逢いたい……。
あの眩しい笑顔に……。
あのとき聞こえたあいつの声が、幻聴であることを静かにルークは祈るのだった。






〜Shining Rain〜








「イエモンさん!」

外殻大地から戻ってきたルークたちは、すぐにシェリダンへとやってきた。
そして、すぐにイエモンたちを見つけた。

「おおっ! 無事に終わったのか!」
「大丈夫ですか?」
「見ての通り、アッシュのくれた譜業(ふごう)のおかげで掠り傷ですんだよ」

イオンの言葉にタマラは優しく笑ってそう答えた。

「……そういえば、アッシュは何処にいるの?」

辺りを見回しながら、アニスがイエモンたちの尋ねた。
その言葉にイエモンたちの表情が曇った。

「……それが、俺たちはおまえたちが行った後すぐにあの場を離れたんじゃよ。だから……」
「まさか……アッシュが何処にいるかわからないんですか!?」

声を震わせながらそう言ったティアにアストンは何も言わなかった。
その場に重い空気が圧し掛かる。
皆、想像するのは悪いもの。
アッシュが、ヴァンに捕まったことだ。

「!?」

すると、辺りに魔物の声が響き渡った。
こんな街中で聞こえるはずのない魔物の咆哮が。
そして、突如ルークたちの目の前に一匹のライガが現れた。

「ライガ!!」

それにルークたちは、思わず武器を構えた。
そのとき、

「待って! その子は、アリエッタのお友達だよ!!」

アリエッタが、ライガの前に立ち塞がった。
アリエッタの行動にルークたちは、武器を下ろした。
アリエッタは、安堵の表情を浮かべるとライガと向かい合う。

「ダメです! こんな街中に入ってきたら、みんなビックリするです!!」

アリエッタが叱るとライガは、哀しそうに鳴いた。

「……でも、どうしたの? 何か訳があるの?」

アリエッタがそう聞くと、ライガはアリエッタに何かを話しかける。
魔物の言葉がわからないルークには、ライガが何を言っているのかさっぱりわからなかった。
だが、魔物の言葉が唯一わかるアリエッタは、ライガの言葉を聞いてその表情が一変した。

「……そっ、そんな……っ!」
「どうかしたの、アリエッタ?」

そんなアリエッタの様子を見てアニスは恐る恐る訊いた。

「……兄さまが……兄さまが総長に捕まったって……」
「「「「「「!?」」」」」」

アリエッタの言葉にルークたちは息を呑んだ。
やっぱり、あれは幻聴ではなかったのだ。
あの声は……。

「でも、総長が兄さまを連れ去る前に、ママが助けてくれたって……」
「ママって……。まさか、ライガ・クイーンが!?」
「うん……。今、兄さまはママのところにいるけど……ずっと、眠ったままなんだって……」

ぬいぐるみをギュッと抱き締めて、アリエッタはそう言った。

「……今、アッシュは何処だ?」
「この近くの森にいるって。……ついて来いって、言ってるです」
「……わかった。案内してくれ」

ルークがそう言うと、アリエッタがライガに話しかけた。
すると、ライガはある方向に向かって走り出した。
それをルークたちは、追いかけるのだった。





















あれからどれくらい経つのだろうか。
ルークたちは、ライガの後を追って走っていた。
ライガは、ルークたちに気を遣いながらゆっくりと、だがアッシュのことを考えて速くといった感じでどんどん進んでいく。
そして、いつの間にか人里離れた森の中へと入っていた。
あまり足場がいいとはいえない道を足を取られないように、気をつけながらルークたちは進んでいった。
そして、前を走っていたライガがついに足を止めた。

「…………ここか?」

ライガの近くまで行くとその前には大きな穴があった。
それはチーグルの森で見たライガ・クイーンがいた場所に酷似していた。

「……この先に兄さまがいるって言ってるです」

ライガの言葉を聞いてアリエッタがそう言った。

「……わかった。……ありがとう」

ルークがライガに直接お礼を言うと、ライガは咆哮ひとつすると森の中へと消えていった。

「……よし、いくぞ」

ルークの言葉にティアたちは頷くと洞窟の中へ入っていった。
チーグルの森と同じ構造をしている洞窟の中をルークたちは慎重に足を進めた。
そして、一際大きな空洞に出たときだった。

