「はぁ〜。疲れた」

ルークたちと別れてヘンケンたちの手伝いをしているアッシュは溜息をついた。
思った以上に彼らが人使いが荒くて毎日ヘトヘトになっている。
本当は今すぐ休みたいのだが、まだ休みわけにはいかなかった。
アッシュは机と向かい合い、道具箱を取り出した。






〜Shining Rain〜








『……どうした、ルーク? 何を作っているんだ?』

何かを作っているアッシュにローレライは姿を現して尋ねた。

「うわぁ! なっ、何ホイホイ出てきてるんだよ!!」
『大丈夫だ。今は、近くに人の気配はない』

余程集中していたのか、アッシュは驚いたような表情でそう言うとローレライは穏やかにそう言った。
ローレライの言葉に辺りを確認するとアッシュはホッとしたような表情へと変わった。

『……で、一体何を作っているんだ?』

机の上にいくつか出来上がっている物の中の一つを取ってローレライは問いかけた。

「えっと……。一応、携帯自動防御装置を作っているんだ」
『携帯自動防御装置? ……何の為に?』

アッシュの言葉にローレライは不思議そうにそう言った。
それに対して、アッシュの美しい翡翠の瞳が哀しい光を帯びた。

「…………あの悲劇を起こさせない……為に……」

あのとき見た光景、あのとき聞いた人の悲鳴。
それをもう二度と見たくない、聞きたくないのだ。
だから……。

『ルーク……』
「バカだよな、俺。……こんなことくらいしか出来ないなんて……」

あの悲劇を止めることが出来ない俺。
それが凄く悔しい。
アッシュの言葉を聞いてローレライは首を振った。

『そんなことはない。ルークはルークでやれることをやればいいのだから』
「……やれることをやる……そっか。そうだよね!」

ローレライの言葉を聞いてアッシュの顔に笑みが戻った。

『……ところで、ルーク。そなたいつ、こんな物を作れるようになったのだ?』
「ああ、それはね。暇なときにディストに譜業(ふごう)について色々と教えてもらってらから」
『ああ……そういえば、そんなことをしていたようだったな……』

確かに、『ルーク』はディストに譜業(ふごう)について教わっていたような気がする。

「その時、これの作り方も教えてもらって作った見たんだけど、どうも自信がなかったから……」
『……? 何をしたのだ?』

何故か苦笑するアッシュにローレライは嫌な予感を覚えつつ問いかけた。

「だから、イニスタ湿原に行って、ベヒモスの攻撃を受けてみたんだよ♪」
『!? なっ、何やってるんだ! ルーク!!』
「……ローレライ。あのときのディストと全く同じ反応なんですけど;」
『あっ、当たり前だろうが!!』

アッシュの言葉にローレライは思わず怒鳴った。
そのときのディストが叫ぶ光景が目に浮かびそうである。

「でもね、これ凄いんだよ♪ ベヒモスの攻撃を受けても全然平気だったし♪」

それを完全に無視してアッシュは嬉しそうに言った。

「あっ、そうだ! 今回作った奴も試しに――」
『駄目だ!!!』

思いついたようにそう言って立ち上がってアッシュにローレライはアッシュの肩を掴んで再び座らせた。

「え〜〜〜っ? なんで?」
『いっ、一度試したのなら、もうする必要などないはずだ! それに、そなたが作った物なら、大丈夫に決まっている!!』
「そっ、そうかな;」

少しローレライの気迫に呑まれつつアッシュはそう言った。

『それに、そんなことをしている暇があったら、これをもっと作ったほうが断然効率がいいはずだ!!』
「だったら、ローレライ。これ作るの手伝ってよ。街の人、全員分作らないといけないんだし」
『……わかった。さっさと、作るぞ!』

