砂漠の中を物凄い速度でタルタロスは移動した。
目的地はザオ遺跡。
そこへ着いたら、俺はザオ遺跡には向かわず、アクゼリュスへと向かう。
再び、悲劇を繰り返す為に……。






〜Shining Rain〜








タルタロスのある船室。
そこにアッシュとイオンはいた。
アッシュの金色の仮面はルークによって割られた為、アッシュは仮面を付けていなかった。

「……寒くないか?」

アッシュはイオンに話しかけた。
それにイオンは首を振った。

「いいえ、大丈夫です。……ありがとうございます」

自分の身を案じてくれたアッシュに、イオンは素直にお礼の言葉を言う。
だが、イオンはアッシュの顔を見ると戸惑ってしまった。
ルークそっくりの彼の顔を……。

「……もしかして、あなたはルークの…………」

戸惑いながら、イオンは言葉を紡ぐ。
それに対して、アッシュはコクリと頷いた。

「…………そうだよ。俺はルークのレプリカだ。イオンと同じね」
「!?」

アッシュの言葉にイオンは驚きの表情を浮かべた。

「……知っていたんですか? 僕がレプリカだって」

自分がレプリカであることを知っているのは、大詠師モースとヴァンだけだと思っていた。

「俺は被験者(オリジナル)イオンの護衛をしていたから。それに彼はアリエッタを本当に大切にしていたから」
「……そう、ですか……」

イオンは俯いた。
アリエッタ


自分がレプリカであることが表にバレないようにするために、導師守護役(フォンマスターガーディアン)からはずされた彼女。
自分が知っている彼女の顔はいつも泣きそうで、哀しそうな顔をしている。

「……彼は、どんな人だったんですか?」

自分の被験者(オリジナル)は一体どんな人物だったんだろうか?
それを聞くのは正直怖い。
でも、聞いてみたい。
自分の被験者(オリジナル)を知っている人がここにいるから……。

「……我が儘で、自分勝手で、人を困らせるのが大好きな奴。公務をサボったり、部屋から抜け出すときはいつも俺に部屋に来てた」

どれだけ、あいつに振り回されたか……。
そのときのことを思い出したアッシュは溜息をついた。

「……でも、本当は淋しがり屋なんだ」

我が儘なのも、自分勝手なのも、人を困らせるのが好きなもの、淋しいから。
自分のことを誰かに見て欲しかった、自分の存在を認めて欲しかったのだ。

「アッシュは、彼のことをよく見ているんですね」
「あいつに振り回されたのは、アリエッタ以外だったら俺が一番多いと思うよ」

イオンの言葉にアッシュは苦笑した。

「……だからという訳じゃないけど、俺は彼とイオンは間違えたりしないよ。彼とイオンは違うから……」

違う
その言葉を自分は何度聞いただろう。
いつも、被験者(オリジナル)と比べられ同じになるように指導されてきた。
それを言われるのが嫌で、自分も彼と同じであろうと努力した。
でも、今のアッシュの言葉は嫌じゃなかった。
むしろ、嬉しかった。
自分の力だけを必要としている彼らとは違って、アッシュは自分のことを見ている。
導師イオンではなくて、一人の人として……。

「アッシュは優しいのですね」
「そ、そんなことないよ/// 俺は当然のことを言っただけだし///」

イオンの言葉にアッシュは、を真っ赤にしてそう言った。
アッシュの反応を見たイオンは嬉しそうに微笑んだ。
アッシュがルークと同じような反応をしたから。
でも、二人も同じようで全然違う。
きっと、自分も彼らのことを見分けることが出来るだろう。

「でも、何故ですか? 何故、アッシュは作られたのですか?」

自分が作られた理由。
それは死んでしまった被験者(オリジナル)イオンの代わりをする為。
だが、彼の被験者(オリジナル)であるルークはまだ生きている。
それなのに、何故アッシュは作られたのだろうか?
すると、アッシュの表情は一瞬凍りついたように見えたが、すぐに優しく微笑んだ。

「…………代用品」
「えっ?」

アッシュの言葉に意味がわからず、イオンは聞き返した。

< 「今は、それしか言えないんだ。ヴァンにとって俺はそれ以上でも、それ以下でもないんだ」

ヴァンが本当に必要としているのは、俺ではなく『アッシュ』なのだ。

「アッシュ……?」

自然と哀しい表情になってしまったのだろうか。
イオンが心配そうな顔をした。

< 「俺は他に用がある。この辺で失礼するよ」

アッシュはそう言うと、イオンのいる船室から出て行った。





















「よかったの? あんな話をして?」

船室から出ると不意に声が聞こえた。
アッシュが声が聞こえるほうを見ると壁に凭れ掛かっているシンクの姿があった。

「あいつに被験者(オリジナル)イオンの話なんかして」
「……別に。ヴァンには特に口止めされなかったし」
「そう。……さっき言ってた用ってなんのさ?」
「それは……。ヴァンからの任務だよ。だから、ザオ遺跡に着いたら、俺は別行動を取る」
「それに……僕は付いていったらいけないの?」
「ああ。これは俺一人で十分だからな」
「そう……」

アッシュの言葉を聞いてシンクは淋しそうな顔をした。
それを見たアッシュは少し困ったような表情になった。

「そんな顔するなよ、シンク。……イオンのことは任せたからな」

アッシュはそう言うとシンクの前を横切って艦橋(ブリッジ)でと歩き出した。

「アッシュ!!」

アッシュの背中を見たシンクは思わずアッシュの名を呼んだ。

「? 何、シンク?」

その声にアッシュは振り返った。
そのときのアッシュは、いつもと変わらない優しい笑みを浮かべていた。

「……その任務が終わったら、すぐに会えるよね?」

タルタロスに乗ってから、シンクはずっと胸騒ぎがしていた。

「……当たり前だろ。何言ってるんだよ、シンク」

それに対して、アッシュはとびっきりの笑顔を浮かべてそう言った。

「じゃあ、俺ラルゴに用があるから行くね」

アッシュはそう言うと再び艦橋(ブリッジ)へと向かって歩き出した。

「……そうだよね。……何言ってるんだろう…………」

シンクはアッシュの背中を見ながら、そう呟いた。
でも、なんでだろう?
アッシュは僕に笑いかけてくれたのに……。
シンクの胸騒ぎは治まらなかった。
























Rainシリーズ第4章第4譜でした!!
アッシュとイオンとの会話。ちょっと切ないなぁ、アッシュが。
そして、シンクは何気に鋭いです。その胸騒ぎが当たっちゃうんだもんww


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