突如、ルークたちの前に現れた人物に誰もが動けなくなった。 夕焼けのように赤い長髪が静かに揺れ、美しい翡翠の瞳が真っ直ぐと自分たちへと向けられる。 「……やっぱり、ここにいたんだな。ルーク」 そんなルークたちを見て彼は笑顔を浮かべた。 「…………アッシュ」 小さくそう呟いたルークの声は誰の耳にも届かなかった。 〜Shining Rain〜 「人が折角、牢屋から出してあげたのに。さっさと逃げないとダメじゃん」 「牢屋から……。ってことはおまえが……」 ガイが妙に歯切れの悪い台詞を言ったのはこの為だったのか。 「アッ、アッシュ! 何故ここに!? 手錠はどうしたんですか!?」 「ああ、あれ? あれだったら、壊して外したよ」 ディストの問いにケロッとした顔でアッシュそう言った。 「こっ、壊した!?」 「ほら、さっさと逃げないと捕まっちゃうよ?」 真っ青になっているディストを完全に無視してアッシュはルークたちにそう言った。 「だったら、おまえも一緒に来い!」 「そうです! 兄さまも一緒に逃げるです!!」 「バカだなぁ。ここで誰かが食い止めないといけないだろ? ……だから、早く行って!」 ルークとアリエッタの言葉にアッシュは苦笑してそう言った。 アッシュの言葉にジェイドは静かに頷いた。 「わかりました。ここは、アッシュにお任せします」 「!? ジェイド!!」 「文句は後で聞きます。それとも、あなたはここで無駄死にするつもりですか?」 「……チッ!」 ジェイドに返す言葉が見つからず、ルークは舌打ちをした。 そして、ルークたちは踵を返して、外を目指して走り出す。 「おい! 死んだら、承知しねぇぞ!!」 アッシュとすれ違ったとき、吐き捨てるようにルークはそう言った。 それに対して、アッシュは笑みを浮かべた。 「……そっちこそ」 そう呟くアッシュの声はルークの耳にはちゃんと届いていた。 「アッシュよ! こんなことをして、許されるとでも思っているのか!!」 ルークとナタリアを殺し損ねたモースは怒りの矛先をアッシュへと向けた。 だが、アッシュはそんなことはもろともせずモースを一瞥すると、すぐに視線をインゴベルトへと移した。 インゴベルトはまるで信じられないものを見たような表情でアッシュを見つめていた。 「……陛下。お初にお目にかかります」 「そっ、そなたは……一体……?」 己の甥にそっくりな容姿と声のアッシュにインゴベルトは恐る恐る声をかけた。 「私は……七年前、ルークを基にして創られた複製人形……レプリカルークです」 「っ!?」 アッシュの言葉にインゴベルトが愕然としたのがよくわかった。 「……陛下。あなたは勘違いをしています。アクゼリュスを崩壊させたのはルークではありません。この私、アッシュです」 「アッシュ! 何を言って――」 「そして、これは私一人で行ったこと。よって、アクゼリュスのことで裁かれるべきは、私だけのはずです!」 ディストの言葉を遮って、アッシュはそう宣言した。 「……陛下。あなたにとって、ナタリアは娘ではないと仰るのですか?」 「…………」 アッシュの言葉にインゴベルトの顔が歪む。 「確かにあなたとナタリアは血は繋がっていません。……でも、ナタリアは確かにあなたの娘です。十七年の記憶がそう言っているはずです!」 「……記憶」 小さく呟くインゴベルトにアッシュは頷いた。 「そうです。突然、誰かに本当の娘じゃないと言われても、それまでの記憶は変わらない。親子の思い出は二人だけのものです。……違いますか?」 「……そ、それは――」 「ええい、黙れ! レプリカ如きが!!」 インゴベルトの言葉をモースが遮って、手を振り払う。 それと同時に扉が開き、神託の盾兵がアッシュを取り囲んだ。 だが、アッシュはそれを気にすることなくジッとインゴベルトを見つめていた。 「ちょっ、ちょっと! アッシュに何するつもりですか!?」 それに反応したのはディストだった。 隣にいるラルゴもさっきのモースの言葉に怪訝そうに眉を顰めていた。 「決まっている! こやつを殺して、戦争を再開させるのだっ!!」 モースのその一言にディストの顔つきが変わった。 「……あなた、馬鹿ですか? アッシュはルークのレプリカであって、ルークではありません! あなたの望む、預言とは違います!!」 「こやつが言ったのだぞ。自分がアクゼリュスを崩壊させたと。なら、預言に詠まれている≪聖なる焔の光≫はこやつのことだ! 間違ってはおらん!!」 (これは、ここまで腐っていたとは!!) ディストは唇を噛み、神託の盾兵へと視線を向けた。 「あなたたち! 武器を下ろしなさい!! 彼を傷付けたら私だけでなく、ヴァンが黙っていませんよ!!」 ディストがそう言ったが彼らは微動だにしなかった。 「残念だが、あやつらは私直属の兵だ。ヴァンにどう思われようが知ったことではない」 「なっ!?」 「……そうくるか」 モースの言葉にディストは絶句し、ラルゴは呆れたように呟いた。 まさか、モースが自分直属の兵を作っていたとは夢にも思っていなかった。 (だっ、だったら……) ディストは椅子を浮かせ、アッシュへと近づき手を伸ばした。 「アッシュ! 掴まりなさい!! ここで、あなたを死なせるわけにはいきません!!」 ディストの必死な声にアッシュは漸く視線をインゴベルトから外した。 そして、ディストに笑みを返した。 「……ごめん。俺は、その手を取れないよ」 「っ!?」 アッシュの思っても見なかった言葉にディストは硬直した。 そして、アッシュはそのままモースを一瞥した。 「……この際だから、ついでに言っておく。……俺が生まれたことで、この世界は確実に預言とは違う道を歩んでいる」 アッシュの言葉にモースは苦虫を噛んだような顔になった。 「そして、例え世界が預言通りになったとしても、その繁栄は決して長くはない」 「でっ、でたらめを言うでない!!」 「でたらめでこんなこと言うと思う? これは紛れもない事実だ」 アッシュの言葉を信じようとしないモースに対してアッシュははっきりとそう言い切った。 「だっ、黙れ! 預言に従えば、未曾有の繁栄が訪れるのだ!! さぁ、さっさとこやつを殺せっ!!」 モースが吠えるようにそう指示を出すと、神託の盾兵は一斉にアッシュへと剣を振り下ろした。 刹那 「――――」 アッシュが他人には聞こえない程の小さな声で呟くと、アッシュの周りに突風が吹き荒れた。 その風に皆、目をかばって目を瞑った。 風が止み、彼らは目を開けると、目の前に広がる光景に驚いた。 先ほどまで確かにそこにいたはずのアッシュの姿が何処にもなかったのだ。 「何をしておる! さっさと、あやつを探し出せ!!」 モースの怒鳴り声に神託の盾兵は散り散りに散っていった。 そして、謁見の間はまた静かさを取り戻したのだった。 Rainシリーズ第6章第10譜でした!! ここまで読んだ人は大体解ると思いますが、はっきり言って私はモースが嫌いです!! だから、モースがメッチャ悪者になってます!! 預言の為なら何をしてもいいのか!おまえは!! ディストにさえ馬鹿呼ばわりされるところは好きですねww H.23 9/1 次へ |