――――……ルーク。聞こえる?

アスターの屋敷を出た途端、ルークの頭の中に声が響いた。

自分より少し高い声が……。

(…………ああ、聞こえてる)

ルークはその声の持ち主の呼びかけに答えた。






〜Shining Rain〜








――――……今……何処にいるの?

ルークが呼びかけに答えると少し安堵したような声でアッシュはそう尋ねてきた。

(……ケセドニアだが)
――――ケセドニア……か。待ってて……今、そっちに……行くから……。
(……おい。おまえは何処にいる?)
――――えっ? でも……俺がそっちに……。
(何処にいるかって聞いてるんだ! 答えろ!!)

戸惑うアッシュにルークはそう言い放つ。

――――…………砂漠の……オアシス……。
(……わかった。大人しくそこで待ってろ)
――――えっ? ちょっ、ちょっと、ルーク!?
「おい。ザオ遺跡に行く前に寄りたいところがある」

ルークはアッシュの声を無視してティアたちに話しかけた。

「……何処へですか?」

それにジェイドが不満そうな声で尋ねる。

「砂漠のオアシスだ。そこにアッシュがいる」
「アッシュが!? それって本当なの!?」

ルークの言葉に誰よりも速く反応したはティアだった。

「ああ。今、あいつの声がそう言ってたから……間違いない」
「完全同位体による、同調フォンスロットでの会話……ですか」

ジェイドは眼鏡の位置を直しながら、そう呟いた。

「それでしたら、仕方ないですね。オアシスはザオ遺跡に行く途中でありましたし」
「ああ。……とにかく、急ごう」

ジェイドの言葉に頷き、ルークたちは砂漠のオアシスへと向かい始めた。





















「ご主人様! こっちですの!」

オアシスへと着いた途端、ルークたちはぴょんぴょん飛び跳ねる青い物体を見つけた。

「ミュウ! おまえ、今までアッシュと一緒だったのか?」

突然姿を消していたミュウを見つけ、ルークはそう尋ねる。

「はいですの! ボクは、アッシュさんと一緒だったですの!」

その問いにミュウは元気よく答えた。

「……って、今はそんなことどうでもいいですの! アッシュさんが……アッシュさんが大変なんですの!」
「「「「「「!!」」」」」」

ミュウの言葉にルークたちの表情は一変した。

「ミュウ、アッシュは何処だ?」
「こっちですの!」

ルークの問いにミュウは、ぴょんぷぴょん跳ねるように歩き始めた。
ルークたちはミュウの後に続いて歩く。
すると、湖のほとりの一本の樹に人影があった。
美しい夕焼けのように赤い髪が静かに揺れている。

「アッシュさん! ご主人様たちが来たですの!!」

ミュウはそう言って、アッシュの胸へと飛び込む。
樹に背を預け、眠っていたアッシュはそれによってピクリと指が動いた。
瞼が徐々に上がり美しい翡翠の瞳が現れると、その瞳をルークたちへと向けた。

「……ルーク。……思ったより、早かったね……」

そう言ったアッシュの声はとても弱々しかった。

「兄さま!!」

アリエッタはすぐさまアッシュの許へと駆け寄った。

「アリエッタ……。元気だった?」
「アリエッタは元気、です。でも……兄さまは……」

今にも泣きそうなアリエッタの表情を見てアッシュは優しく笑う。

「……俺なら……大丈夫。ちょっと疲れただけだから……」

アッシュの言葉とは裏腹にアッシュの顔色は良くなかった。

「……癒しの光! ――――ヒール!」

ナタリアが詠唱を唱え、治癒譜術(ちゆふじゅつ)をアッシュにかけた。
優しい光がアッシュを包み、見る見るうちにアッシュの顔色は良くなっていた。

「ありがとう、ナタリア」

アッシュがそう言うとナタリアは笑みを浮かべて答えた。

「何故、こんなところに倒れていたのですか?」
「えっ? いっ、いや……それは……;」

ジェイドの問いにアッシュは困ったように笑った。

「……ルークと回線を切った後、突然眩暈がして……。気が付いたら、ルークたちがいるって感じなんだけど;」
「「「「「…………」」」」」
「……なるほど。同調フォンスロットを繋ぐことによって生じる弊害ですか」

アッシュの言葉にルークたちは唖然としている中、一人納得したようにジェイドがそう言った。

「大佐、それは……一体……?」
「ルークとアッシュは完全同位体ですから、同調フォンスロットを繋ぐことが出来ます。しかし、それはレプリカ、つまりアッシュの身体にはかなりの負担がかかるということです。しかも、アッシュはそれを自ら繋いでいますから、相当な負荷になっているはずですよ」
「…………さすが、ジェイドだね」

ジェイドの説明にアッシュは苦笑した。

(……そう、だったのか……)

いつも頭の中で響くアッシュの声が苦しそうだった理由がやっとわかった。
今まで、何度も回線を繋いでいたのに今まで気付けなかった。
それをジェイドは瞬時に見抜いてしまった。
それが悔しかった。

「大丈夫だよ、ルーク。ルークのせいじゃないんだから」

そんなルークにアッシュは困ったような笑みを浮かべた。

「だが……」
「本当に大丈夫だって。今回はちょっと疲れた溜まってたからだし。……それに、これは俺が好きでやってることだし。だから……気にしないで、ね?」
「…………」

アッシュの言葉にルークは何か言いたげな表情になったが何も言わなかった。

「……ところで、ルークたちはケセドニアにいたみたいだけど、これから何処に行くの?」
「これから、ザオ遺跡に向かうんだ。セフィロトの噴き上げを利用して、ケセドニアを安全に降下させるつもりなんだ」

