ルークはひたすら走った。
何故、自分が走っているのかはわからなかった。
そして、自分が何処へ向かって走っているのかも。
ただ、わかっているのはこの先にあいつはいることだけだ。






〜Shining Rain〜








――――ルークよ。おまえはアクゼリュスへは行くな。

バチカルでヴァンと分かれるとき、ヴァンは俺にこう言った。

――――あの預言(スコア)には続きある。おまえがアクゼリュスに向かえば、戦争が起こると。
――――そっ、そんな……。
――――だが、安心しろ、ルーク。おまえがアクゼリュスにさえ行かなければ戦争は起きないのだ。おまえは頃合を見計らって、ダアトに逃げるのだ。
――――……だが……。

預言(スコア)に逆らって、本当にいいのだろうか。

――――安心しろ。もう、おまえに代わりは用意していある。お前は何も心配することはない。

そのときはヴァンの言葉に意味がよくわからなかった。
だが、ヴァンの言う通りにしようと思っていた。
雨の中、あいつと出逢うまでは……。
今なら、あのときのヴァンの言葉に意味がよく解る。

「……ふざけるなよ!!」

ルークは一気に加速して、坑道の中を走り抜けた。





















「よくやった、≪愚かなレプリカルーク≫よ」
「!!」

ヴァンは、アッシュを見つめ静かにそう言った。
その途端、アッシュは足に力が入らなくなり、その場へと倒れ込んだ。
地面が、大地が揺れているのがわかる。
あのときと同じだ。
ヴァンがアッシュへと歩み寄る。
そして、あの冷たい眼差しで、アッシュを見下ろした。

「……アッシュよ。おまえはよくやってくれた。だが……」

ヴァンは腰にある剣を抜きアッシュへとそれを向けた。

「……もう、おまえは用無しだ」
「…………っ!」

ヴァンの剣から逃れようとアッシュは、必死に身体を動かそうとする。
だが、身体はいうことを利いてはくれなかった。

「……さらばだ、アッシュ」

そう言うとヴァンはアッシュへと剣を振り上げた。
そのとき――。

「ヴァン!!」
ヴァンが剣を振り下ろそうとしたとき、ひとつの声がそれを遮った。
アッシュは声の聞こえたほうへと視線だけを動かした。
そこにあるのは紅。
燃えるような紅の長髪と翡翠の瞳の少年の姿。

「……ルー……ク」

声にならない声でアッシュはそう言った。
なんで?
なんでここにルークがいるんだよ、『アッシュ』?
俺、来ないでって言ったはずなのに……。
そんな事をアッシュが考えている中、アッシュを見たルークは、言葉失う。
倒れているアッシュの顔色は蒼白く、とても苦しそうに見える。
その近くにいるヴァンの手には剣が握られていた。
それを見た途端、ルークにはヴァンに対する怒りが込み上げてきた。

「ルーク! 何故ここにいる! 来るなと言ったはずだ!!」

ヴァンは振り返り、驚いたようにそう言った。

「兄さん!!」

ティアがルークに少し遅れてここへと辿り着いた。
ティアはアッシュを見て顔色が変わった。

「……やっぱり、裏切ったのね。この外殻大地を存続させるって言ってたじゃない!」

ティアは泣きそうな声でそう叫んだ。

「……メシュティアリカ」

ヴァンはティアをそう呼んだ。

「おまえにもいずれわかるはずだ。この世界の仕組みの愚かさと醜さが……。世界は変わらなければならない。その為にも生贄が必要なのだ」
「だから、アッシュを殺そうとするの! そんなの間違っているわ! アッシュを殺さないで!!」

ティアの瞳から涙が零れる。
それを見たヴァンは哀しそうな表情をした。
だが、ヴァンの気持ちは変わらなかった。
ヴァンは再びアッシュへと向きなおした。

「……メシュティアリカ、見るがいい。世界が変わる瞬間を……」

そう言うとヴァンは剣を振り上げる。

「やめて!!!!」

ティアの悲鳴のような叫びと共にルークはアッシュの許へと落ちる。
階段であいつの許へ向かっていては間に合わない。
ルークが着地すると同時にヴァンはアッシュに向かって剣を振り下ろした。

「やめろ!!!」

ルークがそう叫んだそのときだった。
アッシュの身体を包むかのように赤い光が現れた。
その光に触れた剣は光の粒子へと変わり爆発した。

「ぐっ!!」

その爆風でヴァンは吹き飛ばされ、壁に激突した。
何が起こっているのかはルークにはわからなかった。
それは、ヴァンもティアも同じようで驚きの表情を浮かべている。
だが、今はそんなことは関係ない。
ルークは迷わず、アッシュの許へと駆け寄る。
あの光に触れれば、自分がヴァンの剣のようになってしまうかもしれない。
だが、そんなことは恐れていなかった。
ただ、あいつに近づきたかった。
あいつを失いたくなかった。
ルークが赤い光へと触れると、光はルークを受け入れるかのようにルークを包み込んだ。

「アッシュ!!」

ルークはアッシュを抱き起こした。
そして、必死にアッシュの名を呼ぶ。
すると、閉じられていたアッシュの翡翠の瞳が少し開かれる。
瞳がルークが捉えるとアッシュ薄く笑った。
これが、今アッシュが笑える一番の笑みなのだろう。

「……ルー……ク……」

耳を澄まさないと聞こえないくらい小さな声でアッシュはそう言った。
アッシュの声を聞いたルークは胸が痛くなった。
何故だ?
何故、アッシュがこんな目に遭うんだ。
ヴァンが、アッシュをこんな目に遭わせたのか。
ルークはアッシュをギュッと抱き締めた。
そして、ヴァンを睨みつけ、腰にある剣を抜きヴァンへと向けた。
それを見たヴァンはさらに驚いたような表情になり、立ち上がった。

「ルークよ。アッシュを()れ」
「断る!!」

ヴァンの命令をルークはすぐさまそう返した。

「……俺はもう、あんたを師匠(せんせい)とは…………呼べねぇ」

アッシュにやらせたこと、アッシュにやろうとしたことがルークをそう思わせた。

「……そうか」

それに対して、ヴァンは薄い笑みを浮かべてそう言った。
ヴァンは口笛を吹いた。
すると、魔物がヴァンの許へと急降下し、ヴァンはその背に飛び乗った。

「……メシュティアリカ。おまえには譜歌(ふか)がある。それで……」

ヴァンはそう言い、魔物の腹を蹴ると、魔物は天井へと昇った。
魔物は天井に吸い込まれるように消えていった。

「ルーク!」

それと同時に、ガイたちがルークへと駆け寄ってきた。
すると、ルークたちを包み込んでいた赤い光は消えた。

「まずい! 坑道が崩れます!!」

ジェイドがイオンとアニスを支えながらそう言った。

「みんな、私の傍に!早く!!」

ティアはそう言うと譜歌(ふか)を歌い始める。
フーブラス川で聞いたあの譜歌(ふか)を……。

クロア リュオ ツェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ツェ

光に包まれながら、ルークたちは落ちていった。
























Rainシリーズ第4章第11譜でした!!
やっと、ルークがアッシュと再会!!だが時既に遅しですね;
ヴァンがすっかり悪役ですよwwアッシュにあそこまですることないのにね;
そして、ルークはこれからヴァンのことは師匠(せんせい)とは呼びません!!
原作同様、呼び捨てですよ!呼び捨て!!
そして、何気にアッシュの身を護った赤い光は、言わなくても大体想像がつきますよね?
さて、次回はどうなることやら!!


H.20 6/27



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