「あれ〜? おかしいなぁ?」
「? どうした、アニス?」
「この扉開かないんですぅ〜」

ベルケンドの第一音機関研究所に来たルークたちはある扉の前に辿り着いた。
誰よりも早くその扉の前に立ったアニスは不思議そうに首を傾げてそう言ったのだ。

「鍵でもかかっているのか?」

そう言いながら、ルークは扉へと近づいていったそのときだった。






〜Shining Rain〜








「っ!!」

ルークが扉の前に近づいた途端、扉の近くにあった装置が作動し、眩いばかりの光にルークは照らされた。
数秒間、そのまま光に照らせれていたが、すぐに光は消え、それと同時に扉が開いた。
そのことにルークだけでなくティアたちも驚いた。

「なん、なんだ? 今のは!?」
「……どうやら、ここが当たりのようですね♪」

ガイがそう言った後、全てを理解したような物言いでジェイドはそう言った。

「大佐、それは一体……?」
「ヴァンはここでレプリカの研究をしていたようですね。用心にもセキュリティーが働いている。ここは、レプリカ研究の関係者以外は入れないようになっていますね」
「そっ、それは、つまりルークが……」
「ええ。ルークはアッシュの被験者(オリジナル)ですからね。おそらく、アッシュは何度か研究の為にここに連れてこられていたのではないでしょうか」
「…………」

ジェイドの声が気のせいかもしれないが、いつもより哀しそうに聞こえた。
あいつがここに連れてこられていた。
レプリカ研究の為に。
実験対象として……。
それを聞いたルークは無言で掌を握った。





















「おまえさんはアッシュ!? いや……被験者(ルーク)……か?」

レプリカ研究施設に入ったルークたちは一人の老人の声をかけられた。

「……そうじゃな、アッシュはアクゼリュスと共に消滅したはずじゃし。……だが、おまえさん何故ここにいる? ヴァン様とは一緒じゃなかったのか?」
「俺はヴァンとは一緒じゃねぇよ。それと、あいつはまだ死んでねぇ。勝手に殺すな!!」

老人の言葉にルークが怒鳴ると、何故かジェイドが宥めた。

「……ところで、あなたですか、スピノザ? フォミクリーの禁忌に手を出したのは……」
「おまえさんは!? まさか、≪死霊使い(ネクロマンサー)≫!?」

ジェイドにスピノザと呼ばれた老人はジェイドを見ると顔色が変わった。
それにジェイドは笑みを浮かべた。

「ええ。……ところで、フォミクリーを生物に転用するのは禁じられたはずですが?」
「フォミクリーの研究者だったら、誰だって一度は試したいと思うはずじゃ! あんただってそうじゃろ、ジェイド・カーティス! いや、ジェイド・バルフォア博士! あんたがフォミクリーの生みの親じゃ! 何十体のレプリカを作ったじゃろうが!!」
「「「「「「!?」」」」」」

スピノザの発言にルークたちは驚いた。

「否定はしませんよ。フォミクリーの原理の考案したのは私ですし」

そんなルークたちを見ても何食わぬ顔でジェイドはそう言った。

「なら、あんたにわしを責めることは出来まい!!」
「すみませんねぇ。自分が同じ罪を犯したからといって相手を庇ってやるような、傷の舐め合いは趣味ではありません。私は自分の罪を自覚しています。だから、禁忌にしたのです。あなたも研究者なら、ご存知のはずだ。最初の生物レプリカがどんな末路を迎えたのか」
「ああ、知っているとも。だから、わしらはそうならぬように研究したんじゃ! そして、アッシュが生まれた! 彼は他のレプリカとはまったく違う! あんたなら知っているじゃろう? 生まれたばかりのレプリカの姿を」
「……生まれたばかりのレプリカは、立つことも話すことも侭ならない。赤ん坊同然ですよ」

ジェイドは一体何を言い出すんだといったような感じでそう言った。

「そうじゃ。じゃが、アッシュが違った! 彼は、生まれてすぐに立ち上がったのじゃ! そして、次の日には普通に言葉まで喋れるようになったんじゃよ!!」
「! ま、まさか!?」

スピノザの言葉にジェイドは心底驚いたような声を上げた。

「本当じゃ! 彼ほど出来がいいレプリカはない! なのに、ヴァンはあんな風に使いおって!! 彼を使えばもっとこの研究は進むはずなのに!!」
「……つまり、てめぇらはあいつを利用してたわけか? 実験材料として……」