アッシュの問いにガイはそう答えた。

「……そうなんだ。……実は、エンゲーブが崩壊し始めてるんだ。暫くしたら、戦場も崩落が始まる」
「そんな! このままだと、戦場にいる全員が死んでしまいますわ!!」

アッシュの言葉にナタリアは息を呑んだ。

「ですが、ザオ遺跡に向かった後、すぐにシュレーの丘へ向かっても間に合うでしょうか……」
「…………方法はある」

ジェイドの問いにそうアッシュは呟いた。

「……あなたがシュレーの丘へ向かうと言うならそれは却下させていただきますよ?」
「…………それもあるけど……他にもあるよ;」

考えていたことをジェイドに言われアッシュは苦笑いする。

「元々セフィロトは星の内部で繋がっている。だから、パッセージリング同士も繋がっているんだ。リングは普段、休眠しているけど、起動さえすれば遠くのリングを別のリングから操作できるんだ」
「それは……つまり、ザオ遺跡のパッセージリングを起動させれば、既に起動しているシュレーの丘のリングを動かせる……そういうことですか」
「……そういうことになるかな」

ジェイドの言葉にアッシュは頷くと、立ち上がった。

「……俺も一緒に行く」
「アッシュ! ダメよ! そんな身体で!!」

ティアはアッシュの腕を掴み必死にそう言った。

「そうです! ちゃんと休んだほうがいいです!!」
「大丈夫だよ。ナタリアの治癒譜術(ちゆふじゅつ)が効いてるから」
「で、でも……っ!」

今にも泣き出しそうなアリエッタの表情にアッシュは困ったような顔をした。

「……残念ですが、私も彼女たちと同意見ですよ」

ジェイドは溜息ひとつつくと、アッシュにそう言った。

「パッセージリングのある場所はとても危険です。そんないつ倒れてしまってもおかしくない状態でついて来られたら、はっきり言って迷惑です」
「ジェイド! おまえ、そんな言い方はないだろ!!」
「いいんだ、ガイ」

ジェイドの言葉を聞き怒鳴るガイにアッシュはそう言った。

「……わかった。俺はここに残るよ。……ありがとう、ジェイド」
「……何故、私にお礼を言うのですか?」
「ジェイドは俺のことを心配して、そう言ったんだろ? それくらい、わかるよ」

ジェイドのことを冷たい人、心のない人だと人は言う。
でも、それは間違いだ。
彼は冷たい人、心のない人なんかじゃない。
ただ、不器用なだけなんだ。

「! ……いっ、いえ」

ジェイドは驚いたような表情になり、そしてアッシュから視線を逸らした。

「ガイもありがとうね」
「……いや、俺は別に……。それより一人で大丈夫か? なんなら俺が……」
「アリエッタ。兄さまとここに残ります。兄さまが一人で出歩かないように見張る、です!」

ガイの言葉を遮って、アリエッタは手を上げてそう言った。

「……アリエッタ。俺のこと、信じてない?」
「はいです!」

アッシュの問いにアリエッタは即答した。
それにアッシュはガクッと肩を下げた。

「ボクも残るですの! アッシュさんの傍にいるですの!」
「おまえはダメだ。おまえがいないと、仕掛けの解除が面倒なんだよ!」
「みゅううぅぅ;」

ルークに摘み上げられたミュウは短い手足をバタバタと動かした。

「では、我々はザオ遺跡に行ってきます。アリエッタ、アッシュのこと頼みますね♪」
「はいです♪」

ジェイドの言葉にアリエッタは、笑ってそう言った。
いつの間にこの二人はこんなにも仲良くなったのだろうか?
アリエッタの返事を聞きジェイドは踵を返して歩き出そうとした。

「あっ! ちょっと、まっ……!」

アッシュはそれを止めようとしたが、砂に足をとられてバランスを崩し、そのまま倒れた。
そのはずなのに、アッシュは痛みを感じなかった。

「ル、ルーク!?」

咄嗟に目を瞑ったアッシュが恐る恐る目を開けると地面が見えるはずのところにルークの顔が見えた。
地面とぶつかったのはルークで、アッシュはルークを押し倒すような格好になっていた。

「……ちゃんと足元を確認して歩けよ」

美しい翡翠の瞳が不機嫌そうにアッシュを見つめた。

「ごっ、ごめん///」

アッシュはルークから慌てて離れた。
ルークの顔を突然間近で見たせいか、心臓がバクバクしている。

「ジェ、ジェイド。これ……ジェイドに渡しておくよ」

早鐘を打つ心臓を宥めながら、アッシュはカバンから古びた本を一冊取り出し、ジェイドに手渡した。
それを受け取ったジェイドは本の表紙を見ると表紙が一変した。

「これは……! ……一体、何処でこんなものを?」
「えっと……まぁ、それは……いろいろと、ね;」

ジェイドの問いにアッシュは苦笑しながらそう答えた。

「暇なときにでも、読んでみてよ。……きっと、役に立つから」
「……ええ。そうさせていただきます。では、我々はもう行きますが、くれぐれも大人しくしててくださいね。そうでなかったら、お仕置きですよ♪」

ジェイドの言葉にアッシュは苦笑するしかなかった。
























Rainシリーズ第6章第3譜でした!!
いまさら、同調フォンスロットを開くときのアッシュの弊害に気付くルーク。
遅すぎだよ!ルーク!!ジェイドはすぐに見抜いたのに!!
そして、ちょっとしたトラブルもww
ルークを押し倒しちゃって大胆だな、アッシュはww


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