「……ジェイド。それは何の本だ?」

ザオ遺跡の中を進みながら、ジェイドはアッシュから受け取った本を読んでいた。

「これは、創世暦時代の歴史書……ローレライ教団の禁書ですよ」

ジェイドは本から目を離すことなくガイの質問に答えた。

「! でも、それはローレライ教団が全て回収したはずですよ!」
「ええ……。アッシュは一体どうやってこんなものを手に入れたんでしょうね。それに、これを私に渡すということはかなり重要なことが書いてあるでしょうね」

フッと笑みを浮かべてジェイドは本のページを捲った。

「……どうでもいいが、歩きながら読むなよ。魔物が出たらどうする……!」

ルークがそう言いかけたとき草むらが不自然に揺れた。
そして、ジェイド目掛けて魔物が飛び出してきた。

「ジェイド! あぶね――」

ルークが剣を握り走り出そうとしたとき、ジェイドは本に目を離すことなく魔物に槍を投げつけた。
槍が魔物に見事に命中し、魔物は瞬時に音素(フォニム)へと還った。

「「「「「…………」」」」」

その光景を見たルークたちは唖然とした。

「何か言いましたか、ルーク?」
「……いや。……何でもない」

何事もなかったかのようにそう言うジェイドに、少し恐怖感を覚えながらルークはそう答えたのだった。






〜Shining Rain〜








「……アリエッタ。そんなにくっつかなくても、俺は逃げないって;」

砂漠のオアシスにある宿屋の一室に移動したアッシュはアリエッタにそう言った。
アリエッタは、アッシュが逃げないようにアッシュの服の裾をしっかりと握っているのだ。

「ジェイドと約束した、です。兄さまをちゃんと見張ってるって」
「だ、だからって、そこまでしなくても;」
「それは、アリエッタがそうしたいからです♪」

笑顔でそう言うアリエッタの言葉にアッシュは小さく溜息をついた。
アリエッタはもっと大人しい子だったのに……。
おそらく、ジェイドの影響だろう。
恨むよ、ジェイド。

「……? 兄さま、その指輪……どうしたんですか?」

アリエッタは、アッシュに左手に視線を向けるとアッシュにそう言った。
そこには金色のリングに燃え上がる炎のように赤い宝石が嵌め込まれた指輪があった。
肌理細やかなリングの模様は、ティアが付けていたブレスレットによく似ていた。

「ああ……。これはケセドニアで売ってたやつだったけど?」
「……ティアのブレスレットとおそろい、です」
「あっ、うん。ペア……だったから……って、アリエッタ! 何してるの!?」

左手にある指輪をアリエッタは無言で外そうとしていたので、アッシュはそれを慌てて止めた。

「ダメです! 他の指に嵌めるです!!」
「えっ? だって、この指にしか入らなかったし……」
「だったら、せめて右手に嵌めてください、です! そこはイヤです!!」
「わっ、わかったから! 右手に嵌めるから……」

何故か今にも泣き出しそうな表情なアリエッタにアッシュは慌ててそう言った。
そして、左手の薬指から指輪を外すと右手にと嵌め直した。

(……そういえば、ローレライも同じようなことを言ってたよな……)
――――頼む、『ルーク』! その指には指輪を嵌めないでくれ!!

この前ローレライと会ったとき、アッシュの右手を見た途端、ローレライは物凄い形相でそう言ったのだった。
そのときは、後で嵌め直すと言って軽く受け流したのだった。

(……でも、どうしてダメなんだろう?)

アッシュにはわからなかった。
いや、知らなかったのだ。
その指には、結婚指輪を嵌めると言うことを……。





















「……よかった。ここでも私に反応してくれたわ」

パッセージリングの前に置かれた譜石(ふせき)はティアが近づくと、シュレーの丘のときと同じように開き起動した。
リングの上に譜陣(ふじん)が出現すると、一瞬赤色のフォニック文字が浮かび上がってすぐに消えた。

「大佐。やっぱり総長が封じていますか?」
「そのようですね。しかし……セフィロトが暴走……?」
「へっ?」

アニスは、ジェイドの呟きを最後まで聞き取ることが出来なかった。

「おい。この前と同じようにあの赤いところを削り取ればいいんだな?」
「ええ、お願いします」

ジェイドの言葉を聞くと、ルークは精神を集中させ、超振動(ちょうしんどう)を発生させた。
この前と同じように慎重に円の周りの赤い線を削り取っていく。
赤い線を綺麗に削り終わると第四セフィロトは強く輝きだした。