スピノザの言葉にルークは恐ろしいほど静かにそう言った。
この研究施設にある膨大な書類。
それは、全てあいつによって得られたデータ。
一体、あいつはここでどんな仕打ちを受けていたのだろう?
それを考えただけで、計り知れない怒りが込み上げてくる。
そして、ルークはスピノザに掴みかかった。

「ふざけるんじゃねぇ! よく、そんなこと被験者(おれ)の前で言えたな!!」
「ルーク! 少しは落ち着け!!」

ガイはルークをスピノザから遠ざけた。
ルークから解放されたスピノザは少し怯えたような表情になっていた。

「わっ、わしはただ……ヴァン様の保管計画に協力してレプリカの情報を集めただけじゃ!」

少し引き攣ったような声でスピノザはそう言った。

「保管計画? なんだそれは?」

それが、ヴァンが企んでいることなのか?
俺を生かす為だけに、あいつを殺そうとしたヴァンが企んでいることなのか?

「答えろ! 保管計画とは何なんだ!!」

それに対して、スピノザはしまったという表情になった。

「……言えぬ。これだけは、言えぬ!」

そう言うとスピノザは奥の部屋へと消えていった。

「お、おい! 待て!!」

それをルークは追いかけようとした。
が、それを意外にもジェイドがルークの腕を掴んで止めた。

「……もういいでしょう。ワイヨン鏡窟に行ってみましょう。これ以上ここにいると虫唾が走ります」

ジェイドの声はとても静かだったが、その中には怒りが込められていた。
この研究施設に対する怒りが……。

「…………わかった」

それを察したルークはそう言った。
そして、そのまま出口へと向かっていった。

「……ガイ」
「うん? なんだ?」

無言で隣を歩き出すガイにルークは話しかけた。

「……できるなら……俺……この施設をぶっ潰してぇ」

あいつのデータを全て消し去ってやりたい。
あいつを物のように扱うここの研究者たちを……。

「……ああ、そうだな」

その言葉にガイは、静かな声でそう言った。
ガイの手が強く握り締められていたことに、ルークは気付かなかった。





















「じゃあ、そろそろ行こうかな」

ローレライの腕から解放されたアッシュは徐に出かける準備を始めた。
血で汚れた服は、ローレライが新たに用意してくれた服に着替えた。

『……何処に行くのだ?』
「シェリダン」
『? セントビナーではないのか?』

アッシュの言葉にローレライは疑問を感じた。
『ルーク』は確かにあのとき『アッシュ』にセントビナーに行くと言っていたはずなのに……?

「今、あそこに言っても意味がないんだよ。ああ言ったのは、ティアたちにセントビナーの救助を頼む為」

俺がアッシュとなっている今、あのとき以上にティアたちに入ってくる情報は少なくなっているはずだ。
だから、セントビナーのことをどうしても言っておかなくてはいけなかったのだ。
あのとき、思うように声が出なかったから、ちゃんと伝わっているのか心配だが……。

「で、俺はシェリダンに行って、アルビオールでも調達してこようと思ったわけ」
『なるほど……』

ローレライは思わず納得してしまった。

『では、我がシェリダンまで送ろう』
「えっ? いいよ、別に。最近、身体が鈍っちゃってるみたいだから運動したいし」
『しかし……』
「それに、ローレライには他のことを頼んだでしょ!」

アッシュはビシッとローレライを指差しそう言った。

「あっちの方が、俺にとって大切なの! わかった!!」
『…………わかった』

まだ、あまり納得していないようだったが、ローレライはそう言った。

「じゃあ、頼んだよ! ローレライ!!」

それを聞いたアッシュは笑みを浮かべてそう言うと、まとめた荷物を持って部屋を出て行った。

『まったく、ルークは……』

自分ひとりしかいない部屋で、ローレライは溜息をついた。
だが、我ものんびりとはしていられない。
『ルーク』の行った期限までの、言われたものを用意しなければ……。
そう思ったローレライは、急いで、その場を後にした。





















数十分後、部屋に戻ってきたシンクたちは呆然と立ち尽くしていた。
部屋にいるはずのアッシュの姿が何処にもなかったからだ。
シンクは机に上に置かれた一枚のメモを取ると、それを読んだ。
そして、そのメモを握り締めた。
そのメモには一言。
『ごめんな』と書かれていた。
























Rainシリーズ第5章第2譜でした!!
ルークたちはベルケンドに到着vv
ゲームをやっててあのライトは絶対そういうものだと決め付けてました!!(おい;)
そこで何とかアッシュの話をしようとしたらなんかゴチャゴチャしちゃったな;
そして、何気にガイとジェイドがアッシュのこと気になりだしてますよ!!(えっ?わかんないって?)
次回は一気にグランコクマへ突入だぁ!!


H.20 11/17



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