拍子抜けした。

「……どうしたの、みんな?」

そんなティアたちを見てアッシュは不思議そうに首を傾げた。

「……いや……。思っていた以上に元気そうだったから;」
「えっ? そりゃそうだよ。俺、何処も悪くないもん!」

ガイの言葉にアッシュは、ケロッとした顔でそう言った。

「……ですが、今まで目を覚まさなかったのは、事実でしょう?」
「う゛っ; それはそうだけど……;」

ジェイドの言葉にアッシュは言葉に詰まり、明後日の方を見た。

「……どうしたの、アリエッタ? 元気ないみたいだけど……?」

すると、アッシュはアリエッタの姿を捉え、アリエッタが元気がないことに気付いた。
それにアリエッタは哀しそうな顔でアッシュを見つめた。

「……アリエッタたち、地核でシンクに会った、です」
「!?」

アリエッタの言葉にアッシュは瞠目した。

「……兄さまは、シンクとイオン様が……レプリカだって、知ってたんですね」
「…………ああ、知ってたよ。……俺は、被験者(オリジナル)イオンの最期を看取ったから」

アリエッタの言葉にアッシュは、静かに頷くとそう言った。

「……どうして? どうして、知っていたのに教えてくれなかったですか?」
「それは……イオンの頼みだったから……」
「……イオン……様の?」

アリエッタの言葉にアッシュは頷いた。

「……あいつは……イオンにアリエッタを取られたくなかったんだよ。……アリエッタには、本当のイオンを憶えていて欲しかったんだよ」
「…………」

アッシュの言葉にアリエッタは、静かにイオンを見つめた。

「……本当は……ずっと前から気付いてた……です。あなたが……アリエッタの知っているイオン様じゃないって」
「「!?」」

アリエッタの言葉にアッシュとイオンは瞠目した。

「……でも、聞けなかった、です。アリエッタが思ったことが本当だったら、怖かった……」

一度だけそのことを思い切ってイオン様に聞こうとしたことがある。
でも、そのとき兄さまが来たので出来なかった。
それ以来、そのことはアリエッタの胸に閉まっておこうと思った。
それが思い過ごしであることを願って……。
でも、それは決して思い過ごしではなかった。
アリエッタの知っているイオン様はもう……。

「アリエッタ……」

ベッドから下りてアリエッタに歩み寄ったアッシュは、優しくアリエッタを抱き締めた。

「ごめん。……アリエッタのことを考えてそうしたのに……結局、アリエッタのこと傷付けちゃったね」

アッシュの言葉にアリエッタは思いっきり首を振った。

「違うです! 兄さまは何も悪くないです! 悪いのは……アリエッタです」

兄さまやイオン様たちの思いにずっと気付かなかったアリエッタが一番悪いのだ。
強くならなくてはならない。
力とかではなく、心を……。

「だから……兄さまは自分を責めないでください。アリエッタなら大丈夫です」

そう言ってアリエッタは笑ったが、その笑みはアッシュには哀しみが帯びて見えた。

「アリエッタ……」
「……では、そろそろ行きますか」

すると、突然ジェイドがそう言った。

「えっ? 何処に?」
「アブソーブゲートです。そこで、外殻大地を降ろすのですよ」
「えっ!? そうなの!! じゃぁ、早く行かないと……」
「ちょっと待ちなさい、アッシュ」

今にも部屋から飛び出してしまいそうなアッシュの腕をジェイドは掴んだ。

「アッシュ。あなたはここでお留守番ですよ」
「えっ!? なっ、なんで!?」
「当たり前だ。おまえは、まだ病み上がりなんだということを忘れるな」

アッシュの言葉にルークは呆れたように言った。

「だっ、大丈夫だよ; もう、身体の方はなんともないし;」
「駄目だ!!」
「わっ、わかったよ;」

ルークの気迫に負けてアッシュは思わずそう言ってしまった。

「では、大人しくここで待っていてくださいね♪」
「うっ、うん……;」

ニコリと微笑んだジェイドの言葉にアッシュはうな垂れた。

「では、行きますか」

ジェイドがそう言うとガイたちは部屋を順々に出て行った。
そして、ルークが最後に部屋を出ようと扉の前へと行くが、途中で足を止めた。

「…………アッシュ」
「……? 何、ルーク?」

ルークの声にアッシュは不思議そうに首を傾げた。

「……いや、なんでもない」

何か言いかけた口を一度閉じるとルークはそう言った。
それにアッシュは眉を顰めた。

「……なんだよ。気になるだろ?」
「だったら、帰ってから言ってやるよ」

アッシュの言葉にルークは笑みを浮かべるとそう言った。

「そっか……。じゃぁ、楽しみにしてるね♪」

それにアッシュは嬉しそうに笑った。

「…………じゃぁ……行ってくる」
「うん、いってらっしゃい!」

ルークはアッシュに見送られながら部屋を後にした。
部屋の扉がしまった途端、アッシュはその場に膝をついた。

「……っ! ……やっぱし、きついなぁ……」

再び、立ち上がったアッシュは一旦ベッドへと戻った。
あまり、痩せ我慢するものではないと思った。
すると、すぐに眠気が襲ってきた。
そして、アッシュは瞼を閉じて、そのまま深い眠りへとついた。





















「……ねぇ、アッシュを一人にしてよかったのかなぁ?」

アルビオールでアブソーブゲートに向かう途中、そうアニスは口を開いた。

「そうですわね……。アッシュは思っていた以上に元気そうでしたし……」
「……気付きませんでしたか? アッシュは無理をしていたことを」
「「「えっ?」」」

ジェイドの言葉にアニスたちは目を丸くした。

「アッシュは私たちに気を遣って元気なフリをしていたんですよ」
「! そっ、そんな!!」
「……ジェイドの言っていること、当たっていると思う、です」

それにアリエッタがポツリと呟いた。

「兄さまに抱き締めてもらったとき、兄さまの手が微かに震えていた、です……」

本当はベッドの上で身体を起こしていたのも辛かったはずなのに、アッシュはアリエッタへと歩み寄って抱き締めてくれたのだ。

「……じゃぁ、アッシュは本当に……」
「ええ。ですから、敢えてアッシュを一人にしたのです。そしたら、ゆっくりと身体を休められるでしょう」

誰か一人をアッシュの許に置いて行ったら、アッシュは気を遣って休めないだろう。

「……ですが、帰ったら一度、アッシュをベルケンドに連れて行って検査すべきでしょうね……」
「…………ああ、そうだな」

ダアトでディストがアッシュに言った言葉をルークは思い出した。
その言葉からアッシュの身体は非常に悪いのだと解る。

「みなさん! そろそろ、アブソーブゲートに到着します!!」

すると、辺りにノエルの声が響いた。
それに対して、ルークたちは一度席に着くのだった。
























Rainシリーズ第7章第13譜でした!!
アッシュとティアたちが再会しました!
が、またすぐに別れるし;
仕方ないよね、アッシュはあんな状態なんだから;
次回はアブソーブゲートへ!!


H.25 8/4



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