「…………ねぇ、シンク。兄さまは何処にいるの?」 シンクの背にアリエッタは問いかけた。 「……魔界」 「えっ?」 「アッシュは今、僕たちのいる場所よりずっと下にいるだ」 魔界に行くには、アラミス湧水洞へ行くしかない。 魔界の唯一の街ユリアシティとアラミス湧水洞はユリアロードで繋がっているからだ。 「……兄さま、生きてるよね? 死んでないよね?」 アリエッタは不安そうな声が響く。 「……大丈夫だよ……きっと」 シンクはそうアリエッタは言い聞かせると、無言でアラミス湧水洞を歩いた。 〜Shining Rain〜 「ルーク」 ティアは自分部屋にいる燃えるような紅の長髪の少年に声をかけた。 自分の部屋にあるベッドには美しい夕焼けのように赤い長髪の少年が眠っている。 ルークはベッドの近くに椅子を持ってきて腰を下ろしていた。 「少し休んだほうがいいわ。ここに来てから休んでないでしょ」 心配そうな声でティアはそう言った。 ルークは、タルタロスからずっとアッシュの傍を離れることなくアッシュが目を覚ますのずっと待っていた。 だから、ルークはまだ一睡もしていないのだ。 「……別にいい。あまり疲れていない。それに……」 ルークは視線をアッシュへと向ける。 まるで、死んでいるかのように眠り続けるアッシュを……。 「……今は、こいつの傍にいたい……」 アッシュが目を覚ますまで……。 「でっ、でも、それだとルークの身体が持たないわ。少しでもいいから休んで。アッシュは私が見てるから」 「そうですの! ミュウも見てるですの! ご主人様は休むですの!」 「…………わかった」 ティアとミュウが必死でそう言ったのでルークは仕方なくそうすることにした。 ルークは立ち上がると、階段を降りていった。 夢を見た。 真っ暗な闇の中、一人俺がいる。 どれだけ歩いてもその闇は決して途切れない。 明けない闇がいつまでも続く。 どれだけ叫んでも、返ってくる声などなかった。 まさに、孤独だった。 アクゼリュスを崩壊させてしまってみんなに見放されてしまったときのように。 行かないで……。 自然と涙が流れる。 俺の傍にいて……。 独りにしないで……。 暗闇に手を伸ばす。 手を伸ばしても掴む者などないのに……。 すると、その手を誰かが包み込んだ。 とても暖かい。 暗闇で相手の顔は見えなかった。 ――――……大丈夫だ、俺が傍にいる。 優しい声が闇の中の一筋の光となる。 ――――……おまえは独りにはさせないから。だから……。 知っている。 この手と声の持ち主を。 誰よりも大切な彼のものだと……。 「……『アッシュ』」 アッシュはそう呟いた。 「…………うっ」 < アッシュは小さな呻き声を上げて、瞳を開けた。 「…………ここは?」 そして、そのままゆっくりと上半身を起こして辺りを見渡す。 見覚えのある部屋。 ここはティアの部屋だ。 どうやら、俺はルークたちに助けられたようだ。 「アッシュさん! 目が覚めたですの!」 すると、アッシュの目に水色の何かが飛び込んできた。 「……ミュウ。……俺の傍にいてくれたのか?」 「はいですの!」 アッシュの問いにミュウは嬉しそうに答えた。 「そっか……ありがとう、ミュウ」 アッシュは優しく微笑み、ミュウ頭を撫でた。 そして、そのままアッシュは中庭へと目を向けた。 セレニアの花が咲き乱れる中庭にはひとつの人影があった。 アッシュはベッドから降りるとふらつきながらその人影を目指して歩く。 あのときと全く変わらず、マロンペーストの髪が優しく揺れている。 「…………ティア」 「!!」 アッシュはティアに呼びかけた。 ティアはゆっくりと振り向いた。 ティアの顔は驚きの表情を浮かべていた。 「……ごめん。驚かせちゃった?」 「えっ? いっ、いえ、大丈夫よ」 「……そう、よかった」 声を出すのが正直疲れる。 それを隠すかのようにアッシュは笑った。 暫く、沈黙が続く。 何処からともなく吹く風が二人の髪を弄ぶ。 「……兄さんが一体何を企んでいるのかわからないわ」 先にその沈黙を破ったのはティアだった。 「あなたを殺して世界を変える。あれは一体どういう意味なの? あなたは知っているのでしょう?」 