マルクト帝国首都、グランコクマ
ルークたちはその街をマルクト兵に槍を突きつけられながら歩く。
ガイを肩にぶら下げるようにして支えながらアッシュは歩いている。
ルークがそうすると言ったが、アッシュが自分がやると言って聞かなかった。
その意味をルークはまだわからなかった。
それがわかったのは、待ち構えていた兵士の中で一人、異彩を放つ男に会ってからだった。






〜Shining Rain〜








淡い銀髪の若い男で、青い他の者とは異なる軍服を着ていた。
金色の瞳はとても鋭い。

「フリングス少将!?」

兵士が驚いたような声を上げた。

「ご苦労だったな。彼らはこちらで引き取るが、問題ないかな?」
「は、はっ!!」

兵士たちは一礼すると速やかに下がっていった。
フリングスは表情を穏やかなものへと変えた。

「ルーク殿ですね。ファブレ公爵のご子息の」
「どうして、俺のことを……?」
「ジェイド大佐から、あなた方をテオルの森の外へ迎えに行って欲しいと頼まれました。その前に森に入られたようですが」

フリングスは苦笑した。

「すみません。マルクトの方が殺されていたものですから、このままでは危険だと思って……」

ティアが申し訳なさそうにそう言った。

「いえ、お礼を言うのはこちらのほうです。ただ、騒ぎになってしまいましたので、皇帝陛下に謁見するまでは、皆さんは捕虜扱いとさせていただきます」
「それはいいが、ガイが! 仲間が倒れちまって……」

ルークがそう言うとイオンが前に出て、ガイを指した。

「彼はカースロットにかけられています。しかも抵抗できないほど深く冒されたようです。何処か安静に出来る場所を貸してくだされば、僕が解呪します」
「……イオン、大丈夫か?」

アッシュが心配そうにイオンに言った。
それにイオンはコクリと頷く。

「大丈夫です。それにこれは僕にしか解かないですし。これは本来、導師にしか伝えられていない、ダアト式譜術(ふじゅつ)のひとつですから」
「わかりました、城下に宿を取らせましょう。しかし、陛下への謁見が……」
「僕は、皇帝陛下には、いずれ別の機会にお目にかかります。今はガイの方が心配です」
「わかりました。では、部下を宿に残します」

イオンの言葉にフリングスは素直にそう言った。

「私も残りますっ! イオン様の護衛なんですから……」
そう言ってアニスは手を上げた。
それをフリングスは許可し、手を上げて命令を下した。
前に進み出た兵士がアッシュからガイを受け取る。
兵士はそのままガイを運び、イオンとアニスはその後に続いて歩き出す。

「待てよ! 俺も一緒に――」
「それはダメだ」

ルークの言葉をアッシュが遮った。

「……今のガイに俺たちが近づくのは危険だ」

美しい翡翠の瞳が哀しそうに揺れた。

「アッシュの言う通りです」

イオンは立ち止まって振り返るとそう言った。
そして、イオンも哀しそうな表情を浮かべていた。

「……ルーク、いずれわかることですから、今お話しておきます。カースロットというは、決して意のままに相手を操れる術ではないのです。カースロットは記憶を掘り起こし、理性を麻痺させる術。つまり……もともとガイに、あなたへの強い殺意がなければ攻撃するような真似は出来ないのです」
「!? そ、そんな……」

イオンの言葉にルークは言葉を失う。

「そういうことです、解呪が済むまで、ガイには近寄ってはいけません」

イオンはそう言うと踵を返し、兵達と共に宿屋へ消えた。
アッシュはルークを見る。
ルークは固まったように動かない。
無理もない。
ルークにとってガイは大切な親友だ。
俺もあのとき、それを知ってかなりショックを受けたし……。

「ルーク殿」

フリングスの労わるような声が聞こえた。

「よろしければ、しばし城下を御覧になってはいかがですか? 街の外には出られませんが、気を落ち着けるにはそのほうが……」
「…………すまない、ちょっと一人にしてくれ」

そう言うとルークは一人走り出した。





















走り出して暫くすると、ルークは足を止めた。
そして、後ろから誰かの気配を感じ取った。

「…………ついてくるなよ」

その人物にルークは力なくそう言い放つ。

「……一人にしたら、ルークは変なこと考えるだろ?」

アッシュの声が返ってきた。
よりによって、追いかけてきたのがアッシュだった。

「変なことってなんだ!!」
「ガイは自分のことを憎んでる、って」
「…………実際、憎んでるんだろ……だから……っ!」

苦しそうにルークはそう言った。
あのときの俺のように……。

「ガイはルークのことを……殺したいほど憎んだ時期があったかもしれない。でも、殺そうと思えばいつでも出来たのに、ガイはそれをしなかった。それをしなかったのは、ガイがルークを親友としてみているからじゃないのか?」
「…………」
「ガイを信じて欲しい。きっと、大丈夫だよ」

大丈夫
ガイは俺のことを受け入れてくれたから……。
きっと、『アッシュ』のことも受け入れてくれるよ。

「……言いたかったのは、それだけ、それじゃあ」

そうアッシュは言うと、踵を返して歩き出した。

「…………ありがとう」

そうルークが呟いたのは、アッシュの気のせいかもしれない。





















「アッシュ!」

宿屋へ向かおうとしている途中で、アッシュはティアと会った。

「……ルークは大丈夫だったの?」
「ルークなら、大丈夫だよ。それより、これ……」

アッシュはそう言いながら、ポケットをあさり何かをティアに手渡した。

「これは……?」

それはブレスレットだった。
金属で出来たそれは、所々彫刻が掘られ、炎のように赤い宝石が埋め込まれていた。

「ケセドニアで見つけたんだ。ティアに似合うと思ってさ」
「えっ///」

アッシュの言葉に思わず、ティアの頬は赤くなった。

「あっ、ありがとう///」
「せっかくだし、付けてみてよ」
「えっ、ええ」

ティアはアッシュに言われるままブレスレットを右手に嵌めた。
その時、一瞬赤い宝石が煌いたような気がした。

「うん! とっても、似合ってるよ、ティア!!」

それを見たアッシュは笑ってそう言った。

「っ////////」

それにティアの頬はさらに赤くなる。

「それじゃあ、ティア。ルークのこと頼むね!!」

そんなティアのことをさほど気にせず、アッシュはそう言うとティアと別れたのだった。
























Rainシリーズ第5章第4譜でした!!
ルークがカースロットの真実を知ってショック受けてます。
まぁ、親友に憎まれていたと知ったら誰だってショック受けるだろうし。
でも、「ありがとう」の台詞は絶対アッシュの空耳であって欲しい!
だって、ルークは「ありがとう」って言いそうにないしww


H.21 2/5



次へ