艦橋へと向かう途中の甲板。 アッシュはそこで目的の人物を見つけた。 二メートルを越える大男を。 アッシュは彼の名を呼んだ。 〜Shining Rain〜 「ラルゴ」 アッシュの声にラルゴは振り返った。 「どうした、アッシュ?」 アッシュは外へと視線を向けた。 そこにあるのは廃墟群。 「……もう、ザオ遺跡に着いたんだね」 「そうだ。今から導師を連れて、あそこへ入る。おまえも降りる準備をしろ」 「……悪いけど、それには俺は付いていけないんだ」 「!!」 アッシュの言葉にラルゴは驚いたような表情を浮かべる。 「……それは例の任務の為か?」 「うん、そういうこと」 「…………」 それにラルゴは何も言えなくなった。 「あっ、でも、大丈夫だよ。ちゃんとルークたちはザオ遺跡に誘き出すし。イオンのこともちゃんと手は打ってあるから」 そんな重い空気を取り払おうとするかのようにアッシュは明るくそう言った。 「だから、その……いってらっしゃい」 アッシュは微笑んでそう言った。 今まで隠されていた翡翠の瞳が優しい光を放つ。 「…………ああ」 ラルゴはそう言うと、アッシュはすれ違ってシンクのもとへと向かう。 「ああ! そうだ、ラルゴ!!」 すると、アッシュは何か思い出したかのように声を上げたので、ラルゴは足を止めた。 「このタルタロス使ってもいい? 少しでも早くアクゼリュスに行きたいからさ」 「……ああ、好きにしろ」 「ありがとう、ラルゴ!!」 ラルゴの言葉に本当に嬉しそうなアッシュの声が聞こえてきた。 それを聞いたラルゴは無言で足を動かした。 もう、何も言えなかった。 本当は彼を止めたいと思っているのに。 その任務を行えば、彼は死んでしまうから。 だが、止めることは出来なかった。 それが彼が作られた理由だから。 ラルゴは彼を止めることが出来ない無力さに手の中にある大鎌を強く握り締めるしか出来なかった。 「……さてと、そろそろ『アッシュ』と回線を繋ぎますか」 ラルゴたちがタルタロスから降りたのを確認した後、アッシュは一人そう呟いた。 ルークたちをここに誘き出さないと。 そうしないと、俺が何かと困るから。 アッシュは瞳を閉じ、全神経をフォンスロットへと集中させる。 そして、彼との回線を繋げた。 「あ〜つ〜い!!」 ケセドニアへ向かう途中のオアシス。 そこで、アニスの声がけたたましく、響いた。 「まあ、砂漠ですからねぇ♪」 そんなアニスに対して、ジェイドはさわやかにそう言った。 ジェイドはルークたち同様に日差し避けのマントを羽織っていたが、汗ひとつかいていなかった。 「ってか、こんなに暑いのに、大佐はどうしてそんな涼しそうな顔をしているんですか? 変人ですよ!」 「いえいえ。トクナガを可愛いと思うアニスの趣味には負けますよ」 「可愛いじゃないですか! 目はギョロっとしてて、口はジャギジャギで!」 「……まぁ、趣味は人それぞれですが……」 そんな二人のやり取りをルークはただ見ていた。 どうしたら、こんなに元気でいられるんだか。 ナタリアなんか、砂漠に入ってから一言も言葉を発していないのに……。 すると、突然頭の中でキィンという音が鳴り響いた。 その感触は一度だけ体験したことがあった。 ――――…………ルー……ク……。 頭の中に声が響いた。 あいつの声が……。 (おまえ……アッシュか?) ――――…………う、うん……。 ルークは声に出さないように尋ねると、声はそう答えた。 ――――……ルークは、その……今……何処に、いるの? アッシュは苦しそうな声でそう尋ねてきた。 (……別に何処だっていいじゃねぇか!) 本当はそれが心配なはずなのに、本心とは違う口調でルークはアッシュに怒鳴った。 ――――……そっか。……そうだよね。 それに対して、何故かアッシュは哀しそうにそう言った。 ――――……俺たちは、今……ザオ……遺跡に……いる。……イオンも……一緒だ。 (なんだと?) アッシュの言葉にルークは耳を疑った。 ――――……イオンを助け……たいなら……早く……ザオ……遺跡に…………。 それを最後にアッシュの声は、聞こえなくなった。 「……ルーク? どうかしましたの?」 ルークの様子がおかしいことに気づいたナタリアは話しかけた。 それに、ティアたちもルークへと視線を向ける。 「……今……アッシュの声が……聞こえた」 「!!」 ルークの言葉にティアたちは、驚いたような表情を浮かべた。 だが、ジェイドだけは表情は変わらなかった。 「……で、≪鮮血のアッシュ≫は何と言ってましたか?」 「あいつらは今、ザオ遺跡にいるらしい。イオンも一緒だと言っていた」 「ザオ遺跡ですか……。行ってみますか?」 ジェイドの問いにルークは頷いた。 「ああ。他に手がかりもないしな。それに……なんか嘘だとは思えない」 「それは何故ですか?」 「…………わからねぇ」 頭の中で響いたあいつの声。 それはとても苦しそうな声だった。 そんな声を聞いてとても嘘を言っているとは思えない。 ルークはそう思ったが、敢えてそれは言わないでおいた。 「……では、さっさとザオ遺跡に向かいますか」 そんなルークに対して、ジェイドは嫌な笑みを浮かべてそう言った。 そして、ルークたちはザオ遺跡へと足を進めた。 「はぁ……はぁ……」 回線を途中で切ったアッシュはとても立っていられなくて、膝をついた。 ローレライに教わってルークとの回線を繋げられるようになったが、今まで繋いでもらったとき以上にこれはきつい。 『ルーク! 大丈夫か!!』 すると、自分しかいないはずの甲板から声が聞こえた。 声がするほうへと視線を向けると、そこには燃えるような紅と翡翠の瞳を持つ男の姿があった。 一目でわかった。 「……ローレライ」 『無理して、フォンスロット開くなと言っただろうが!』 「ご、ごめん。でも、どうしても『アッシュ』をここに呼ばないといけなかったから……」 ローレライに申し訳なさそうにアッシュはそう言った。 アッシュは息を整えると、ゆっくりと立ち上がりローレライと視線を合わす。 「ありがとう。もう、大丈夫だから」 心配そうに自分を見つめているローレライにアッシュは笑いかけた。 「あっ! そうだ、ローレライ! 俺とタルタロスをアクゼリュスに移動させることって出来るか?」 『……そなたは、難しいことを言うな;』 アッシュの言葉にローレライは困ったような顔をした。 「だ、だって、タルタロスはどうしても必要なんだし、かと言って普通にアクゼリュスに向かっていたら時間ないし。……無理かな?」 アッシュの言葉を聞いたローレライは、少し考えてから溜息をついた。 『……わかった。そなたとタルタロスをアクゼリュスに移動させよう』 「ありがとう! ローレライ!!」 アッシュはそれが嬉しくて、満面の笑みを浮かべた。 『……では、タルタロスを移動させる。……しっかりと、掴まっていなさい』 ローレライはそう言うと、タルタロスは赤い光に包まれた。 そして、砂漠にあったタルタロスは、一瞬のうちにその場から消えた。 Rainシリーズ第4章第5譜でした!! ここで、からみの少なかったラルゴさんとアッシュの会話。 でも、何を喋らせればいいのかわからない私。(おい;) そして、ローレライ!何気にタルタロスごとアッシュをアクゼリュスに送ってしまったよ!! さすが、ローレライ!! H.20 1/25 次へ |