「…………アッシュ」

柔らかそうな草の上に眠るのは、美しい夕焼けのように赤い長髪の少年。
やっと、その姿を捉えることが出来た。
ルークの足が自然とアッシュへと動く。

「っ!?」

突然、ルークの目の前に魔物が立ち塞がった。
その魔物をルークが見間違えるはずがなかった。

「……ライガ・クイーン」

かつて、ルークたちが倒した魔物であり、アリエッタの育ての親でもある魔物だ。
ライガ・クイーンはアッシュを護るようにしてルークと向かい合い、いつでもルークに襲いかかれることが出来るような体勢を取った。
ライガ・クイーンの低い唸り声が辺りに響く。

「ママ!!」

そこにアリエッタが何の迷いもなく飛び込んできた。

「大丈夫だよ! ルークたちは、もうママを襲ったりしないよ! みんな、アリエッタの仲間だもん!!」
『…………』

アリエッタの言葉にライガ・クイーンはルークを静かに見つめた。
それに臆することなく、ルークは見つめ返す。
ルークの翡翠の瞳に宿る意思を見たライガ・クイーンはやっと警戒を解いた。
それを見たアリエッタが、ホッと胸を撫で下ろしたのがわかる。

「……ごめんなさい。兄さまを連れ去ろうとした、追っ手が来たのかと思った、と言ってます」

アリエッタがそう言うと、ライガ・クイーンが少し頭を下げたように見えた。

「……アッシュの様子はずっとこうですか?」
「……うん。ママが兄さまをここへ連れてきてからずっと、あのままなんだって……」

ライガ・クイーンの言葉を聞いてアリエッタは、ぬいぐるみをギュッと抱き締めてそう言った。

「……そうですか」

それにジェイドは眼鏡を押さえてそう言った。

「…………似ている」
「……えっ?」

アッシュを見つめて静かにイオンは呟いた。
その声にティアたちは振り向いた。

「……あのときの、アクゼリュスのときのアッシュの状態に、よく似ています」
「では、アッシュがずっと眠っているのはあのときと同じ理由……?」

ナタリアの言葉にイオンは考え込んだ。
あのとき起こったことを思い出す為に……。

「……あのとき、確かヴァンはアッシュに……≪愚かなレプリカルーク≫と言いました。そしたら、アッシュは――」
「今みたいな状態に陥った、そういうことですね?」

ジェイドの言葉にイオンは頷いた。

「なるほど。どうやら、ヴァンはアッシュに強い暗示をかけているようですね。アッシュを力尽くで従わせる為に」
「……ひどい」

ジェイドの言葉にアニスは、痛そうに顔を歪めた。

「……どうすれば、アッシュは目を覚ますんだ?」
「わかりません。あのときは、特に何もしなくてもアッシュは目を覚ましましたし……」
「……おそらくは、アッシュ自身がそれを解除しているのでしょう。私が自分で封印術(アンチフォンスロット)を解除していたように。ですが、今回はその効力が強いのか、或いは何かが妨害しているのかで思うように出来ないのかもしれませんね」
「妨害って、一体何が?」
「それは、私にはわかりませんよ」

ガイの問いにジェイドは首を振った。

「とにかく今は、アッシュを安全な場所で安静にした方がいいでしょうね」
「ああ……。そうだな……」

ルークはジェイドの言葉に頷くと、アリエッタを見た。
それにアリエッタは頷くと、ライガ・クイーンと話をした。

「……兄さまをお願いします、って言ってます」
「わかった……ありがとう」

ルークはライガ・クイーンにそう言うと、ライガ・クイーンは首を縦に振った。
ルークはアッシュを優しく抱きかかえた。
そして、ルークたちは洞窟を後にした。
























Rainシリーズ第7章第11譜でした!!
近くから無事に帰還!!
しかし、アッシュは行方知れずというところで現れたのがライガでした!!
ルークに威嚇するライガ・クイーンがいいねww
仕方ないといったら、仕方ないですけどね;


H.25 6/15



次へ