「……なんだ?」

ダアトに着いたルークたちは教会の階段辺りに人が詰め掛けているところを見かけた。
階段の上には人々に取り囲まれた詠師トリトハイムの姿があった。
ルークたちは、彼に気付かれないように人々の間に紛れ込んだ。







〜Shining Rain〜








「一体、いつになったら船を出してくれんだ!」
「港に行ったらここに訊けと追い返されたぞ!」

人々の抗議の声にトリトハイムはゆっくりと腕を上げて宥める。

「よいか、方々! ルグニカ大陸の八割が消滅したのだ! この状況ではあまりにも危険すぎて定期船を出すことはできぬ!」
「うっ、嘘をつくな! そんな訳ないだろう!!」

トリトハイムの言葉を聞いた人々はそう叫んだ。
オールドラントの地表の三分の一近くが消え失せたなどと言われても信じるほうが難しいだろう。

「嘘ではない! 事実なのだ!!」
トリトハイムの言葉に人々が息を呑んだのがわかる。

「ルグニカ大陸の消滅によって、マルクトとキムラスカの争いも休戦となった。とにかく、もっと詳しい状況がわかるまで船は出せぬ」
「……ルグニカ大陸といえば、世界で一番でかい大陸だ。それが消滅するだなんて……」
「信じられん!」
「どうなっているんだ、世界は……!!」

暫くの沈黙の後、人々は先程とは全く違う不安に襲われ、ざわつきだした。

「方々!」

それをトリトハイムが頃合いを見計らって静止させた。

「……案じめされるな。この世で起こる全てのことは、預言(スコア)に記されているはず。いずれ導師イオンか、大詠師(だいえいし)モースよりご説明があろう。今は心を落ち着けて待たれよ」

それを聞いた人々は、決して納得したわけではないだろうが、教会前広場から去っていった。
ルークたちも彼等に混じって一旦教会から離れた。

「この状況で戦いを続けるほど、インゴベルト陛下も愚かじゃなかったってことだな」
「ええ……。それだけが救いですわ……」

ガイの言葉にナタリアは小さく頷いた。

「でも、世界に大きな異変が起こらないと止まらないというのも皮肉なものね」

そう言ってティアは、呆れたように溜息をついた。

「……戦争も崩落も民にとって命を脅かすという意味では同じもの。……そのことを施政者が理解できれば、戦争など起きなくて済んだかもしれませんのに……」
「あ〜あ。偉い人はいっつも自分達の都合のいいことばーっか。ほんと、やんなっちゃう!」

アニスは頭の後ろで手を組むと口を尖らせてそう言った。

「これから戦争と崩落で混乱した人々を、両国は治めていかなければならない。……今のような情勢下でこそ、国を治めるものの才覚が問われるんじゃないかしら」
「わたくしは……やはり、わたくしも考えなければいけませんね。……公事触れてきた者として、今からどのようにすべきかを……」

そう言ったナタリアの声はとても重かった。

「……とにかく、イオン様にお会いして、教団の機密情報を調べていただきましょう。この先、どう対処するかわかれば、パニックを抑えられるでしょうし」
「……ところで、イオンは何処にいるんだ?」

譜陣(ふじん)が描かれていて、侵入者対策になっているの」

ルークの問いに少し困ったような表情を浮かべてそうティアは言った。

「そんなときは、導師守護役(フォンマスターガーディアン)のアニスちゃんにお任せ♪」

ティアの言葉にビシッと人差し指を立ててアニスは言った。

「……『元』、だろ?」
「ぶ〜〜。『元』だけど、ちゃんとお部屋に続く譜陣(ふじん)を発動する呪文、知ってるますよ」
「『元』だったら、アリエッタも知ってるんじゃないのか?」
「ア、アリエッタは……」

何気ないガイの一言にアリエッタの瞳は曇った。

「……アリエッタ、今の呪文は……知らない……です」
「あ゛っ; そうか。……すまない……」

訊いてはいけなかったことを聞いてしまったガイは申しわけなさそうにそう言った。
それにアリエッタは首を振った。

「いいえ。……いいんです。二年前に解任されたアリエッタが知ってるほうがおかしいと思う、です」
「では、呪文の方はアニスにお任せしますか」

そう言って、ジェイドは辺りを見渡した。
先程までいたトリトハイムも、神託の盾(オラクル)兵も既に引き上げたようで、外にその姿はなかった。

「……では、そろそろ行きますか」

ジェイドの言葉にルークたちは頷き、教会へと向かって歩き出した。
だが、アッシュだけは歩き出そうとはしなかった。

「……どうした、アッシュ?」

それに気がついたルークは一旦足を止め、アッシュへと振り返った。
それにつられて、ティアたちも足を止めた。

「……悪いけど俺、イオンの部屋に行く前に寄りたいところがあるんだよ」
「それは……何処ですか?」
「……図書室。後もう一箇所あるけどそこは……俺独りだけで行きたいところなんだ」
「え〜〜〜〜っ!? でも、早くイオン様に会ったほうが……」
「たぶん、今イオンは部屋にはいないと思うよ。今だったら、図書室にいると思うし……」
「根拠がありそうですね。それはどうしてですか?」
「そっ、それは……」


「……と、とにかく、すぐに戻ってくるから、ここで待ってて!!」
「お、おい! アッシュ!!」

アッシュは、そう言うと教会へと走り去っていった。
それをルークは止めようとしたが、間に合わなかった。

「……どうする、ジェイド?」

この状況にガイは困ったような表情を浮かべながらジェイドに尋ねた。

「……仕方ありませんね。アッシュの言うとおりにするとしますか」

ジェイドは溜息をつくとそう言った。
それから数分後、アッシュはルークたちと再び合流し、イオンがいるであろう図書室へと向かったのだった。
























Rainシリーズ第6章第6譜でした!!
しまった…。はっ、話が全然進んでないし!!(°□°;)
つーか、トリトハイムが一気に出すぎなんですけど;
アッシュは突然どっかへ行っちゃうし;
何処に行ってたんだろうね?


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