変わってしまったのは、俺と『アッシュ』の立場。 変わっていないのは、降りしきる雨。 そして、『アッシュ』が俺に向けるあの強い瞳だけ……。 〜Shining Rain〜 「よし、あそこだ! あそこに梯子を下ろせば外に出られるぞ!」 廃工場の中を進んでいくと、突然ガイがある場所を指差してそう言った。 その方向を見ると、人口のものとは違う光が漏れていた。 「思った以上に長かったな……」 「ご主人様、もう少しですの! ここを抜ければ、後は目指せケセドニア、ですの!」 ルークの言葉にミュウは励ますようにピョンピョン跳ねてそう言った。 それを見たガイは笑みを浮かべた。 「ははは。ケセドニアへ行くには砂漠を越える必要があるけどな。途中にオアシスがあるはずだから、そこで一度休憩しよう」 「はいですの!」 「ガイ。あなたが先に降りなさい。わたくしが足を滑らせたら、あなたが助けるのよ」 ナタリアの言葉にガイは困ったような顔をした。 「……俺がそんなこと出来ないの知ってて言ってるよな」 「だって早くそれを克服していただかないと、ルークと結婚したときに困りますもの」 ナタリアがそう言ったとき、アニスが鼻をフンと鳴らした。 「ルーク様はもっと若くてピチピチの子がいいですよね♪婚約なんていつでも破棄出来ますし♪」 「……なんですの?」 「何よぅ……」 またしても、二人は睨み合った。 この廃工場だけで何回二人は睨み合ったことか。 「いや〜。仲がよさそうで、何よりです」 それを見て、ジェイドは楽しげにそう言った。 「そう言って、二人を止める気ないだろ?」 「ええ。それはあなたの仕事ですから♪」 「…………」 ジェイドの笑みにキレそうになったがそれを抑え、アニスとナタリアを宥めて、ルークは梯子を降りた。 (雨……?) 外に出ると、預言どおりにわか雨が降っていた。 そして、ルークの目の前にある光景に目を見開く。 そこにあるのは、タルタロス。 そして、その近くには萌え立つ緑を思わせる緑色の髪の少年の姿があった。 「イオン!!」 ルークは思わず、彼の名前を呼んだ。 ルークの声にイオンは振り返った。 イオンの顔には驚いたような表情が浮かんでいた。 そして、このときイオン以外の人がいたことに気が付いた。 イオンと同じ髪の色をした少年と、夕焼けのように赤い長髪の少年がいたことに……。 ルークはアッシュを見た途端、名もない感情が込み上げてきた。 これは一体何なんだ? 怒りか? 憎しみか? それとも……。 すると、アッシュが俺を見て微笑んだように見えた。 それを見たルークの胸は激しく高鳴った。 「イオンを返しやがれ!!」 何も考えずにそう叫ぶと、ルークは腰にあった剣を抜いて彼へと向かって走り出す。 こいつを倒せばすべて収まる、そう思ったから。 それを見たアッシュも腰にあった剣を抜き、駆け出す。 その動きはまるで鏡を見ているようなものだった。 ルークは、アッシュへと剣を振り下ろす。 それを知っていたかのようにアッシュは受け止める。 雨の音が聞こえる中、ひとつの金属音が鳴り響いた。 その後も幾度となくアッシュへと攻撃を繰り出すが、それも全て受け止められる。 だが、それはほんの少しの間だった。 雨のせいが、アッシュは地面の柔らかい部分に足をとられ、体勢を崩した。 その隙をルークは見逃さなかった。 「もらったあぁ!」 ルークはアッシュへと思いっきり剣を振った。 それはとても避けられるものではなかった。 「アッシュ!!」 だが、アッシュはそれを必死の思いで避け、ルークとの距離をとった。 アッシュの金色の仮面にはヒビが入り、それが見る見るうちに大きくなっていった。 そして……。 パリン 仮面は二つに割れ、地面へと落ちた。 「……っ!?」 アッシュの素顔を見たルークは思わず息を呑んだ。 ルークだけでない。 この場に居合わせた人、全ての人が驚愕した。 夕焼けのように赤い長髪に美しい翡翠の瞳。 その顔立ちは、整っていてルークそっくりだった。 いや、具体的に言えば、ルークを少し幼くしたような顔だった。 ルークはその顔に背筋が凍りつくような感覚も走った。 そんなルークに対してアッシュは、優しい笑みを浮かべた。 「…………やっぱり、ルークは凄いね」 とても優しい笑み……。 ずっと、いつまでも見ていたいような笑みだ。 それは、何故だ? 俺は、どうしてそう思うんだ。 なのに、何故だ? こんなにも優しい笑みなのに、どこか哀しみが含まれているように感じる。 この哀しみをどうしたら取り除けるんだ? 俺は、こいつの本当の笑顔が見たい。 本当の笑顔を……。 「おまえは……」 「アッシュ!!」 アッシュへと手を伸ばそうとしたそのとき、シンクの声にそれは遮られた。 シンクはすぐさまアッシュへと近づき、アッシュの右手を掴んだ。 「アッシュ! 今はイオンが先だろ! さっさと、行くよ!!」 シンクは必死になって叫んだ。 こうでもしないと、アッシュが消えてしまいそうで怖かった。 アッシュがこいつに取られてしまいそうで……。 「シンク。……わかったよ」 シンクの言葉にアッシュは、笑みを浮かべて返した。 そして、アッシュはルークに背を向け、タルタロスに向かって歩き出す。 「お、おい! 待て!!」 「…………いい御身分だな。チャラチャラと女を引き連れて」 ルークの言葉にアッシュは、背を向けたままそう言った。 アッシュの言葉が何故か心に突き刺さった。 「おい! 待て!!」 アッシュを追いかけようとしたそのとき、ルークの行く手を拒むように譜術が発動した。 それはシンクが発動させた、グランドダッシャー。 地面から無数の岩が飛び出てきた。 「くっ……」 それにルークは足を止めるしかなかった。 これを喰らったら、一溜まりもないとわかったからだ。 轟音が鳴り響き、タルタロスが動き出したのがわかった。 もう到底追いつけない。 そう悟ったルークはタルタロスを見送るしかなかった。 「……どういうこと…………?」 ナタリアは信じられないものを見たかのように呟いた。 「ところで、イオン様が連れて行かれましたが?」 「ああ! しまったっ!!」 ジェイドの言葉にアニスは、頭を抱えて叫んだ。 「どちらにしても、六神将に見つかった時点で、囮作戦は失敗ということですね」 「どうする? バチカルに戻って船で行ったほうがいいじゃないか?」 「それは無駄ですわ」 ガイの言葉にナタリアはキッパリとそう言った。 「お父様は、まだマルクトを信用していませんもの。囮の船を出港させた後、海からの侵略に備えて港を封鎖する手はずになっていましたわ」 「ま、当然の用心でしょうね」 ナタリアの言葉を聞き、ジェイドは肩を竦めてそう言った。 「ああ、陸路を行ってイオンを取り返す。あいつが死んだらモースのいいようにされちまうかもしれねぇ。冗談じゃない。戦争なんかさせるかよ」 「そうですね。では、まずはケセドニアに向かって、イオン様を捜す手がかりを探してみましょう」 「ああ、そうしよう」 ジェイドの言葉に一同は頷いた。 そして、ルークたちはケセドニアに向かって歩き出した。 Rainシリーズ第4章第3譜でした!! アッシュの仮面がついに取れました!!やったよ!!てか、ここまでが長ずぎだっつの!! アッシュを気にするルーク、ルークに嫉妬するシンク。可愛すぎvv H.19 12/25 次へ |