クロア リュオ ツェ トゥエ リュオ レィ ネゥ リュオ ツェ ティアの歌声と共に足元に譜陣が出現し、ルークたちを光が包み込む。 そして、激しい振動がルークたちを襲った。 〜Shining Rain〜 「……ここは……何処だ?」 さっきまで伝わっていた振動が収まると、ルークは目を開けた。 すると、辺りは紫色の靄に包まれ、泥のような色をした沼のような海が広がっていた。 空の色もそれに近い色をしていた。 「…………ここは、魔界……?」 イオンが小さくそう呟いた。 「ティアの譜歌のおかげで助かりましたね。そうでなければ、我々は障気によって死んでいたでしょうね」 ジェイドが眼鏡の位置を直しながらそう言った。 「あ〜〜〜っ! 見て! あそこ!!」 アニスはある方向を指差し、声を上げた。 ルークたちはその方向を見ると、そこにはあるはずのないタルタロスの姿があった。 「……ここは危ない。あそこに行きましょう。緊急用の浮標が作動しているようです。この泥の上でも持ち堪えている」 そう言うとジェイドは、タルタロスへと向かって歩き出した。 それにガイはルークへと近づき、腰を下ろす。 「……アッシュは俺が運ぼうか?」 アッシュに視線を向け、ガイはそう言った。 アッシュはぐったりとしていて、気を失っていた。 「…………いや、俺が運ぶ」 ルークはガイにそう言うとアッシュを抱きかかえ、歩き出した。 今は誰もコイツを触らせたくなかった。 手放したくなかった。 手放してしまったら、コイツが消えてなくなってしまいそうで怖かったから。 もう二度と、会えなくなりそうで怖かった。 そんなルークの様子をガイは静かに見守り、タルタロスへと乗った。 神託の盾本部 そこへ漸くヴァンは辿り着いた。 「ヴァン!!!!」 部屋の扉を開けると、いきなり怒鳴り声が降ってきた。 そして、次の瞬間シンクがヴァンの胸倉を掴みかかっていた。 「なんでだ! なんで、アッシュを見殺しにしたんだよ!!」 悲鳴に近い叫び声はヴァン以外の者が聞いたら痛々しく感じる。 だが、ヴァンにはそれが耳障りにしか感じなかった。 そして、ヴァンはシンクの手を鬱陶しそうに払い除ける。 「アレはその為に作ったのだ。それの何が悪い」 「! ふざけるなよ!! 人を何だと思っているんだ!!!」 シンクの言葉を聞いてヴァンは鼻で笑った。 「人だと? レプリカであるおまえがそれを言うのか? アッシュもレプリカだ。レプリカは所詮レプリカ。人になどなれないわ」 「っ!!」 ヴァンの言葉にシンクはキレ、ヴァンに殴りかかる。 自分のことはいくら侮辱されたっていい。 だが、アッシュのことを侮辱したことだけは許せなかった。 「シンク! 落ち着きなさい!!」 あと少しでヴァンを殴れそうなところで、リグレットに止められた。 「放せよ!! リグレット!!!」 「……まったく、煩いな。しかも、勝手にアッシュが死んでいることを決め付けおって」 「えっ……?」 ヴァンの思っても見ない言葉にシンクは固まった。 それはシンクだけでなく、リグレットたちも同じである。 「あ、あの閣下。それは、一体……」 逸早くその状態から抜けたリグレットがヴァンに問いかけた。 「あの場には、メシュティアリカがいた。メシュティアリカには譜歌がある。おそらく、アッシュも生きているだろう」 「「「「!!」」」」 (アッシュが……生きている) それを聞いたシンクの胸には嬉しさが込み上げてきた。 自分の中に一筋の光が差し込む。 「そこでだ、シンク」 ヴァンはシンクへと向き直した。 「アレは、まだ使える。おまえがアッシュを連れ戻して来い」 「なっ!?」 「なんだ、出来ぬのか? だとしたら、アッシュはルークの共に行動することになりかねないぞ」 (アッシュがあいつと……) そんなことになったら、アッシュはあいつに取られてしまう。 いやだ アッシュをあいつになんかに渡したくない。 被験者のあいつなんかに……。 「…………わかったよ。連れ戻してくるよ!」 シンクは力強く頷いた。 そして、そのまま部屋を出ようと扉に手をかける。 が、まだ扉に触ってないのに扉が開いた。 「あっ、あの。ただいま戻りました……です」 そこから美しい桃色の長髪の少女が現れた。 