「こっ、これは一体!?」 アクゼリュスに着いたヴァンは言葉を失う。 ヴァンの目の前に飛び込んできたものは、障気に苦しむ人々の姿ではなく、人っ子一人いない街の光景だった。 〜Shining Rain〜 鉱山の街アクゼリュス そこは今、不気味なほどに静かだった。 「一体どうなっているのだ……」 ヴァンはその理由がわからず、呟いた。 「随分遅かったな」 「!?」 すると、ひとつの建物から人が現れた。 夕焼けのように赤い長髪に翡翠の瞳の少年が……。 彼は白い法衣ではなく、裾がだぶっとした黒い長いズボン、腹が剥き出しの半袖の黒いシャツに後ろが大きく開いた、やはり半袖の白いコートを着ていた。 何故だろうか。 彼のこの姿は初めて見るはずなのに、どこか懐かしいと感じてしてしまうのは……。 「? ……ヴァン、どうかしたか?」 「あっ、いや……。なんでもない……」 何故か固まって動かなくなったヴァンの様子を見てアッシュがそう問いかけたのに対して、ヴァンは漸く我に返ったようにそう言葉を返した。 「それよりアッシュ。街の人たちはどうしたのだ?」 「……全員避難し終わった」 「何!?」 アッシュの言葉にヴァンは心底驚いたような顔をした。 「おまえ一人でやったのか?」 「いや。街の人たちに手伝ってもらいました」 「そうか……。だが、何故命令していないことした?」 自分が命令したこと以外はしない彼が何故こんなことをしたのだろう。 「……あまりに早く着過ぎて暇だったから。それに、預言では街の崩落することは詠まれているが、ルーク以外の死は詠まれていない。だから、やった」 アッシュは淡々とそう言った。 アッシュの言うとおり、秘預言にはルークがキムラスカの兵器となって街と共に消滅することは詠まれているが、他の者の死は詠まれてはいない。 「……ダメだったのか? だったら、今から呼び戻すか?」 「いや、その必要はない」 アッシュの言葉に少し焦りながら、ヴァンはそう言った。 せっかく避難させた住民を再び街へと戻すのは、あまりにも不自然すぎる。 それを彼はわかっていないようだ。 「兄さま!」 すると、障気の街にひとつの声が響いた。 そちらへと視線を向けると、魔物がこちらへと向かってくる。 その背には、桃色の長髪の少女と萌え立つ緑を思わせるような緑色の髪の少年の姿があった。 「アリエッタ」 魔物がアッシュたちの前に着地すると、アリエッタたちは魔物から降り、アリエッタはアッシュに抱きついた。 「兄さま、言われたとおりイオン様を連れて来ましたです」 「うん。ありがとう、アリエッタ」 アッシュはアリエッタに笑いかけ、頭を撫でる。 「では、そろそろ行こうか」 すると、ヴァンはそう言うと第十四坑道へと足を進めた。 「…………アリエッタ。もうひとつ頼めるかな?」 「……なんですか?」 「……ここに、ルークたちがやって来ると思う。ルークたちがこの街に入らないように妨害して欲しいんだ。でも、もしルークたちが街に入ってしまったら、アリエッタはこの街から離れて欲しい」 「でっ、でもそうしたら兄さまが……」 「俺なら大丈夫だよ。お願いできるかな、アリエッタ?」 不安そうな顔をするアリエッタにアッシュは優しく笑いかける。 「……わかりました。アリエッタ、頑張ります!」 アリエッタはそう言うと魔物を引き連れ、街の外へと走り出した。 これで、アリエッタがアクゼリュスと共に沈むことはなくなった。 「……じゃあ、行こっか、イオン」 アッシュはイオンへと手を差し伸べる。 イオンはそれにコクリと頷き、アッシュの手を取り歩き始めた。 坑道の中はあのときと同じになっていた。 奥へ進むにつれて障気の濃度は濃くなり、頭がクラクラしてくる。 そして、坑道の一番奥へと辿り着いた。 そこには、ステンドグラスのような美しい光は放つ扉があった。 セフィロトヘと繋がる扉が……。 「イオン様、この扉を開けていただけますか?」 「これはダアト式封咒。……では、ここはセフィロトですね。ですが、ヴァン。ここを開けても意味がないのでは?」 「いいえ。このアクゼリュスを再生する為に必要なのです」 「ですが……」 ヴァンの言葉にイオンは戸惑う。 「頼む、イオン。ここを開けてくれないか?」 「……わかりました」 アッシュの言葉を聞くとイオンは少し考えてからそう言った。 そして、イオンは扉へと向き、手を上げる。 すると、光の円陣のようなものが扉の表面に出現し、それが回転すると光の扉はガラスが割れるように砕けた。 イオンは手を下ろすと、力なくその場に倒れる。 「イオン!!」 それをアッシュが支えた。 「……無理させて、ごめん」 美しい翡翠の瞳が哀しそうに揺れた。 「い、いえ、大丈夫です」 それにイオンは無理して笑った。 アッシュのそんな顔を見たくないから……。 「……立てるか?」 「……はい、大丈夫です」 アッシュの言葉にイオンは頷くと、ゆっくりと立ち上がった。 ヴァンはもう中に入ったのか、その場にはいなかった。 「……僕たちも行きましょう」 イオンはセフィロトヘと繋がる道へと歩き出そうとした。 「その必要はないよ、イオン」 すると、イオンの手をアッシュが掴み、それを止めた。 「……ここから先は、イオンは見なくていい」 「ですが……」 「もう、わかっているだろう? 俺が作られた理由。秘預言を知っているイオンなら」 「!!」 アッシュの言葉にイオンは言葉を失った。 アッシュの言葉で全てを理解してしまったから……。 アッシュが作られた理由。 それは、被験者の代わりにこの地と沈む為。 まさに代用品なのだ。 彼は生まれたときから、このことを知っていたのだ。 「ここにいたら、またヴァンに利用される。近くにルークたちが着ているはずだから、逃げて」 「ですが! このままだったら、アッシュが……」 イオンは途中で言葉が切れる。 アッシュがとても穏やかな笑みを浮かべていたから。 もう、自分が何を言ってもアッシュの答えは変わらない。 「……イオンに頼みがあるんだ」 そう言うと、アッシュはポケットから何かを取り出しイオンに手渡した。 それは、ペンダントだった。 ヘッドに嵌められた大きな宝石が不思議な光を放っている。 「これをティアに渡して欲しい。そして伝言を頼めるかな? 『もう二度とそれを手放さないで』って」 アッシュは笑ってそう言うと、セフィロトヘと向かっていった。 「アッシュ!!」 イオンはアッシュを追いかけようとしたが、止めた。 自分が行ってもアッシュは止められない。 アッシュを止めたいのに……。 もう誰もアッシュを止めることは出来ないのだろうか? いや、いる。 たった一人だけいる。 アッシュが口にする言葉で一番穏やかで優しく聞こえる言葉。 ルーク アッシュの被験者である、ルーク・フォン・ファブレ。 イオンはペンダントを握り締め、街の出口へと向かって走る。 ルークをここへ連れて来ないと……。 きっと、ルークならアッシュを止められる。 イオンはそのことだけを考えて、ただひたすらルークたちの許へと走った。 Rainシリーズ第4章第8譜でした!! やったよ!アクゼリュスの住人全員避難できたよ!! そりゃ、ヴァンも驚くよねwwでも、アッシュはヴァンがそう返すとわかっていてわざとあんなこと言ってますよwwww そして、イオン!!頑張ってルークたちの許へ走ってます!!頑張れイオン!!(これしか言えない;) H.20 4/21 次へ |