「やっと、着いた……」 ケセドニアへとやってきたルークは安堵して息をついた。 ここにいるのは、ティアとナタリアとアリエッタだけで、土は埃、汗そして、血で汚れてボロボロであった。 理由は戦場である東ルグニアカ平野を越えて来たからである。 地上へ戻ってきたルークたちが見たものは、人の悲鳴や爆発音が轟く地獄図のような光景だった。 秘預言に詠まれていた通り、キムラスカとマルクトの戦争が始まっていたのだ。 この大地が崩壊することも知らずに……。 ルーク、ティア、ナタリア、アリエッタは戦争を停戦させる為、ガイ、ジェイド、アニス、イオンは、エンゲーブの様子を見る為に二手に分かれたのだった。 ルークたちは、キムラスカの本陣であるカイツールに一度向かったが、総大将であるアルマンダイン伯爵がケセドニアにいるということで危険承知で 戦場を抜けてきたのだ。 「ルーク!?」 驚いたような声が聞こえたほうに視線を向けると、そこにはあるはずのないガイたちの姿があった。 〜Shining Rain〜 「何故、ここに? 停戦はどうなったのですか?」 ジェイドがルークたちに近づくと眉間に皺を寄せてそう尋ねた。 「カイツールじゃ話はつかなかった。キムラスカ軍の総大将のアルマンダイン伯爵が、モースと会談するってここに来たらしいんだ。それで追いかけてきたわけだが……」 「戦場を抜けてきたのですか? 危険な選択をしましたね」 ルークの言葉にジェイドは溜息をついた。 それにルークはムッとした顔になる。 「そっちこそ、てっきりグランコクマへと逃げるてると……」 「グランコクマは要塞都市です。開戦と同時に外部からの侵入は出来なくなりました」 「それで、ケセドニアへ……?」 ティアの問いにジェイドは頷いた。 「ええ。……ところで、アルマンダイン伯爵との話は?」 「この格好を見ればわかるだろ?」 そう言ってルークは自分達の格好を示した。 「……そのようですね。では、急ぎましょう。出来れば風呂のひとつでも、と思いますが、アルマンダイン伯爵は先程アスターの屋敷から出てくるのを見かけました。今、国境は閉鎖されています。話があるなら、伯爵が去る前に早く」 「ああ。わかった」 ルークたちはアスターの屋敷を目指して走り出した。 「アルマンダイン伯爵!」 市場を抜け、新たに作られたらしい国境の柵の向こう側にその人物がいた。 「アルマンダイン伯爵! これはどういうことです!!」 ナタリアはすぐさまその柵へと近づくと、大声でそう言った。 「ナタリア殿下!?」 ナタリアの姿を見たアルマンダインは驚いて目を見開く。 「わたくしが命を落としたのは誤報であると、マルクト皇帝ピオニー九世陛下から一報があったはずですわ!」 「しっ、しかし、実際に殿下への拝謁は叶わず、陛下がマルクトの策略であると……」 「わたくしが早くに城に戻らなかったのは、わたくしの不徳の致すところ。しかし、こうしてまみえた今、もはやこの戦争に義はないはず。直ちに休戦の準備にかかりなさい!」 「…………」 ナタリアの言葉に対してアルマンダインは何も言わなかった。 その反応を見てルークは前へと出た。 「アルマンダイン伯爵、ルークです」 それに対して、アルマンダインはナタリアのとき以上に驚いたような反応をした。 それはまるで、幽霊を見たような感じに近いものだ。 「……生きて……おられたのか……!」 「何とか」 ルークはその反応に不快感を感じながら頷いた。 「この度の闘いが誤解から生じたものなら、一刻も早く正すべきではありませんか!? それに、戦場になっているルグニカ平野は、アクゼリュスと同じ崩壊……消滅の危機があります! さぁ、戦いを止めて今すぐ国境を開けなさい!!」 「うむ…………」 アルマンダインが唸り、ナタリアの言葉を承諾しようとした、そのとき。 「待たれよ」 アルマンダインの後ろに控えていたモースが、このときとばかりに前に出て、ナタリアを指差した。 「ご一同。偽の姫に臣下の礼を取る必要はありませんぞ」 「無礼者! いかなローレライ教団の大詠師といえども、わたくしの侮辱はキムラスカ・ランバルディア王国への侮辱となろうぞ!!」 モースの言葉を聞き、ナタリアは怒鳴った。 だが、そんなナタリアに対してモースは憐れむような目で見た。 「私はかねてより、敬虔な信者から悲痛な懺悔を受けていた」 「何の話です!」 「曰く、その男は、王妃のお側役と自分の間に生まれた女児を……恐れ多くも女王殿下とすり替えたというのだ」 「なっ!?」 ナタリアはモースの言葉に絶句し、言葉を失った。 「でたらめを言うな!!」 ルークの怒鳴り声にモースは平然としたまま首を振った。 「でたらめではない」 「そんな話、言葉だけで信じられるか!!」 