ここを崩壊させる前にここにいる全ての人を避難させる。
アッシュはその思いを胸にテキパキと避難の作業を進める。
制限時間は、ヴァンがここへ辿り着くまでだ……。






〜Shining Rain〜








「つ〜か〜れ〜たぁ!」

テオ峠の頂上でアニスはそう叫んだ。
頂上に着いたルークたちは少し休憩を取っていた。

「アニス、そんになに叫んだら、もっと疲れますよ?」
「そうですけどぉ、叫びたかったんですぅ!」

ジェイドの言葉にアニスはそう答えた。

「……すまない、俺のせいで……」
「ル、ルーク様が悪いんじゃありませんよ!」

ルークが謝ると、アニスは焦ったようにそう言った。
ルークたちはアッシュが言っていたザオ遺跡へと向かった。
だが、そこにはアッシュとイオンの姿はなく、いたのは六神将のシンクとラルゴだけだった。
シンクとラルゴとの戦闘は何とか勝利し、ルークたちはアクゼリュスを目指してテオ峠を越えている最中である。
シンクとラルゴに思った以上に時間を取られ、今のアクゼリュスの状況が非常に心配だ。

「悪いのは六神将で、ルーク様に嘘を教えたアッシュですよ」
「あいつは嘘を言ってねぇ!!」
「!!」

アニスの言葉にキレたかのようにルークは怒鳴った。
それにアニスだけでなくティアたちも驚いたような顔した。

「あっ……いや、その……すまない」

それに気付いたルークは申し訳なさそうに謝った。

「どうしたんだよ、ルーク? おまえらしくないぞ」
「……俺にも……わからねぇ」

ただ、あいつのことを悪く言われたとき、頭がカッとなった。
でも、それがなんでなのかはわからない。
一体、何なんだ?

「……アニス、本当にすまない」
「……えっ? いえ、大丈夫ですよ」

よっぽど、驚いたのだろうか。
ルークが声をかけてもアニスは少しの間、固まっていた。

「…………そろそろ休憩を終わりにして、先を急ぎますか?」

ジェイドはそう言うと、下ろしていた腰を上げて立ち上がった。
ルークたちはそれに頷き、再び歩き始めた。





















「止まれ!」

テオ峠も終わりに差し掛かったとき、女の声と銃声が響き、ルークの足元で土が爆発するように浮き上がった。
それにガイは天を仰いだ。

「≪魔弾のリグレット≫!」

自分達より高い崖のような場所にブロンドの髪をポニーテールにした黒衣の女性の姿があった。
六神将≪魔弾のリグレット≫だ。
両手にある二丁の譜業拳銃(ふごうけんじゅう)がルークたちへと向けられている。

「ここから先へはおまえたとを通すわけには行かない!」
「教官! どうして、私たちの邪魔をするのですか! 教官たちは一体何を企んでいるのですか!!」

それにティアは悲痛な声で叫んだ。

「……人間の、意志と自由を勝ち取る為だ」
「それはどういう意味ですか……?」
「この世界は預言(スコア)に支配されている。何をするにも預言(スコア)を詠み、ひどい者は夕食の献立まで預言(スコア)に頼る始末だ。おまえたちもそうだろ?」

銃口がアニスへと向けられる。

「そっ、そこまでひどくはないけど、預言(スコア)に未来が詠まれているならそのとおりに生きた方が……」
「確かに、誕生日に詠まれる預言(スコア)は参考になるしな」

ガイがそう言うとナタリアが頷いた。

「そうですわ。それに生まれたときから自分の人生の預言(スコア)を聞いていますのよ?」
「……結局のところ、預言(スコア)に頼るのは楽な生き方なんですよ。もっとも、ユリアの預言(スコア)以外は曖昧で読み解くのが大変ですがね」

