セフィロトへと続く階段。
アッシュはそこを一歩一歩かみしめて降りる。
それがこの街の崩壊へのカウントダウンでもあった。






〜Shining Rain〜








「あんたたち、何でこんなところにいるんだ?」

あと少しでアクゼリュスに着くというところでルークたちに子供連れの男が話しかけてきた。
男はルークの顔を見た途端、驚きの表情を浮かべた。

「あれ? ルークさん、まだアクゼリュスにいたんじゃ?」
「はっ? 俺はまだアクゼリュスに行ってないが?」
「何言ってるんですか、ルークさん。あなたが来てくれたおかげでアクゼリュスの住民は全員避難できたじゃないですか」
「!?」

男の言葉にルークたちは驚きの表情を浮かべた。

「アクゼリュスの住民の全員が!? それは本当ですの!?」
「ええ、自分たちで最後になりますけど?」

ナタリアの問いに男は不思議そうに答えた。

「大佐。もしかして……」

ティアの言葉にジェイドは頷いた。

「ええ、おそらくはアッシュでしょうね」
「でっ、でも、何でアッシュが?」
「それは私にもわかりませんよ」
「…………」

何だ、この胸騒ぎは?
このいやな予感は……?

「ルーク?」
「……とにかく、アクゼリュスに向かおう。……いやな予感がする」
「いやな予感?」
「ああ、よくわからないが……」
「……まあ、いいでしょう。とりあえず、アクゼリュスに行ってみましょう。アッシュが何を企んでいるのか、気になりますし」

ジェイドの言葉にルークたちは急いでアクゼリュスへ向かった。





















「……それ、本当なの! ディスト!!」

神託の盾(オラクル)本部
そこで、シンクの声が響いた。
ディストの話を聞いたシンクの顔色は真っ青になっていた。

「冗談でしょ? そんなの冗談に決まってる。……冗談だって言えよ! ディスト!!」

いやだ。
そんなの認めたくない!
認めたくなんかない!!

「……こんなこと、冗談で言えると思いますか? シンク」
「!!」

シンクに対して、ディストが返した言葉はとても静かで哀しみが帯びている声だった。
シンクは、部屋の隅にいるラルゴを見た。
彼もそれに同意するかのように静かに頷く。

「……アリエッタもこのことを知っているの? どうして、今まで隠してたんだよ!!」
「いや、アリエッタもこのことは知らん」

ラルゴは静かにそう言った。

「アッシュに口止めされてたんですよ。あなたたちがこのことを知ったら何が何でも自分を止めるだろからって」

ディストはシンクの顔を見ず、言葉を零すように言った。

(そんなの当たり前だ!)

今の自分があるのはアッシュが助けてくれたからだ。
だから、アッシュの役に立ちたいと思った。
神託の盾(オラクル)騎士団に入ったのだってそれが理由だった。

「だからって、どうしてアッシュが死ななくちゃいけないんだよ!!」
「ヴァンの計画の為ですよ。……彼の計画には、アッシュの被験者(オリジナル)であるルークが必要なのです」

――――何故、アッシュは作られたのですか?
――――…………代用品。

あのとき、イオンに言ったアッシュの言葉の意味が今ならいやなほどわかる。
代用品
秘預言(クローズドスコア)で死を詠まれた被験者(オリジナル)の代わりに死ぬため、アッシュは作られたのだ。
被験者(オリジナル)の為に、アッシュは死ぬのだ。
シンクは奥歯を噛み締めると、踵を返して部屋を出ようとした。

「シンク! 何処に行くつもりですか!!」

それをディストはシンクの腕を掴んで止める。

「そんなの決まってるだろ! アクゼリュスに行く!!」
「なっ、何言ってるんですか! 今から行ったって間に合うわけないでしょうが!!」
「だったら、このままアッシュを見殺しにするのかよ! そんなこと出来るわけないだろ!!」

アッシュを見殺しになんかできない。

「だから、僕はアッシュを止めに行く! まだ、諦めたくないから!!」

ディストたちはアッシュを止めることを諦めてしまった。
それがアッシュが作られた理由だからと言って。
でも、自分にはそんなこと関係ない。
自分にとってアッシュは……。

「!!」

そのとき、大地が大きく揺れた。

「なっ、なんだよ、これ!?」
「……どうやら、終わってしまったようですね」
「!!」

悲しみを帯びたディストの言葉にシンクは全てを理解した。
アッシュがアクゼリュスを支えるセフィロトツリーを消滅させたのだ。
それによって、アッシュはアクゼリュスと共に魔界(クリフォト)へと落ち、障気の海に呑み込まれる。
アッシュは……死ぬ。

「そっ、そんな……」

シンクは力なくその場に座り込んだ。
間に合わなかった。
アッシュを止めることが……。
仮面の下にある瞳から涙が流れ落ちた。

――――おまえはおまえだろ。

そう言って、自分に笑いかけてくれたアッシュ。
あの言葉でどれだけ救われたか……。
だから、アッシュの力になろうと決めたのに。
アッシュがいつまでも笑っていられるように。
アッシュを守ろうと決めたのに。
そう、誓ったのに……。
なのに、出来なかった。

――――……その任務が終わったら、すぐに会えるよね?
――――……当たり前だろ。何言ってるんだよ、シンク。

「……嘘つき」

自分に笑いかけてそう言ったのに……。
会えることを信じていたのに……。

「……アッシュ……っ!」

一度流れた涙は止まることなく流れ続けた。
それをディストたちもそれぞれの想いを胸に抱きながら、ただ静かに見つめていた。
























Rainシリーズ第4章第9譜でした!!
ルークがやっとアクゼリュスへ辿り着きそうです!!遅いよ、ルーク!!
そして、シンクがアッシュが死ぬことを知ってしまいました。
アクゼリュスへ向かおうと思ったときにはもう既に遅し……。
切ない!切ないよ、シンク!!
本当はディストも泣きたいだろうけど、シンクの前では泣けませんww


H.20 5/6



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