「お祖父様!」

ユリアシティの港に二機のアルビオールが着陸した。
そして、アルビオールから降りたアッシュたちを待っていたのは、市長であり、ティア、ヴァンの祖父であるテオドーロだった。






〜Shining Rain〜








「来ると思って待っていたぞ」

テオドーロの顔には苦痛が滲んでいた。

「お祖父様、力を貸して! セントビナーを助けたいんです」
「そうするしかないだろうな。預言(スコア)を外れることは我々も恐ろしいが……」
「すいません。お話の前に、セントビナーの方たちを休ませてあげたいのですが……」

イオンは前へと出てそう言った。

「そうですな。こちらでお預かりしましょう。ティア、おまえたちは後で皆さんと会議室に来なさい。……あなた方はこちらへ」
「……お世話になります」

老マクガヴァンと住民達は市長の側近についていった。

「さぁ、我々は会議室へと行きましょうか」

ジェイドの言葉に皆頷き、アッシュたちは会議室へと向かった。





















通路を抜け、会議室へアッシュたちはそれぞれの椅子に座った。
そして、暫くするとテオドーロがやってきて、中央の椅子へと座りアッシュたちを見回した。

「さて……一体何から話したものか……」
「市長。その前にちょっと、よろしいでしょうか?」

ジェイドはテオドーロへとそう言うとアッシュに視線を向けた。

「……アッシュ。いい加減、本当のことを言ってください」
「えっ?」

ジェイドの一言に心臓が跳ねた。
やはり、バレてしまったのだろうか。
俺が未来に起こることを知っていることを……。

「……本当は、あなたはヴァンの計画をご存知なんでしょう?」

だが、実際にジェイドの口から出た言葉はそれとは異なっていた。
それに少しアッシュは安堵した。

「! 本当なの、アッシュ!?」

それに対してティアは驚きの声を上げた。
以前、ティアはアッシュにヴァンの事を聞いたが、そのときは何も知らないとアッシュは言った。
だから、彼女が驚くのは無理もないのだ。

「答えてください。あなたはヴァンの計画をご存知ですか?」

血のように赤い瞳が鋭い光を放ち、アッシュを見つめる。
この瞳に嘘をつくのは不可能だろう。

「……ああ、そうだよ。俺はヴァンの計画を知っている」
「!? どうして。どうして、あのとき言ってくれなかったの!!」
「俺が全て話すより、少しは自分たちで調べたほうがティアたちにはいいかなって思って。だから、ベルケンドとワイヨン鏡窟を教えたんだ。……ごめんな」
「…………」

哀しい笑みを浮かべてアッシュはそう言った。
それを見たティアは何も言えなくなった。

「話してもらえますか? ヴァンが一体何をしようといているのかを」
「……わかった。俺が話せることをみんなに教えるよ」

少し沈黙してから、アッシュはそう口を開きルークたちに語り始めた。





















「……そ、そんなことって……!?」

アッシュの話を聞き終わったナタリアは手で口を覆った。

「まさか、ヴァンはそこまで考えていたとは……」

ジェイドはずり落ちた眼鏡を直しながら、そう言った。

「……信じられないのはわかってる。でも、これがヴァンのやろうとしていることなんだ」

預言(スコア)に支配された世界を変える為。
この世界に生きる全ての生物を消し去り、新たにレプリカ世界を創り出す。
それがヴァンがやろうとしていることだ。

「……アリエッタは、つい最近まで総長がやろうとしていることを知らなかった、です」

そうアリエッタは呟いた。

「でも、兄さまに本当のことを聞いて、総長のやり方はおかしいと思ったんです! だから……総長の計画を阻止するんです!!」

アリエッタの瞳に強い意志が宿る。

「……ヴァンの計画にはどうしても超振動(ちょうしんどう)の力が必要だった。だから――」
「だから、秘預言(クローズドスコア)で詠まれていたルークの死を阻止する為、あなたを作って身代わりにした、というわけですか……」

アッシュの言葉を引き継ぐようにそう言ったジェイドにアッシュは頷いた。
自分が最も尊敬していた人物、ヴァンがこんなことを計画していた。
その為に、どれだけアッシュが傷付けられてきたかと思うと胸が痛くなった。

「……ルーク、大丈夫? 顔色が良くないよ」

そんなルークを隣に座っていたアッシュが覗き込んできた。
綺麗な翡翠の瞳が心配そうに揺れている。

「ああ。…………大丈夫だ」

そう笑って返すと、アッシュは少しホッとしたような顔をした。

「……しかし、何故ですか? あなたはヴァンの計画を知っていたのに、今までヴァンの許へといたのですか? 逃げようとは思わなかったのですか?」

それは、ルークも思った。
いつでも、逃げることが出来たのにアッシュはそれをしなかった。
それは何故だろう。

「……例え、俺が逃げたとしても、ヴァンは新たにレプリカを作ってやらせたと思う。それに…………」

自然と声が震えているのが自分でもわかり、アッシュはそれを何とか抑えようとした。

「それに……俺はあの人に変わって欲しいと思ったから」

そうすれば、誰もが傷付くこともなくあの人の計画を止められると思ったから……。

「でも、結局。あの人を変えることは出来なかった。……アクゼリュスを崩壊させてしまった」

アクゼリュスの人々は助けることは出来たが、あの大地を救うことは出来なかった。
俺が無力だったから……。
それに、あのときのアクゼリュスの人々が泥の海へと沈んでいく光景は決して忘れることは出来ない。
この犯した罪は決して俺の心からは消えないのだ。

「こんなこと話するつもりなかったのに……ごめんな」

場の空気が重くなったことを感じたアッシュは笑ってそう言った。
だが、その笑みはルークたちには哀しく映った。

「そんなことより、早くセントビナーを救う方法を考えようよ。あまり時間がないし」
「……そうですね。それでは、市長。お願いします」

アッシュの言葉を聞いたジェイドがそう言うと、テオドーロは頷いた。
そして、やっとセントビナーを救う方法について話し始めたのだった。
























Rainシリーズ第5章第10譜でした!!
ユリアシティに到着ですww
ジェイドの一言にアッシュはドキドキですね♪
前回のふざけたオヤジはどこに言ったのだろう?


H.21 9/22



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