「なぁ、あそこはどうだ?」

ガイはルークたちを兵から離れた場所へと手招きし、ある建物を指差した。
その建物は国境を跨ぐようにして建っていた。
それぞれの国の側にひとつずつ扉が備え付けられていた。

「酒場か」

ガイはルークに頷いた。

「ああ。あの店の中を通れば国境を越えられるじゃないか?」
「……何も手段を講じてないとは思えませんが、試す価値はあるかもしれませんね」

ジェイドは眼鏡の位置を直しながらそう言った。

「だろ? 行ってみようぜ!」

ガイの言葉にルークたちは頷くとナタリアを促して、酒場の扉を開けた。






〜Shining Rain〜








扉を開けると、酒の臭いが熱気と共に押し寄せてきた。
その臭いだけで酔いそうだが、人はほとんどいなかった。

「……やっぱりか」

店の中は、ちょうど国境のところに机が積み上げられて、真ん中に人が通れるほどの隙間があった。
その前と後ろには椅子が置かれて入れ、それぞれに見るからに屈強そうな男が座って鋭い目を向けていた。

「……どうする? たぶん、ここ以外には国境を越えられる場所はないぜ。あの二人だけなら、外の連中に気付かれずに排除することも出来る。到底、話してわかる相手には見えないぜ」

ガイは男達に聞こえないくらいの声でルークたちにそう言った。

「……ふむ。ガイの言うとおりでしょう。ただの人間……しかも、こんな酒場に用心棒のような一般人を殺すのは、わけありません。私は戦いのプロですからね。ですが……他の手段があるようですよ?」
「何?」

ジェイドがそう言ってある方向に視線を向けた。
すると、何処かに隠れていたのか、すぐ近くで複数の足音がして、振り向くとそこには何処かで見たことのある顔があった。

「ぐへへへ……国境、通りたいのか?」
「あっ! おまえら!!」
「おや? いつかの坊ずたちか」

眼帯と大きな襟飾りのついた海賊服を着た男と、髭面でハゲ頭のシルクハットを被った男だった。
ルークたちは一斉に武器へと手を伸ばした。

「『漆黒の翼』!!」

背の高い男がヨークで、ハゲ頭の小男がウルシーだ。
だが、彼らの頭である女、ノワールの姿はここにはなかった。

「あんたら国境を越えたいんだろ? ここはあっしらが任されているんだ。気持ちさえあれば、通してやってもいいぞ」

ルークたちの行動など気にせず、そうヨークは言った。

「お金を取ろうっての!? あんた達、こんなところでお金儲けして、何考えてるの!?」

ヨークの言葉にアニスが思わず叫んだ。
それをガイが何とか宥める。

「まあまあ。……それより、一体いくら払えば通してくれるんだ?」
「全員で七人でがスから、七千ガルドでやんスな」
「……呆れた商売ね」

ウルシーの言葉にティアは溜息をついた。

「払うのか? 払わないのか?」
「高ぇよ」

ルークがそう言うと、同感したようにガイが頷いた。

「そうだな。大体、馬鹿正直に払うこともないと思うぜ」
「あっ、大佐。こっち側は、まだマルクト領内ですよね? 捕まえちゃってくださいよぅ」

アニスの提案に二人の表情が微かに引き攣った。
それにジェイドは、薄い笑みを浮かべて二人を見た。

「……だそうですよ? ここを通してくれるのなら、見逃してあげても良いと思うのですが」
「お言葉ですがね、旦那。あんたらがあっしら平民を苦しめる戦争をおっぱじめたから、あっしらはそいつを利用して、金儲けさえてもらってるでさぁな」
「…………それもそうですわね。ここはお金を払って……」

ヨークの言葉を聞いたナタリアは力なくそう言った。

「ナタリアらしくないわね。戦争があろうとなかろうと、犯罪を行うのは個人の道徳に因るはずよ」

それを聞いたティアはピシャリとそう言い放った。

「それは……そうですけど……」

やはり、先程のことが答えているのか、ナタリアの言葉には覇気がなかった。

「ティアの言うとおりです。では、憲兵を……」

ジェイドが踵を返して外に出ようとした、そのときだった。

「……今、戻ったよ」

ジェイドが扉に手をかけるより速く、一人の人物が酒場へと入ってきた。
露出度の高い赤い服を着て、短く赤い髪の上に海賊風の帽子を被った女が……。

「あら〜ん。いつかの坊やたちじゃないの」

ルークの姿を見た女、ノワールはそう言った。

「姉さん。こいつら、国境を越えたかったら金を払えって言ってるのに、憲兵を呼ぼうとするんでやんスよ」
「! なんだって!?」

ウルシーの言葉を聞いたノワールの表情は一変した。

「あんたたち、何馬鹿なことやってるんだよ!!」

そして、ノワールはルークたちを通り過ぎて、二人の許へと駆け寄りそう怒鳴った。
思っても見ない彼女の行動と言葉に二人は唖然とした。

「でっ、ですが、姉さん;」
「あんたたち! 坊やたちから金なんか取ったことがアッシュの耳にでも入ったら、どうしてくれるんだい!!」
――――今、ルークたちがいろいろと頑張ってるんだ。だから、俺もそれを手伝いたいんだ。

創世暦時代の歴史書を手渡したときのアッシュの顔が目に浮かんだ。
あのどこまでも曇りのない笑顔が……。

「そうなったら、アッシュに嫌われちまうかもしれないだろう!? それとも、私がアッシュに嫌われてしまってもいいと!? 思っているのかい!!!」

ノワールはヨークの胸倉辺りを掴むとそう怒鳴った。

「い、いや; そういうつもりは……;」
「だったら、坊やたちを通してやんな! ……わかったな?」
「「は、はい……;」」

ノワールの有無も言わせぬ言葉に少し怯えながら、二人は頷いた。

「……あんたたちを通してやるよ。その代わり、このことは誰にも言うじゃないよ? 戦争で国境を封鎖されえて困った挙げ句にここを通る連中もいるんだから」

ノーワルはヨークから手を放すと、ルークたちの方へと振り向きそう言った。
それにジェイドはさわやかな笑みを浮かべた。

「承知しました♪」

それを聞いたノワールは指示を出し、椅子に座っていた男たちを退かせた。
ルークたちはそこを通り、キムラスカ側の酒場へと出たときには彼女たちの姿は何処にもなかった。

「まったくしょうがねぇな、『漆黒の翼』は」
「本当! でも、アッシュのおかげで一ガルドも払わずにすんだしぃ♪」

ガイの言葉にうんうんと頷きながら、アニスはそう言った。

「さすが、兄さまです!」

アリエッタは嬉しそうにそう笑った。

「……犯罪行為ではありますが、今は放っておきましょう。彼らのように生きる為に手段を選ばないのも戦争の傷でしょうね」

ジェイドは、もう誰もいなくなったマルクト側の酒場へと視線を向けてそう言った。

「…………早く、戦争を止めないといけませんね」
「……ああ」

ティアの言葉にルークは小さく呟いた。
そして、ルークたちは酒場を後にした。

























Rainシリーズ第6章第2譜でした!!
やってしまったよ;ノワールさん;
すっかり、アッシュLoveになっているノワールさんを暴走させて見ましたww
そのほうが面白いかなぁって思ってwwそのせいでとばっちりを食う二人。
ご愁傷様ですww


H.22 1/30



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