「その後は、ジェイド?」
「光の真上に上向きの矢印を彫り込んでください」

ルークはそれに頷き、ジェイドの言うとおり矢印を刻む。
たったそれだけのことなのに、額からうっすらと汗が滲んできた。

「大佐、私が代わりましょうか?」

そんなルークの様子を見てティアはそう言ったが、ジェイドはそれに首を振った。

「いえ。強引に暗号を消去していますから、通常の操作では書き込みが出来ません。ルークの超振動(ちょうしんどう)で無理矢理削っていかないと。……ルーク。次に命令を記入するんですが、古代イスパニア語は当然わかりますよねぇ?」
「…………ああ」

ジェイドの言い方に少しムッとしつつ、ルークは頷いた。

「わかりました。では、『ツリー上昇。速度三倍。固定』と書き込んでください」
「わかった」

ルークはその通りに譜陣(ふじん)に文字を刻んでいった。
全ての文字が書き終わったと同時、文字が輝きだし、パッセージリングのしたから記憶粒子(セルパーティクル)が噴き上がってきた。

「うまくいったみたいだな」
「でも、まだエンゲーブが……」
「ルーク。続いて第四セフィロトからその、第三セフィロトに線を延ばしてください」

ジェイドは指で指し示しながらそう言った。
線を刻んで二つを繋げると、第四セフィロトから光が流れていき、第三セフィロトが輝きだす。

「後は第三セフィロトに先程と同じことを書き込んでください」
「……わかった、やってみる」

ルークは頷くとさっきと同じように文字を刻んでいった。
無事に全ての文字を刻み終えると、さっきと同じように文字が輝きだした。
ジェイドとティアが起動した制御盤を見つめた。

「……降下し始めたようですね。念のため、降下が終了するまでパッセージリングの傍に待機していましょう」

こうして、ルークたちは数時間パッセージリングの傍で待機することになったのだ。





















「……間違いなく、魔界(クリフォト)だな……」

パッセージリングの傍で待機してから数時間後、ルークたちはザオ遺跡から外に出た。
ザオ遺跡を出た瞬間、空気や空の色が外殻大地とは違っていたので降下が成功したことがわかった。

「でも、アッシュと合流した後、どうやって外殻に戻ろうの?」
「そうか……。アルビオールは、まだ戻ってなかったな」

アニスの問いにガイはあっ、と言った感じでそう言った。

「オアシスにはアルビオールも止まってなかったし」
「ノエルとの合流場所はケセドニアです。ノエルの腕なら、降下中の大陸にも着陸できたと思いますが……」
「あっ!」

ジェイドの言葉を聞きながら空を見上げていたティアが声を上げ、空を指差した。
その先には白銀の翼がこちらへと跳んでくるのが見えた。
それは、間違いなくアルビオールである。
アルビオールはルークたちの近くに着陸すると、コクピットの窓の一部が開いた。
そこからノエルの顔が現れる。

「皆さん! ご無事でしたか!!」
「そっちこそ!」
「エンゲーブの人たちは!?」
「無事にケセドニアに運び終えました! それで、皆さんがこちらに向かったと聞いて……」
「よかった〜。お疲れさま〜♪」

アニスはホッと胸を撫で下ろすと、ノエルに手を振った。
それにノエルは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「ノエル。到着早々申し訳ありませんが、飛んでもらうことは出来ますか?」
「もちろんです!」

ジェイドの問いにノエルがそう答えると、タラップが下りてきた。
ルークたちはアルビオールに乗り込むと、タラップは閉じて、アルビオールは上昇した。

「お帰りなさい」

コクピットへ入ると、ルークたちはノエルの明るい声に迎えられた。

「何処へ向かいますか?」
「とりあえず、砂漠のオアシスに行ってもらえますか?」
「はい! わかりました!!」

ジェイドの言葉にノエルは頷き、アルビオールを加速させた。
そして、ルークたちはアッシュのいるオアシスを目指したのだった。
























Rainシリーズ第6章第4譜でした!!
さすが、ジェイドです!!ここにジェイド最強説誕生です♪
それを見て呆然とするルークたちがまた面白いです♪
そして、アッシュはアリエッタのお相手中(?)
無意識に左薬指に指輪をつけるアッシュが最高です!!


H.22 5/15



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