ジェイドは静かにそう言った。

「そういうことだ。この世界は狂っている。誰かが変えなければいかないのだ。それに……」

リグレットはルークへと視線を向ける。
アッシュと同じ顔の彼を……。

――――ルークたちをアクゼリュスに近づけないで。

「それに……これはあの子の望みだから……」

リグレットは、とても哀しそうな瞳と声でそう言った。
その言葉を聞いたジェイドは、何かを確信したかのように表情が変わった。

「……やはり、おまえたちかっ! あの禁忌の技術を復活させたのは!!」

ジェイドの声にルークたちは驚いた。
彼がここまで声を荒げたのを初めて見たから。

「誰の発案だ! ディストか!!」
「≪フォミクリー≫のことか? 知ってどうする。……采は投げられたのだ、≪死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド≫」
「っ!!」

その言葉にジェイドはキレたのか、ジェイドは何処からともなく槍を出現させ、リグレット目掛けて投げた。
それをリグレットは軽々と避け、ルークたちへと威嚇の発砲をした。
そして、リグレットはルークたちの近くへと舞い降りる。

「……どうしても行くと言うのなら、力づくでも止めてみせる!!」

あの子の望みの為、リグレットはルークたちへと発砲した。





















「……っ! 少しやり過ぎたか…………」

テオ峠でリグレットは、一人座り込んでいた。
死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド≫に封印術(アンチフォンスロット)をかけられているとはいえ、自分独りでは彼らは荷が重かったようだ。
あれだけの闘いで足を痛めただけなのがある意味奇跡でもある。

「……結局、止められなかったか……」

あの子の望みを叶えてあげられなかった。

ピピピッ

すると、彼女の腰の辺りにある譜業装置(ふごうそうち)が鳴った。
リグレットはその譜業装置(ふごうそうち)を手に取った。

「……誰だ?」
『私だ、リグレット』

リグレットの問いに聞き慣れた声が答えた。

「閣下」
『ルークたちは今、どの辺りにいる?』
「……彼らはテオ峠を越えました。申し訳ありません。彼らを止めることが出来ませんでした」
『そうか……。私は、もうすぐアクゼリュスへ着く。アッシュは、もう現地にいるだろうな』
「そう……ですね」

ヴァンの言葉にリグレットの表情は沈む。

「閣下、本当にやるのですか?」
『? 何をだ?』
「……出来ることなら、あの子を彼に代わりに死なせたくありません」
『……リグレット。おまえまで忘れたのか? アレを作った理由を』
「それは……わかっています。ですが……」
『アレは人形(レプリカ)だ。何も感じてなどいない』
「…………」

ヴァンの言葉にリグレットは返す言葉を失くす。

『そろそろ、切る。アッシュが待っているからな』
「…………はい」

そう言うとリグレットは、譜業装置(ふごうそうち)を手放した。
ヴァンにとって、あの子はただの道具でしかない。
何も感じない人形だと思っている。
でも、リグレットはそれが間違いだとわかっている。
あの子には確かに心があるのだ。
任務で人を殺した日の夜はいつもあの子はベッドで震えていた。
「ごめんなさい」と、何度も何度も謝っていた。
涙を流して、泣いていたのだ。
それを自分だけでなく、ラルゴもディストも知っている。
だから、ディストはあの子の為に薬を作っている。
自分は、あの子が安心して眠れるまで、優しく抱き締めてあげていた。
あの子が眠るまで、ずっと……。
リグレットは立ち上がり、痛めた足を引き摺りながらダアトへと向かった。
本当に行きたいのはダアトなんかではない。
アクゼリュスへ行き、あの子を助けたいのに……。
リグレットの瞳から静かに涙が流れ落ちた。
それは、足の痛みから来るものか、アッシュを失う哀しみから来るものかは、彼女自身にもわからなかった。
























Rainシリーズ第4章第7譜でした!!
テオ峠でリグレットと対面ww
シンクとラルゴ戦もリグレット戦も戦闘シーンはカットしてしまいました;
書いてしまったらもっと長くなってしまいそうで……。
そして、ジェイドさんとルークがキレました!!
イオンがいないので、ジェイドさんは感情が爆発してしまったよww


H.20 4/5



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