アッシュに問いかけるティアの声はひどく震えていた。 「俺は……何も知らない」 アッシュはそう言った。 嘘だ 本当は全て知っている。 ヴァンが何を企んでいるのかを……。 「…………そう」 それを聞いたティアの瞳が哀しく揺れた。 「…………ベルケンドとワイヨン鏡窟」 「……えっ?」 アッシュの囁くような声にティアは聞き返した。 「そこにヴァンはよく訪れていた、何か手がかりがあるはずだ」 「あっ……ありがとう」 ティアがお礼を言ったそのときだった。 ティアの胸の辺りに何かが光った。 それはペンダントだった。 「……それ、受け取ってくれたんだ。よかった」 アッシュは笑みを浮かべてそう言った。 「……ごめんなさい」 「? なんで、ティアが謝るの?」 ティアの言葉にアッシュは首を傾げた。 「……あなたにあのとき言われたこと……守れなかったから」 「あのときのこと? あっ、あれはどっちかって言えば俺のお願いみたいなものだし;」 「でも……」 「だったら、今度は約束しようよ。二度とそれを手放さないって」 アッシュはティアの顔を覗き込んだ。 「えっ、ええ/// ……約束するわ///」 それにティアは顔を赤くしながらコクリと頷いた。 「うん、約束だよ、ティア!」 アッシュは満面の笑みだそう言った。 それを見たティアの顔にも自然と笑みが浮かぶ。 「……じゃあ、俺もう行くよ」 「えっ?」 アッシュの言葉にティアは驚いた。 「……俺にはやらなきゃいけないことがあるんだ。だから――」 グラ そう言ったとき、アッシュの視界が大きく揺れた。 「アッシュ!!」 その場に膝をついたアッシュにティアが駆け寄る。 「……大……丈夫。いつもの……こと……だから……」 「何言ってるのよ! 顔色が真っ青になっているわ。まだ休んでないと……」 「本当に、大丈夫だよ。……それに、俺には休んでいる暇なんて……ないよ」 声を絞り出すようにそう言うと、アッシュはティアを振り切って歩き出そうとする。 「アッシュ!!」 すると、中にはにひとつの声が響く。 中庭の入り口に燃えるような紅の長髪の少年が立っていた。 「……ルーク」 アッシュがそう小さく呟くと、ルークはアッシュへと駆け寄りアッシュの胸ぐらを掴んだ。 「なんでだ? なんで、アクゼリュスを崩壊させた!!」 ルークの言葉がアッシュの胸に突き刺さる。 「ルーク! アッシュに乱暴しないで!!」 「うるせぇ! ティアは黙ってろ!!」 ティアの抗議をルークは一喝で黙らせた。 「大体、おまえは何なんだ? どうして、俺と同じ顔をしてやがるんだ! 答えろ!!」 憎しみにも似た怒りを宿した翡翠の瞳がアッシュに向けられる。 この瞳だけは何があっても変わらない。 「……俺は――」 「ダメよ! アッシュ!!」 アッシュが口を開くとティアが止めに入った。 「言ってはダメよ! 知らなくたって、いいことだってあるもの!! 傷付くのはあなた自身なのよ!!」 サファイアブルーの瞳に涙が溢れ出す。 (やっぱり、ティアは気付いていたんだ……) 俺がレプリカだって『アッシュ』に告げられたときも、ティアはそれを知っていて今みたいに必死に止めていた。 「……ティア、俺なら大丈夫だよ。……ルークには全てを知る権利がある」 「でも!!」 「大丈夫だって」 「…………」 アッシュに笑いかけられ、ティアは何も言えなくなった。 それがわかったアッシュはルークへと視線を戻した。 「……答えろ。てめぇは何者だ?」 ルークの瞳がまっすぐアッシュを見つめる。 この瞳に嘘はつけない。 「……七年前、ヴァンはコーラル城である実験を行った。そして……俺が生まれた」 「何!?」 アッシュの言葉にルークの表情が一変する。 「俺は……君を基にして作られた、複写人間。……レプリカだ」 自分が傷付く言葉を、アッシュは静かに呟いた。 Rainシリーズ第4章第13譜でした!! いや〜。アッシュとティア、いい雰因気だねww それに比べて、ルークは……。まあ、よしとしよう。(いいのかよ!!) 一応ルクアシュ(オリジ×レプリカ)なのに……。 まあ、ルークが素直じゃないからねwwww H.20 9/23 次へ |