ザオ遺跡の奥
そこにシンクはいた。
そして、シンクに少し離れて位置に萌え立つ緑を思わせるような緑色の髪の少年が座っていた。
自分と同じ顔を持つ彼が……。






〜Shining Rain〜








「大丈夫か?」

シンクは彼へと近づき、そう言った。
すると、自分と同じ顔を持つ彼、イオンはコクリと頷いた。

「……大丈夫ですよ」

イオンはそう言ったが、唇は紫色に変色し、顔色を蒼白くなっている。
とても大丈夫とはいえない状態だと、見れば誰でもわかる。

「嘘つけよ。そんな顔色で、大丈夫なわけないだろ」

シンクはそう言うと、イオンに治癒譜術(ちゆふじゅつ)をかけてやった。
優しい光がイオンを包み、イオンの顔色も少しはよくなった。
シンクの行動にイオンは驚いたような表情を浮かべた。

「あっ、ありがとうございます」
「……別に。あんたにもしものことがあるとアッシュが心配するからね」

それに、こんなのは気休めにしかならない。
レプリカである自分、譜術(ふじゅつ)が彼より劣っているから。
だから、自分は捨てられたのだ。
それに、傷付いたアッシュに治癒譜術(ちゆふじゅつ)をかけても、決してそれだけで完治したことがなかったし……。

「……あんまり、無理するなよ」

と、言ってもイオンに無理させてのは他ならぬ自分たちだ。
イオンの力を使ってこのザオ遺跡にあるセフィロトヘの扉を開けさせてたのだから。
イオンは被験者(オリジナル)とほぼ同じ力を持っている代わりに体力がない。
だから、力を使ったイオンはこんな状態になってしまうのだ。
こんなイオンの姿を見ると少し胸が痛くなる。
自分がすればイオンはこんなことをしなくてすむのに……。

「……どうかしましたか?」

すると、イオンがシンクに話し掛けてきた。
髪と同じ色の瞳が心配そうに揺れていた。

「…………別になんでもないよ」

そう言ってシンクは、イオンから目を逸らした。
なんでイオンは、自分をそんな瞳を見つめているのだろうか。
イオンは自分に攫われてきたのに……。

「そう……ですか……」

イオンの少し哀しそうな声が耳に入ってきた。

「あの……もしかして、あなたも――」
「シンク!」

イオンが何か言おうとしたその時、ひとつの声がそれを遮った。
声がするほうへと目を向けると、一匹の魔物がこちらに向かって飛んできた。
その背には美しい桃色の長髪の少女、アリエッタがいた。

「アリエッタ、どうしたのさ?」

思わぬ人物の登場にシンクは驚きながらそう言った。

「兄さま頼まれてイオン様を迎えに来ましたです」
「なるほど。アッシュの言っていたことはこのことだったか……」

アリエッタの言葉を聞いて、ラルゴは一人納得したように頷いた。

「あ、あの……イオン様。その……」

イオンに何か言いたいのかアリエッタは必死に言葉を紡ぐ。
だが、その言葉が見つからないのか、なかなか声に出てこない。

「わかりました。行きましょう、アリエッタ」
「えっ?」

イオンの言葉にアリエッタは驚いたような表情を浮かべた。

「僕を迎えに来たんでしょう? だったら、行きましょう」
「は、はい!」

イオンの言葉が嬉しくて、アリエッタは笑顔でそう言った。
初めて見た彼女の笑顔。
その笑顔はとても暖かく優しい。
彼は彼女のこの笑みが好きだったんだろう。
イオンはアリエッタの手を取って魔物の背に乗ると、ザオ遺跡を後にした。





















「どうやらここらしいですね」

イオンがザオ遺跡を後にして数分後、ルークたちはやっとの思いでザオ遺跡へと辿り着いた。
ジェイドは辺りを見渡すと、崩れた建物の入り口らしきところへ向かっていた。
ルークたちもそれに続いて中へと入るとひんやりとした涼しい風が肌をなで、呼吸が楽になった。
ルークたちはその中を何の躊躇いもなく進んでいく。
その中は思った以上に広く、所々に廃墟があった。
本当にこんなところにイオンはいるだろうか?
あいつが俺に言ったことは全部嘘だったのだろうか。

「あ〜〜っ! あれ、見て!!」

橋を渡り終わるとアニスは、突然ある方向を指し叫んだ。
その方向を見ると、そこには萌え立つ緑を思わせるような緑色の髪の少年と、二メートルを超える大男の姿があった。
それは間違いなく、六神将≪烈風のシンク≫と≪黒獅子ラルゴ≫だった。

「やっと、おでまし? 遅くて待ちくたびれたよ」

ルークたちの存在に気が付いたシンクは、ルークたちへとそう言い放つ。

「イオンは何処だ」
「イオン? ああ、あいつだったら、ついさっきアリエッタが連れて行ったよ。残念だったね」

ルークの問いにシンクは笑って答えた。

「一足遅かったか」

ガイは悔しいそうにそう言った。

「イオン様を何処に連れて行ったのよ!」
「さぁね。僕たちは、ここでお前たちの足止めをするように命令されただけだからね」
「それはそれは。私たちは先に急いでいるので困りますねぇ」

