歩いていたはずなのに、いつの間にかルークは走っていた。 早く行かなければ。 そうしなければ失ってしまう。 大切な何かを……。 〜Shining Rain〜 「くっ!!」 突然何かがルークたちの目の前に立ちはだかった。 「ライガ!!」 それは、アリエッタと共にいるライガだった。 「ここから先は通しません!!」 すると、ライガの後ろから、桃色の長髪の少女が現れた。 六神将≪妖獣のアリエッタ≫だ。 「そこをどけ」 ルークは腰にある剣を握り締め、静かにそう言い放つ。 「どきません!!」 「そこをどけと言うのが、聞こえないのか!!」 アリエッタの言葉を聞いたルークは一気に剣を引き抜き、怒鳴る。 ルークの様子をティアたちは驚きながら見つめる。 「どきません! 兄さまとの約束だから!!」 それに対して、アリエッタは叫ぶ。 「くっ……」 ルークの胸に焦りが走る。 でも、何故だ? 何故、俺はこんなにも焦っているんだ。 それは、何か大切なものを失いそうだから……。 心の片隅にある何かがそう答えた。 では、それは何だ? 別に、あそこには失って困るものなんてないのに……。 キィン すると、またあの音が鳴った。 ――――……ルー……ク……。 あいつの声が頭に響いた。 ――――今……何処にいるの? (アクゼリュスの前だ。アリエッタに妨害されて入れねぇ) ――――……そっか。……よかった。 それにアッシュは安心したように息をついた。 (そういうおまえは何処にいる? アクゼリュスなのか?) ――――…………。 ルークの問いにアッシュは答えなかった。 (そうなんだな?) ――――…………来ないで。 再び問いかけるとアッシュは静かにそう言った。 ――――……これから、やることを俺……見られたくないからさ。 (おまえ……一体何を……?) ――――だから、来ないで。この街と共に消滅するのは……俺だけでいいから。 (!?) アッシュの声が哀しく響いた。 「おい! それって、どういう意味だ!!」 ルークは思わず、叫んだ。 ルークが突然わけもわからないことを叫んだので、ティアたちは驚く。 「おい! 答えろ!!」 ルークは必死でアッシュへと呼びかける。 だが、いくら呼びかけてもアッシュは答えなかった。 「ルーク!!」 すると、アリエッタの後ろから萌え立つ緑を思わせる緑色の少年が走ってきた。 「イオン?」 何故、こんなところにイオンがいるんだ? 不思議に思いながら、ルークはイオンへと近づく。 イオンはずっと走って来たのだろうか、息を切らしていた。 「イオン様、どうしてこんなところにいるんですか!? こんなに走ったら、お身体に障りますよ!!」 アニスは心配そうにイオンの身体を支えた。 「ぼ、僕のことは……いいんです。そんなことより……ルーク。アッシュを止めてください」 「何?」 イオンの口から放たれた言葉にルークは驚いた。 「ヴァンが……」 ヴァンの名が出た途端、ティアの表情が凍りつく。 「ヴァンがアッシュを使ってアクゼリュスを消滅させようとしてます!!」 「「「「「「!?」」」」」」 イオンの言葉に一同の表情は強張った。 「そして、アッシュは……。アクゼリュスと共に死のうとしてます」 それを聞いた途端、ルークは頭を鈍器のようなもので殴られたような衝撃が走った。 背筋が凍りついていく。 ――――この街と共に消滅するのは……俺だけでいいから。 あいつの言葉が何度も何度も頭の中で反響する。 あの哀しそうな声が何度も……。 「ルーク!!」 ティアが気が付いたときは、ルークはアクゼリュスの街へと消えていった後だった。 アリエッタもイオンの言葉を聞いて動揺したのか、ルークを止めることは出来なかった。 「ティア」 すると、イオンがティアへと歩み寄った。 そして、ティアの手を掴み、何かを手渡した。 「これを……アッシュから預かりました。」 「こっ、これは……!!」 ティアは自分の手にあるものを見て驚いた。 それは、ペンダント。 紛れもなく、母の形見のペンダントだった。 「それと、伝言を預かりました。『もう二度とそれを手放さないで』と」 「!!」 ――――もう、失くすなよ。 ある夜、ペンダントを失くしてしまったときに言われた言葉を思い出す。 顔はハッキリと見ることが出来なかった相手。 でも、今ならそれが誰だったかわかる。 あれは、アッシュだったのだ。 彼は二度もこれを見つけてくれたのだ。 もう、二度と戻ってこないと思っていたのに……。 ティアはペンダントを握り締め、胸へと押し当て、顔を沈める。 そして、何かを決心したかのように顔を上げ、ルークを追いかけ始めた。 「……私たちも行きましょう」 ジェイドが静かにそう言うと、ガイたちも頷き走り出す。 それをアリエッタは呆然と見送った。 「兄さまが……死ぬ……」 イオン様はそう言っていた。 兄さまはこの地と共に消滅すると……。 「……兄……さま」 アリエッタはアクゼリュスへと向かおうと足を動かした。 だが、その足をすぐに止めた。 ――――もしルークたちが街に入ってしまったら、アリエッタはこの街から離れて欲しい。 兄さまとの約束が頭を過ぎった。 兄さまとの約束。 それは絶対守らなければいけない約束だ。 「…………っ」 アリエッタは、ぬいぐるみをギュッと抱き締めると、ライガの背に跨った。 そして、ライガにダアトに向かうように告げた。 その声はひどく震えていた。 ライガは少し不思議そうな顔をしたがその要求に応えてダアトへと走り出す。 回線を繋いだ後のせいか、重たい足を無理矢理動かして、アッシュは階段を降りる。 階段を降り終えるとアッシュはあるものを見据える。 外殻大地をを支えるセフィロトツリーを……。 それを作り出すパッセージリングを……。 それは所々ヒビが入り、今にも壊れそうにも見えた。 あのときは、そんなことも気付かなかった。 「さぁ、アッシュよ。おまえの力、超振動で柱を消滅させろ」 アッシュはヴァンの言葉に従い、意識を集中させ、第七音素を集める。 「さぁ、その力を解き放て! ≪愚かなレプリカルーク≫!!」 ヴァンの言霊がアッシュの身体を支配し、アッシュは力を解き放った。 Rainシリーズ第4章第10譜でした!! ルークたちがやっとアクゼリュスの入り口までやってきました!! そして、イオンと合流してアッシュがやろうとしていることを知ったルークたち。 今度はルークがアッシュの許へ走っていきます!! H.20 6/5 次へ |