「よう、あんたたちか。俺のジェイドを連れ回して帰しちゃくれなかったのは」

そう言った謁見の間の玉座に座った男は、とても皇帝とは思えなかった。
黄金色の髪はまとめられることなく伸ばされていて、服装も使っている布は高価そうだが、だらしなく着崩されている。
だが、この男はマルクト皇帝、ピオニー九世陛下であることは間違いないようだった。






〜Shining Rain〜








「……あれ? アスランの話だと、アッシュもいたらしいが?」

ふと、ピオニーが不思議そうにそう言った。

「何だよなぁ〜。せっかく、アッシュに会えると思ったのに〜」
「陛下、アッシュとお知り合いなのですか?」

脇に控えているジェイドが眉を顰めてそう尋ねた。

「まあなぁ。アッシュは導師の護衛もやってたからな。仮面付けてたけど、からかうと反応が面白くてな♪」

ピオニーはククク、と笑って答えた。

「そうですか♪」

それにジェイドも笑って答えたが、その笑みが妙に怖かった。

「……まあ、そろそろ……本題に入るか;」

少しジェイドにビビリながらもピオニーはそう言った。
そして、彼の表情が一変に変わった。
先程までそこにいた軽薄は男の姿は消え、威厳に満ちた男が現れる。

「ジェイドから大方話は聞いている。このままだと、セントビナーが魔界(クリフォト)に崩落する危険性がある、とのことだが?」
「は、はい」

それに、ルークは慌てて頷いた。

「かもしれんな。実際、セントビナー周辺は地盤沈下を起こしてるそうだ」
「では、街の住人を避難させなければ!」

ナタリアは臆することなく意見する。
さすが、キムラスカ・ランバルディア王国の王女だ。

「そうしてやりたいのは山々だが、議会では渋る声が多くてな」
「何故ですの、陛下。自国の民が苦しんでおられるのに……」
「どの口で……」

軍人がそう呟くのが聞こえ、ナタリアは睨んだ。

「ノルドハイム!」

ピオニーの叱責に、男を下げた。

「失礼いたしました。……ナタリア姫。キムラスカ・ランバルディア王国から声明があったんだ。王女ナタリアと第三王位継承者ルークを亡き者にせんと、アクゼリュスごと消滅を謀ったマルクトに対し、遺憾の意を表し、強く抗議する。そして、ローレライとユリアの名の下、直ちに制裁を加えるであろう、とな」

その言葉にルークとナタリアは目を見張った。

「事実上の宣戦布告ですね……」

ティアがそう呟くとナタリアは首を振った。

「父は誤解しているのですわ!」
「果たして誤解であろうか、ナタリア姫。我らはキムラスカが戦争を口実にアクゼリュスを消滅させたと考えている」

ノルドハイムはそう言った。

「我が国はそのような卑劣な真似はいたしません!」
「そうだ! それに……アクゼリュスは……」

ルークは拳を握る。
あいつの顔が目に浮かんだ。

「ルーク、事情は皆知っています。ナタリアも落ち着いてください。本当はキムラスカが戦争の為にアクゼリュスを消滅させたのかは、我が国にとってこの際重要ではないのです」
「……どういうことですの?」

訳がわからないといった感じでナタリアは首を傾げる。

「……セントビナーの地盤沈下がキムラスカの仕業だと、議会でそう思い込んでいることが問題なんだ。連中は、住民の救出に軍を差し向けることで、街ごと消滅させられるかもしれないと考えている。俺も、ジェイドの話を聞くまで、キムラスカは超振動(ちょうしんどう)を発生させる譜業(ふごう)兵器を開発したと考えていた」
「少なくとも、アクゼリュス消滅はキムラスカの仕業じゃない!」

ルークはそう言った。

「仮にそうだとしても、このままだとセントビナーは崩壊しちまう! ……もし、どうしても軍が動かないなら、俺たちに行かせてください!」
「わたくしからもお願いします、陛下! それなら不測の事態にも、マルクト軍は巻き込まれないはずですわ!!」

続けて、ナタリアがそう言った。

「驚いたな……」

二人の言葉にピオニーは目を丸くした。

「どうして、敵国の王族に名を連ねるおまえさんたちが、そんなにも必死になる?」
「敵国ではありませんわ! 少なくとも庶民達は当たり前のように行き来しています。困っている民を救うのが、王族に生まれた者の義務」
「……そちらは? ルーク殿」

ピオニーの瞳がルークへと向けられる。

「……俺が直接アクゼリュスを消滅させたわけじゃないが、アクゼリュスが消滅したのは俺のせいだ」

本当だったら、俺はこの場には立っていることはなかった。
それが出来るのは、アッシュのおかげだ。
俺のせいで、アッシュは大きな罪を背負わなければならなくなった。

「……だから、俺に出来ることならやりたい。助けたいんだ!」

ルークはピオニーを見つめ返す。

「……そうか。なら、いいだろう」

ルークはピオニーはニッと笑った。
そして、すっと立ち上がり玉座を降りてルークの目の前に来た。

「……俺の大事な国民だ。救出に力を貸して欲しい。頼む」

そう言ってピオニーは頭を下げた。
世界を二分する勢力を誇る帝国の長が……。

「……全力を尽くします」
「わたくしもですわ」
「御意のままに」

三人はそう言うと頭を下げた。

「俺はこれから議会を招集しなけりゃならん。後は任せたぞ、ジェイド」

そう言うと、ピオニーはノルドハイムたちを付き連れ謁見の間を出て行った。





















「イオン」

ルークたちは謁見の間でピオニーと謁見しているとき、アッシュは宿屋にいた。
そして、ちょうど部屋から出てきたイオンと出会った。

「カースロットは解呪出来たいのか?」
「は、はい……なんとか出来ました……」

アッシュの問いにイオンは疲れたような声で言った。

「……そっか。ありがとう、イオン」
「いえ。僕には、これくらいしか出来ませんし……」
「そんなことないよ。本当に感謝してるよ、ありがとう」

イオンの言葉にアッシュは笑みを浮かべて言った。
それにイオンも笑みを浮かべてくれた。

「……俺、ガイと話したいんだけど……いいかな?」
「はい。……一人のほうがいいですか?」

イオンの問いにアッシュは頷いた。

「うん。ガイと二人っきりで話したいんだ」
「……わかりました。僕は別室にいますね」

アッシュの頼みをイオンは快く受け入れてくれた。

「ありがとう、イオン」

アッシュの言葉を聞いたイオンは優しく微笑むと、隣の部屋へと入っていった。

「……さてと、いきますか」

深呼吸ひとつした後、アッシュはそう言うとガイがいる部屋へと入っていった。
























Rainシリーズ第5章第5譜でした!!
ピオニーさん初登場ww
何気にアッシュとピオニーさんは顔見知りってところにビックリww
それに対してジェイドが怖い笑みを浮かべるのが面白いwwww


H.21 2/5



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