シンクの言葉を聞いた、ジェイドは少しも困っていないような声で肩を竦めてそう言った。
だが、シンクはそんなジェイドの態度など気にしていないようだ。
ただ、ルークだけを仮面越しで睨んでシンクは戦闘体勢へと入る。

「……余裕だね。だったら、こっちから行くよ!!」

そう言うとシンクは地面を思いっきり蹴った。





















『どうだ、ルーク?』

アクゼリュス付近の平地
そこにローレライはいた。

「うん、いいよ」

ローレライの声に一人の少年が答えた。
ローレライはそちらへと振り返る。
そこには、美しい夕焼けのような赤い長髪に翡翠の瞳を持つ少年の姿。
自分の完全同位体で今はアッシュと名乗る『ルーク』がいた。
先程まで、ローレライ教団の白い法衣に身を包んでいた彼だったが、今は違う。
裾がだぶっとした黒い長いズボン、腹が剥き出しの半袖の黒いシャツに後ろが大きく開いた、やはり半袖の白いコートを着ていた。
そう、それは以前彼が着ていた服だ。

『……やはり、その服のほうがルークは似合うな』
「あっ、やっぱり? 俺もそう思ってたんだ」

ローレライの言葉にアッシュは笑って答えた。
俺がこの服に着替えた理由。
それは、自分が親善大使としてアクゼリュスへと行こうとしているから。
親善大使としていくのに、法衣で行くのはおかしいと思い、ローレライに頼んで俺が昔着ていた服を作ってもらったのだ。
この服を着るのは久しぶりでとても懐かしく感じた。

「じゃあ、俺そろそろ行くね」

アッシュはそう言うと足元に置いてあった大きな袋を手に持った。
その中には、これまたローレライに頼んで作ってもらった障気に汚染された人たちの為の薬が入っている。

『ルーク』

それを持って、アクゼリュスに向かおうとするローレライが声がかけてきた。

「? 何? ローレライ?」

それにアッシュは振り返った。

『……そなたにこれを渡しておく』

ローレライはそう言うと、アッシュの手に何か手渡した。
それは、ひとつの硝子玉。
ローレライの宝珠に似ているが、全く異なるものだ。
硝子玉は光の当たる加減によって所々が赤から黄色へと変わっていく。
とても不思議な色だが、とても綺麗だった。

『……これをいつか使うときが必ず来るだろう。だが、これを使うかはそなたが決めなさい』

ローレライはとても穏やかに優しくそう言った。

「……うん、わかった。ありがとう、ローレライ」

それにアッシュは笑みを浮かべて応えると、硝子玉を光の粒子へと分解し閉まった。

「……じゃあ、いってきます!」

アッシュはそう言うと、アクゼリュスに向かって走り出した。
それをローレライは静かに見送った。





















アクゼリュスへと訪れたアッシュ。
あのときより遥に早く訪れたので、被害が少なそうに見える。

「あ、あんた、キムラスカ側から来たのか?」

すると、たくましい身体をした男がアッシュへと近づき話しかけてきた。

「ああ」

一目でわかった。
アクゼリュスの坑道で現場監督をしているパイロープさんだと。

「俺は、ルークといいます。ピオニー陛下からの依頼、インゴベルト国王から親善大使の任を受けこちらへとやってきました」

アッシュはパイロープに笑みを浮かべてそう言った。

「ああ! 話は聞いています! あなたがそうでしたか!! 自分はこの行動で現場監督をしているパイロープといいます。村長が倒れているので、自分が代理で雑務を請け負っとります」

アッシュの言葉を聞くと、パイロープはそう言った。

「ですが、あなた一人で救助なさるんですか?」
「いえ。ここの救援を阻止する者がいまして、仲間たちとは別行動でこちらにやってきたものですから。他の者は遅れてやってくるはずです」

パイロープの問いに内心焦りながら、アッシュはそう受け答えた。
それを聞いたパイロープは納得したように頷く。

「なるほど。そんなことがあったんですね」
「あの、俺だけでも、さっさと始めようと思います。まだ、動ける人は他にいますか?」
「はい。数名ほどなら。……自分は呼んできます!」

パイロープはそう言うとある建物の中へと消えていった。
今度は誰も死なせない。
必ず、全員助けて見せる。
強い思いを胸に抱き、アッシュはパイロープの後を追って歩き出した。
























Rainシリーズ第4章第6譜でした!!
シンクとイオンが絡んだり、アッシュが以前の服に着替えたり色々とあった今回。
そして、アッシュはついにアクゼリュスへ!!
ローレライがアッシュに渡した硝子玉が一体何なのか?
それはこれからのお楽しみということでww


H.20 2/12



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