アッシュが出て行った扉をローレライはジッと見つめていた。 『……ルーク。そなたはやはり変わらんな』 自分のことより他人のことを優先する。 特に……。 『……アッシュの為…か』 『ルーク』が動く大きな理由は、『アッシュ』と彼の仲間の為だ。 『……アッシュよ。いつか覚えていろ』 そんなことを知らない『アッシュ』にローレライはそう呟くのだった。 〜Shining Rain〜 「…………みんなと離れ離れになってしまいましたね……」 椅子に腰を下ろし、ナタリアはポツリと呟いた。 その隣にはルークが座っている。 今、ルークとナタリアがいるのはバチカル上のナタリアの部屋だ。 アッシュと引き離された後、ルークたちは連絡船に乗せられ、バチカルに着いたら、ルークとナタリアだけこの部屋に連れてこられた。 なので、ティアたちが今何処にいるのかルークにはわからなかった。 「ガイたちは一体何処にいるんでしょうね……」 「そうだな……」 ナタリアの問いに答えるルークは何処は浮かない顔をしていた。 ティアたちのことも勿論心配だが、それ以上に気になることがあった。 それはアッシュに言ったディストの言葉。 ――――……一度、身体を診るべき、みたいですし。 そう言ったディストの声音は今まで聞いたことのないくらい真剣なものだった。 アッシュの様態はそんなに悪いのか? それを確かめたくても、今はそれすら出来ない。 それが何よりもどかしかった。 その時、扉がノックされこちらの返事を待たずに開いた。 入ってきたのはアルバイン内務大臣だった。 完全武装した騎士二人を後ろに従えていて、その一人の手にはトレーがあり、ワインの瓶とグラスがひとつ、載せられていた。 「大臣……?」 そう問いかけたナタリアをアルバインは冷たい目で見下した。 「キムラスカ王女の名を騙りしメリル、並びにファブレ公爵の子息ルーク」 「メリル……? 何を言っているの?」 「議会では、そなたらから王位継承権を剥奪することを決定した。また、アクゼリュスにて救援隊を惨殺せし罪も重い」 「なっ、何を言っているのです!」 ナタリアは立ち上がってそう言った。 アルバインの話は明らかにおかしい。 アクゼリュスの人々は、アッシュがたった一人で全員を非難させたのだ。 だから、救援隊を惨殺させるなど出来るはずがないのだ。 「違いますわ! そんなこと、わたくしたちは……」 ナタリアの悲痛な訴えを無視して、アルバインは騎士に合図を送った。 その合図を受け、騎士はグラスにワインを注ぎ、それをナタリアへと突き出した。 「な、何ですの……?」 「……あなたも、一応は王族として育てられた身だ。せめて最期は潔く自決なさい。苦しまぬよう、との陛下のご配慮だ」 「毒……!」 アルバインの言葉にナタリアは絶句し、顔色が一変した。 それは、ルークも同じだった。 十八年の親子の絆なんてものは、血が繋がっていないと言う理由だけでこんなにも簡単に吹き飛ばせるものなのだろうか。 そんなはずがない、と考えていた俺たちが甘かったのだろうか。 ナタリアは、まるで時が止まったかのようにジッとグラスを見つめていた。 目の前に死がある。 確実な死が……。 そして、何より伯父上に自分の娘ではないと見離されたせいだろう。 「さぁ!」 アルバインが言葉で強く迫った。 (……ふざけんじゃねぇ!) アルバインを一発殴り飛ばしてやろうと思い、ルークが立ち上がった、そのときだった。 「トゥエ レィ ツェ クロア リュオ トゥエ ズェ」 辺りに聞き慣れた歌声が響き渡った。 すると、アルバインと騎士たちは崩れ落ちるようにその場に倒れ込んだ。 それとほぼ同時に部屋の中にティアたちが入ってきた。 「間に合ったわね」 ティアは、ルークとナタリアの顔を見るとホッとしたようにそう言った。 「……今まで、何処にいたんだ?」 「ここの地下牢に閉じ込められていたんだが……色々とあって抜け出せたわけさ」 「……?」 「説明は後でしますよぅ! よれより、早く逃げましょう!!」 ガイの説明を聴いて不思議そうな顔をするルークにアニスはルークの腕を掴んでそう言った。 「……あ、ああ……」 それにルークは頷き、外へ出ようとした。 「お待ちになって!」 すると、ナタリアの声が飛んできた。 振り向いてナタリアを見ると、彼女の顔はまだ蒼白したままで両手で口を覆っていた。 「……お父様に……陛下に会わせてください。陛下の真意を…聞きたいのです」 「ちょっ、何言って――」 「アニス。