「何だ、アリエッタか。……ちょうどいいや、アリエッタもついてきなよ」 「? 何処へ……ですか?」 シンクの言葉に不思議そうにアリエッタは首を傾げた。 「今から、アッシュを迎えに行くんだよ。アリエッタも行きたいだろ?」 「! 兄さまをですか。はい! 行きたいです!!」 それにアリエッタは嬉しそうにそう言った。 「……いいでしょ、ヴァン?」 「……好きにしなさい」 ヴァンの了解を得たので二人はユリアシティへと向かって行った。 「……おまえたちも次の段階へと計画を進めろ」 「はいはい、わかりましたよ」 ヴァンに何処か嬉しそうにディストはそう吐き捨てると、部屋を後にした。 それに続くかのようにラルゴも部屋を出た。 「……よろしかったんですか?」 「なんだ? アレを死なせたくなかったのではなかったのか?」 「そっ、それは、そうでしたが……」 ヴァンは、こうと決めたことは決して曲げない人だ。 なのに、今回ヴァンはアッシュを殺さなかった。 それは、あまりにも不自然にリグレットは感じたのだ。 「アレはまだ使える。ただ、それだけのことだ」 「……そう……ですか」 「おまえも、さっさと次の任務に取り掛かりなさい」 「……わかりました。では、失礼します」 ヴァンの言葉を素直に聞き入れ、リグレットは部屋を出て行った。 部屋にはもうヴァン一人しかいない。 ヴァンはふと、あのときのことを思い出した。 アッシュを殺そうと剣を振り下ろしたとき、アッシュのみを赤い光が包み込んだ。 それによって、剣は光の粒子へと分解され、爆発した。 一体、あの力はなんだったんだ? あんな力、初めて見た。 アッシュは被験者を超える力を持っているのか。 だったら、危険だ。 なんとしてでも、アッシュを手元に置いておかなくては。 なんとしてでも……。 タルタロスのとある船室 そこにルークはいた。 彼のすぐ近くにあるベッドには美しい夕焼けように赤い長髪の少年が眠っていた。 アッシュはまるで死んでいるかのように眠り続けている。 それが、怖い。 このままもう二度とアッシュが目を覚まさないじゃないかと思ってしまう。 そんなのいやだ。 やっと、わかったんだ。 俺がアッシュに抱いていた感情が何なのか。 俺にとって、アッシュは大切な存在だと。 何故そう思ったのかは正直わからなかった。 それは直感に近いものだった。 タルタロスで初めてアッシュと出会ったときからずっと無意識にアッシュを求めていたのだ。 あの涙を見たときから……。 でも、何故だろう? 何故、あのときアッシュは泣いたのだろう。 ずっと疑問に思っていたのに、聞けずにいた。 アッシュが目を覚ましたら、そこのことを聞いてみよう。 ルークがそんなこと考えているそのときだった。 「…………か……ない……で」 「何?」 突然、アッシュがうわ言でそう言った。 「……行かないで……」 アッシュの閉じられた瞼から涙が流れた。 アッシュは一体どんな悪夢を見ているのだろう。 「……俺の……傍にいて。……独りに……しないで……」 とても苦しそうに、哀しそうにアッシュの声が響く。 アッシュの左手が何かを求めるように中を彷徨った。 ルークは咄嗟にその手を優しく包み込んでやった。 「……大丈夫だ。俺が傍にいる。……おまえは独りにはさせないから。だから……」 だから、泣くな。 泣かないでくれ。 すると、アッシュの頬を伝って落ちていた涙が止まり、アッシュの表情は穏やかなものへとなった。 「……『アッシュ』」 「!?」 (……今、何て言った?) アッシュが言った言葉にルークは驚いた。 アッシュが言った言葉。 それは間違いなく、『アッシュ』だった。 その響きは今までに聞いたことのないくらい穏やかで優しかった。 アッシュは自分の名前を言ったのではない。 同じ名前の違う人物を呼んだのだ。 一体、『アッシュ』とは誰なんだ? アッシュが呼ぶ『アッシュ』とは。 ルークは顔も知らない相手に嫉妬した。 Rainシリーズ第4章第12譜でした!! いや〜、ヴァンはとことん悪だねwwしみじみそう思っています。 そりゃ、シンクもキレたくなるよ。アッシュ命だからww あと、ルーク!面白いよ!!だって、自分に嫉妬してるんだもんwwww H.20 7/25 次へ |