アッシュの言葉に少し考えてからローレライは頷いた。

「うん!!」

アッシュは笑みを浮かべて再び作業をし始めた。





















「兄さんはここには来てないみたいね」

起動したパッセージリングを見つめてティアはそう呟いた。
それは少し安堵しているようにも見えた。

「それなら、ここのパッセージリングは、第七音素(セブンスフォニム)さえ使えれば誰でも操作できるのかしら」

ナタリアの言葉にジェイドは首を振った。

「いいえ、操作盤が停止しています。おそらく、シュレーの丘やザオ遺跡で、ヴァンが仕掛けた暗号を無視してパッセージリングを制御した結果、並列で繋がっていた各地のパッセージリングが、ルークを侵入者と判断して、緊急停止してしまったのでしょう」
「じゃぁ、制御、できないんですか?」
「……まぁ、ルークの超振動(ちょうしんどう)でこれまでと同じように操作盤を削っていけば動くと思います」

恐る恐る尋ねるアリエッタにジェイドは軽くそう言った。

「力技ってわけか。……で、俺は何をしたらいいんだ?」
「振動周波数の測定には、特に何も。ですが、今後のことを考えると、外殻降下の準備をしておいたほうがいいでしょうね」

ルークの言葉にジェイドは天を仰いでそう言った。

「何を書き込んだらいいんだ?」
「第四セフィロトとここ……第六セフィロトを線で繋いでください」
「わかった」

ルークは頷くと意識を集中させ、超振動(ちょうしんどう)を発生させた。
腕をゆっくりと動かして第四セフィロトと第六セフィロトを線で繋いでいく。
線が二つを繋ぐと、それは強い輝きを放った。

「ルーク、第五セフィロトは迂回してください。それはアクゼリュスのことですから、繋いでも意味がありません。第三セフィロトと第一セフィロトも線で繋いでください」

ルークはジェイドの言った通りに線を繋いでいった。
するとさっきと同じように、線が輝いた。

「次は第六セフィロトの横に『ツリー降下。速度通常』と書いてください。それから『第一セフィロト降下と同時に起動』と」
「? それは……どういう意味なんだ?」

ジェイドの言葉に疑問を感じたルークは、は首を傾げた。

「第一セフィロト――つまり、ラジエイトゲートのパッセージリング降下と同時に、ここのパッセージリングも起動して降下しなさいっていう命令よ」

それに答えたのはティアだった。
ジェイドもティアの説明に同意するように頷いた。

「こうやって、外殻大地にある全てのパッセージリングに同じ命令を書き込んでおくんです。そして、最後にラジエイトゲートのパッセージリングに降下を命じる。すると、外殻大地が一斉に降下する、というわけです」
「なるほどな。大陸の降下はいっぺんに済ませるってことか」

ガイは腕を組んで頷いた。
そんな会話を背中で聞きながらルークは文字を刻んでいった。
全ての文字を刻み終えると、超振動(ちょうしんどう)を消してジェイドたちのほうへと振り向いた。

「これでいいんだろ? だったら、後は地核の振動周波数だな」
「大佐、どうやって計るんですかぁ?」

アニスは首を傾げた。

「簡単ですよ。計測器を中央の譜石(ふせき)に当ててください」
「俺がやろう」

そう言うとガイは測定器を受け取って言われた通り譜石(ふせき)に当てた。
数秒そのまま待つと、計測完了のブザーが鳴ったので、ガイは計測器を外し、ジェイドを見た。

「……これだけか?」
「はい♪」
「つまんな〜い! な〜んか拍子抜け……」

口を尖らせてそう言ったアニスを見てジェイドは皮肉めいた笑みを浮かべた。

「楽しませる為の計測ではありませんからねぇ♪」
「わかってますよぅ」

ジェイドの言葉にアニスは頬を膨らませた。

「……計測も終わったんだ。さっさと、シェリダンに向かおう」

ルークの言葉に皆頷き、一同はシェリダンへと向かった。
























Rainシリーズ第6章第12譜でした!!
つーか、ローレライ!
それでアッシュを慰めているつもりだろうけど、その原因を作ったのはあんただろうが!!
試験なんて作らなかったらもっと早くベルケンドについてスピノザを捕まえられたかもしれないだろうが!!
まぁ、その代わりにアッシュに冷や冷やさせられたからいっか(おい;)


H.23 9/1



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