俺からも頼む」 アニスの言葉に遮ってルークはそう言った。 「それに、戦争を止める為にも、伯父上には会うべきだ」 ティアたちは顔を見合わせ、それからジェイドが呆れたように溜息をついた。 「……危険は覚悟してください」 「……ありがとう」 ジェイドの言葉に声を震わせながら、ナタリアはそう言った。 そして、ルークたちはインゴベルトがいる謁見の目へと向かった。 ルークは謁見の間の扉を躊躇いもなく開けた。 だが、次の瞬間ルークはしまったと後悔した。 そこには確かにインゴベルト王はいたが、他にも人がいたのだ。 しかも、それはモース、ナタリアの乳母、そして六神将のうち二人、≪死神ディスト≫と≪黒獅子ラルゴ≫であった。 「ナタリ、ア……」 インゴベルトは前に見たときよりやつれ、急に老け込んだように見えた。 そこには深い苦悩がはっきりと見て取れた。 「お父様……」 ナタリアは呟き、一歩前へ進んだ。 それにモースの眉が吊り上り、ナタリアを指差した。 「逆賊め! まだ、生きておっ――」 「お黙りなさい!」 ナタリアの一言はモースを怯ませ、黙らせた。 そして、そのままナタリアはインゴベルトへと向き直った。 「……お父様。お父様は、わたくしが本当にお父様の娘ではないと仰いますの……?」 「そ……それは……」 哀しそうなナタリアの言葉にインゴベルトの顔は歪んだ。 「……わしとて、信じとうは――」 「う、乳母が証言したのだっ!」 インゴベルトの言葉を遮るようにモースは言い、乳母を見た。 「おまえは亡き王妃様に使えていた使用人、シルヴィアの娘メリル! ……女、そうだな!?」 モースの言葉に乳母は蒼白になって、頷いた。 「……本物のナタリア様は、死産でございました。しかし、王妃様はお心が弱っておいででした。そこで、私は数日早く誕生しておりました、我が娘シルヴィアの子を王妃様に……」 「! ……そ、それは本当なのですの、ばあや!?」 乳母はナタリアの問いに答えず、顔を背けた。 「今更見苦しいぞ、メリル! おまえは、アクゼリュスへ向かう途中、自分が本当の王女ではないことを知り、実の両親を引き裂かれた恨みからアクゼリュス消滅に加担した!!」 「ちっ、違います! そのようなこと……っ!」 モースの視線から逃げたい一心でナタリアは一歩後ろへと下がった。 「伯父上! 本気ですか!? こんな話を本気で信じているんですか!!」 ルークは黙っていられなくなり、インゴベルトに向かって叫んだ。 「わしとて信じとうはない!」 そう言ったインゴベルトは拳を握り締め、微かに震わせる。 「だが……これのいう場所から嬰児の遺骨が発見されたのだ!」 「も、もしそれが本当でも、ナタリアはあなたの実の娘として育てられたんだ! あなたもそう思ってきたはず! 第一、ありもしない罪で罰せられるなんておかしい!!」 ルークがそう言うと、モースは鼻で嗤った。 「他人事のような口ぶりですな。貴公もここで死ぬのですぞ! アクゼリュス消滅の首謀者として。……そうですね、陛下」 「……そちらの死をもって、我らはマルクトに再度宣戦を布告する」 ルークたちの顔を見ようともせずにインゴベルトは掠れた声でそう言った。 インゴベルトの言葉にナタリアは衝撃のあまり動けなくなった。 「あの二人を殺せ!」 モースの言葉にディストは前へと出た。 だが、ラルゴは目を閉じたままその場を動こうとはしなかった。 「何をしているんです、ラルゴ? 他の者にかかってもよいのですか?」 「……強引に連れてこられたと思えば、こういうこととはな」 瞼を開けるとラルゴはディストを一瞥した。 だが、ディストはそんなことなど気にすることなく、すうと椅子を移動させ、こちらへと迫ってくる。 そのとき、背後で扉が開く音が聞こえ、ルークは振り返った。 そこにいる人物の姿を見てルークは動けなくなった。 それは、ルークだけでなく、ここにいる全員がそうだった。 「……やっぱり、ここにいたんだな。ルーク」 満面の笑顔が自分たちに向けられる。 夕焼けのように赤い長髪が静かに揺れている。 「…………アッシュ」 ルークが小さくその人物の名を呟いた声は誰の耳にも届いてはいなかった。 Rainシリーズ第6章第9譜でした!! 更新お待たせしました!(誰も待ってない) お〜い、ローレライよ。嫉妬はあかんよ。嫉妬はww その嫉妬が変なことをしなきゃいいんですが;(させるのは私だが;) ルークは本当にアッシュが心配で溜まりません! そうこうしている内に再びアッシュと再会ですよ!! H.23 9/1 次へ |