「ずっと考えていたんだが……外殻降下のこと、俺たちだけで進めていいのか?」

シェリダンへと戻ったルークたちはイエモンたちに計測器を渡した。
そして、その後にルークはティアたちを見渡してそう言った。

「? どういうことだ?」
「これは、世界の仕組みが変わる重要なことだ。なら、伯父上やピオニー陛下に事情を話して協力し合うべきだと思うが」

ルークの言葉にナタリアの表情が凍りつく。

「……ですが、その為にはバチカルに戻らなくてはいけませんわ」
「戻るべきなんだ」
「ルーク……」

キッパリとそう言ったルークに対してナタリアは不安そうにそう言った。

「街の皆は、命懸けで俺たちを助けてくれた。今度は俺たちが皆を助ける番だと思う。だから、伯父上を説得して、うやむやになっちまった平和条約をちゃんと結ぶんだ。そして、キムラスカ、マルクト、ダアトが協力し合って外殻を降下さえるべきじゃないか?」

ナタリアはルークの言葉に目を見張った。
だが、

「…………少しだけ、考えさせてください」

そう言って、ナタリアはルークから視線を逸らした。

「それが一番なのは解ってますわ。でも……まだ怖い。お父様がわたくしを……拒絶なさったこと……ごめんなさい」

震えた声でそう言うと、ナタリアは踵を返してルークたちから離れていった。
それをルークたちは静かに見守るのだった。






〜Shining Rain〜








(ナタリア……?)

翌日、ルークは目を覚ますと部屋の窓を開けた。
すると、ナタリアの姿を捉えた。
ルークはティアたちを起こさないように気を配りながら、部屋を出てナタリアを追った。
再びナタリアの姿を見たとき、ナタリアは朝焼けを見つめて本当に辛そうな顔をしていた。
何か言わなければ……。
そう思ってルークは一歩ナタリアへと近づいた。

「誰!?」

が、突然のナタリアの声にルークは思わず物陰に隠れてしまった。

(……何、やってるんだ、俺は;)

自分自身に行動に呆れ、ルークは再び姿を見せようとした。
その時、自分とは違う足音が聞こえてきた。
現れたのは、朝焼けにも負けないくらい美しい赤い長髪の少年だった。

「アッシュ……」

それは間違いなく、アッシュだった。

「どうしたんだ、ナタリア? 何か悩み事か?」
「わたくしは……」

アッシュの問いにナタリアは視線を逸らした。
アッシュはナタリアの隣へと歩み寄り、朝焼けを見つめた。

「…………怖いのか?」

アッシュの問いにコクリと頷いた。

「……ええ……怖いですわ」
「ナタリアには、何万というバチカルの市民が味方についているのにか?」
「……わかってますわ、そんなこと……ですが……!」

そう言ったナタリアはアッシュの顔を見た。

「……アッシュはどうだったのです? ……自分がレプリカだと知ったときは?」

こんなこと訊くのは間違っているのはわかってる。
わかっているけど、訊かずにはいられなかった。

「……それは……正直、驚いたさ」

それにアッシュは静かに声で答えた。
『アッシュ』にレプリカだと告げられたあのとき。
俺は頭の中が真っ白になった。
今まで生きた証を全て否定されたようだった。

「……でも、そんなこと関係なかったな。ヴァンにとって俺は道具でしかなかったし…………」

アッシュとして生きてきた俺には、感情を殺さなければならなかった。
七年間、人形として生きなければならなかった。

「……ずっと、感情を殺して生きてきたけど……でも……出来なかった」

もう、仮面は壊れた。
感情を殺す仮面は……。

「……やっぱりさ、自分自身を偽って生きてくるって……辛いね」

そう言ったアッシュは哀しく笑った。
その笑みにナタリアは、やはり訊いていけなかったと後悔した。

「……だからさ、ナタリアはありのままの気持ちを陛下にぶつければいいんだよ。……一人の人間として」
「……ありのままの……気持ち……」

それはどんなものだろうか。
今の自分にはどれが本当でどれが嘘か、それすらもわからなくなっているのに……。

「……いつか、俺たちが大人になったらこの国を変えよう」
「!?」

突然、アッシュが呟いた言葉にナタリアは目を見張ってアッシュの顔を見た。

「……貴族以外の人間も貧しい思いをしないように。戦争が起こらないように……死ぬまで一緒にいて、この国を変えよう……」

そう言い終ったアッシュの顔は仄かに赤くなった。

「……ルークは、ナタリアが王女だったから言ったんじゃないと思うよ。生まれなんてどうでもいいよ。ナタリアが出来ることをやればいいんだよ」
「わたくしが……出来ること……」
「うん!!」

ナタリアの言葉にアッシュは頷いた。
不思議な感じがした。
ルークのプロポーズの言葉、それをアッシュから聞いたのは初めてのはずなのに、違う気がした。
もっと、ずっと前に……。

――――言ってみて……くださいませんか?

ふと、頭の中に流れる光景は、いつまでも雪が降り積もるケテルブルグ。
そこに自分はいた。

――――な……なんで……;

自分の頼みに一人の少年が困ったように言った。
彼の顔は逆光で見ることが出来ない。

――――……それで……わたくし、色々な事に決別できるような気がしますの。
――――…………いつか、俺たちが大人になったらこの国を変えよう。貴族以外の人間も貧しい思いをしないように、戦争が起きないように。死ぬまで一緒にいて、この国を変えよう。

自分の真剣な頼みに彼は折れると、深呼吸をしてから、そう言った。

――――……ありがとう。わたくし、あなたが誰なのか、などともう迷いませんわ。あなたは……。

そう、あなたはわたくしにとって大切な……。

「……アッシュ。……わたくし……」
「アッシュ! どこじゃ!!」

ナタリアが言いかけたとき、遠くからイエモンの声が聞こえてきた。

「あっ、ヤバイ; 部屋から抜け出したのがバレちゃったよ; じゃぁ、また後でね、ナタリア!!」
「あっ、待って、アッシュ!!」

ナタリアは止めたが、アッシュはそれが聞こえなかったのか、さっさとその場から立ち去ってしまった。
それを見たルークは、ナタリアにゆっくりと近づいた。

「……ナタリア」

ルークの声にナタリアはゆっくりとこちらへと振り返った。

「俺も……あいつの言う通りだと思うぞ」
「……聞いて……いらしたのですね」
「悪い。……そんなつもりじゃなかったんだがな」
「……いえ。いいのです」

ルークの言葉にナタリアは首を振った。
そして、いつもと変わらない笑みを自分へと向けた。

「……宿に戻りましょう。そろそろみんなも起きているでしょうし」
「……ああ」

ルークとナタリアは並んで歩いて、宿屋へと戻っていった。
























Rainシリーズ第6章第13譜でした!!
アッシュがナタリアを励ましていますよww
ナタリアの声に思わず隠れるルーク、ちょっと面白いww
そして、ガイに引き続きナタリアまでも以前の記憶が!?
これにて第6章は完結です!!次は第7章に入ります♪(一体何章まで書くんだろう、私;)


H.23 9/1



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