「……ごめんなさい。わたくし、気弱でしたわね」

再び、ティアたちの前に現れたナタリアは皆にそう言った。
その瞳にはもう迷いはなかった。

「では、バチカルへ?」

イオンが確認するように聞くとナタリアは頷いた。

「ええ。王女として……いいえ、一人のキムラスカの人間として、出来ることをやりますわ」
「そうこないとな」

ナタリアの言葉にガイは笑みを浮かべた。
そして、ジェイドは懐から折りたたんだ紙を出した。

「そう言ってくれると思って、今までの経過をインゴベルト陛下宛の書状にしておきました。外殻大地の問題点と一緒にね」
「問題点?」
「……何かありましたですか?」

アニスとアリエッタは首を傾げた。

「……障気ですね」
「そうか、そもそも外殻大地は、障気から逃れるために作れたものでもあるんだよな」

ティアとガイの言葉にジェイドは頷いた。

「ええ。障気に関しては、ベルケンドやシェリダンだけではなく、グランコクマの譜術(ふじゅつ)研究、それにユリアシティとも協力しなければ、解決策は見つからないと思います。しかし、そのためには……」
「まずは、キムラスカとマルクトが手を組まないと」

ジェイドの言葉に続けて、アッシュはそう言った。

「……アッシュ、あなたも一緒に来てくれますよね?」
「えっ? でも……」

ナタリアの言葉にアッシュは困ったような表情になった。
すると、

「行っておいで、アッシュ。イエモンたちには、私から言っておいてあげるよ」

タマラが優しくそう言った。

「タマラさん……ありがとう」

こうして、アッシュもルークたちと共にバチカルへと向かった。
小さな不安を胸に抱いて……。






〜Shining Rain〜








「ナ、ナタリア殿下……!」

バチカルに戻ったルークたちを出迎えたのは、城兵の驚いた声と、向けられた武器の煌めきだった。
その顔には戸惑いと躊躇いが見える。

「お戻りになるとは……覚悟はよろしいのでしょうな」

自分に向けられている武器に臆することなくナタリアは兵士たちを見つめた。
その王女の風格を持つ瞳に兵士たちの武器は揺らいだ。

「あっ、あなたには逮捕状が出ています。大人しく――」
「待ちなさい」

静かだがよく通る声でイオンが言い、アニスとアリエッタと共に前に出た。

「私はローレライ教団導師イオン。インゴベルト六世陛下に謁見を申し入れる」
「しっ、しかし……」

兵士が困ったように周囲を見回した。

「私の連れの者は、等しく友人であり、ダアトがその身分を保証する方々。無礼な振る舞いをすれば、ダアトはキムラスカに対して、今後一切の預言(スコア)を詠まないでしょう」

凛とした声が辺りに響き渡った。
それと同時に動揺が広がるのも解る。

「導師イオンのご命令です! 道を開けなさいっ!!」

ここぞとばかりにアニスは声を張り上げた。
兵士たちはそれに押されるように下がり、道が開かれた。
イオンは振り返って、アッシュたちに微笑んだ。

「行きましょう。まずは、国王を戦乱へとそそのかす者たちに厳しい処分を与えなければ」

ルークは頷いてナタリアを見た。

「……ナタリア、行こう。今度こそ、伯父上を説得するんだ」
「ええ」

そして、ルークたちはインゴベルトの自室へと向かった。





















「お父様!」

ノックもせず、ナタリアはドアを開けた。

「ナタリア!?」

突然の出来事にインゴベルトは動揺した様子で、立った拍子に椅子が倒れて鈍い音をたてた。
だが、彼は一人ではなかった。
何かの打ち合わせていたのか、テーブルを挟んだ反対側にルークとナタリアに毒入りワインを持ってきたアルバインがいた。

「へ、兵士たちは何を――」
「伯父上! ここに兵は必要ないはずです! ナタリアはあなたの娘だ!!」

アルバインの言葉を遮って、ルークは叫んだ。

「……わ、私の娘はとうに死んだ……」
「違う! ここにいるナタリアがあなたの娘だ! 十七年の記憶がそう言っているはずです!!」
「!?」

ルークの言葉にインゴベルトは目を見開いた。
それは以前にも聞いたことのある言葉だったから。
彼、そっくりの少年に……。

「陛下」

アッシュは一歩前へと出た。

「……突然、誰かに本当の娘じゃないって言われても、それまでの記憶は変わらない。親子の思い出は二人だけのもの……そう前に言いましたよね?」
「……そんなことわかっている。わかっているのだ!」

インゴベルトは苦しそうに唸ると、吐き出すようにそう言った。

「だったら!」
「いいのです。ルーク、アッシュ」

静かにナタリアは前に出た。
そして、インゴベルトの目を逸らすことなく真っ直ぐ見つめた。

「お父様……いえ、陛下。わたくしを罪人と仰るのならそれもいいでしょう。ですが、どうかこれ以上マルクトと争うのはお止めください」
「…………」

インゴベルトは答えなかったが、明らかに動揺しているようだった。

「インゴベルト王」

イオンが、すぅと前に進み出た。

「あなた方がどのような思惑でアクゼリュスへ使者を送ったのか、僕は聞きません。知りたくもない。ですが僕は、ピオニー九世陛下から、和平の使者を任せれました。僕に対する信を、あなた方のために損なうつもりはありません」

静かだが重みのある言葉に、インゴベルトは何も反論することが出来なかった。
そんなインゴベルトの様子を見て、それまで黙って見守っていたジェイドが何かを企むような笑みを浮かべて一歩前へと進んだ。

「こう、年若い者に畳み掛けれては、ご自身の矜持が許さないでしょう。後日、改めて陛下のご意思を伺いたく思います」
「ジェイド! 兵を伏せられたらどうするんだ!!」

ガイの指摘に、ジェイドは動じなかった。

「そのときは、この街の市民が陛下の敵になるだけですよ。先だっての処刑騒ぎのようにね。しかも、ここには導師イオンがいらっしゃる。いくら大詠師モースが控えていても、導師のお命が失われれば、ダアトがどう動くか……お解かりでしょう?」
「……私を脅すか、≪死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド≫」

インゴベルトの言葉に対して、ジェイドは涼しい笑みを浮かべた。

「陛下。この死霊使い(ネクロマンサー)が、周囲に一切の工作なく、このような場所へ、飛び込んで来ると思いですか?」

ジェイドは懐から一通の書状を取り出してそれをテーブルの上に置いた。

「この書状には今、世界に訪れようとしている危機についてまとめてあります。お読みいただけますよね?」

インゴベルトは黙ってその書状を手に取ると、ジェイドを一瞥した。

「……明日、謁見の間にて改めて話をする。それでよいな?」
「伯父上、信じています」
「失礼します。……陛下」

それを聞いたルークたちは踵を返して、部屋を後にした。
全ての結果は明日に託された。
























Rainシリーズ第7章第1譜でした!!
一体、私は何章まで書くのでしょう?全然進んでないし;
でもまぁ、気長にやっていくつもりなので(長すぎだけど;)
でも、さすがルークだねvvアッシュと同じことをインゴベルトに言ってるしww
次回はついに感動の親子愛を書けたらいいと思いますvv


H.24 12/22



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