「では、その者の髪と瞳の色を何とする? 古より、ランバルティア王家に連なる者は、赤い髪に翡翠の瞳であった。おまえ自身そうであろう、ルーク・フォン・ファブレ。陛下の甥よ。しかし、ナタリア・L・K・ライバルディアを名乗る者の髪は金色! ……亡き王妃様は夜のような黒髪でございましたな」 「…………っ!」 「この話は、既に陛下にもお伝えした。しっかりとした証拠の品も備えてな。バチカルに行けば、陛下はそなたを国を謀る大罪人として、お裁きになるだろう」 「そっ、そんな……。そんなはずありませんわ……!」 ナタリアの悲痛な声を無視してモースはアルマンダインのほうを向いた。 「伯爵。そろそろ戦場へ戻られたほうがよろしいのでは?」 「……む、むう……そうだな。……いくぞ!」 アルマンダインは部下にそう命令すると、逃げるようにその場から立ち去った。 「おい! 待てよ!! 戦場は崩落するんだぞ!!!」 ルークはその背中にそう叫んだが、聞こえていたのかはわからなかった。 「わかっているのか! 大地が崩れて皆――」 「それがどうした」 ルークの必死の訴えをモースの言葉によって遮られた。 「戦争さえ無事に発生すれば預言は果たされる。ユリアシティの連中は、崩落如きで何を怯えているのだ」 「大詠師モース。……なんて恐ろしいことを……」 「ふん。まことに恐ろしいのは、おまえの兄であろう」 モースはティアのそう吐き捨てると、イオンへと視線を向けた。 「導師イオン。この期に及んでまだ、停戦を訴えるおつもりですか?」 「……いえ。私は一度、ダアトへ戻ろうと思います」 「イオン様!? マジですか!? 帰国したら、総長がツリーを消す為にセフィロトの封印を解けって言っていますよぅ!」 「そうです! そんなことをしたら、イオン様がっ……」 イオンの言葉を聞き、アニスは腕を大きく振り回しながら、アリエッタは泣きそうな顔でそう言った。 「もうヴァンに勝手な真似はさせぬ。……さすがにこれ以上、外殻の崩落を狙われたら少々面倒だ」 そんな二人にモースはそう冷たく言い放つ。 「だけど、総長が力づく出来たら……」 「そうなったら、二人が助けに来てくれますよね?」 心配そうな瞳で見つめるアニスにイオンは優しく微笑んだ。 「……ほへ?」 「……えっ?」 「唱師アニス・タトリン。……只今をもって、あなたを導師守護役から解任します」 突然のイオンの宣言に驚き、アニスは目を丸くする。 「ちょっ、ちょっと待ってください! そんなの困りますぅ!!」 「アニス……」 イオンはアニスに近づくとアニスの耳元に小さく囁く。 「……ルークから片時も離れず御守りし、伝え聞いたことは後日必ず僕の報告してください」 それを聞こえたのはほんの数名で、モースには聞こえなかったようだ。 「アリエッタ。あなたにはアッシュのことを頼みますね」 そして、イオンはアリエッタに視線を向けると優しく微笑んでそう言った。 「頼みましたよ。……皆さん、二人をお願いします」 そう言うとイオンは簡単に国境を越え、モースの隣へと歩み寄った。 「ダアトへ参りましょう」 「御意のままに」 モースは忠臣めいた仕草で頭を下げると、イオンを先に歩かせ、その後を着いて歩いていった。 「イオンの奴、何を考えているんだ……」 「アニスを残したということは、いずれ戻られるつもりなんでしょう。それよりも……」 ルークの言葉にジェイドはそう言うと、ナタリアを見た。 ルークやガイも振り返り見た。 その視線に気が付いたナタリアは、ルークたちに心配かけないように気丈を装って微笑んだ。 「……わたくしなら、大丈夫です。それよりも、バチカルへ参りましょう。もはやキムラスカ軍を止められるのは父……いえ、国王陛下だけですわ」 「ええ、そうね。それなら、国境を越える方法を探さないといけないわ。私たちはイオン様と違って、自由には振舞えないもの」 ナタリアの言葉にティアは頷いた。 「ここは国境線上の街です。きっと、通り抜けられる場所がありますよ」 ナタリアを気遣うように気楽にジェイドが言うと、ナタリアは弱々しく笑った。 「…………ルーク」 すると、ガイがルークへと近づき小さく囁いた。 「暫くは、ナタリアから目を離すなよ。……心配だ」 ガイの言葉にルークは頷いた。 「ああ、わかってる。……モースの奴……例えデマだとしても許せねぇ……!!」 ガイはルークの意見に同意するかのように静かに頷いた。 そして、ルークたちは国境を越える方法を探し始めた。 Rainシリーズ第6章第1譜でした!! ケセドニアへと到着しました!! ここで、ナタリアの衝撃の事実が発覚するんですよね〜。 私も、あのときはビックリしました。 そして、次回は国境を越えま〜す♪ H.22 1/30 次へ |