「じゃあ、イオン様。私はちょっと出かけてきますけど、絶対に部屋から出ないでくださいよ?」

ルークたちがバチカル城へ登城していた頃、イオンとアニスはバチカルの宿屋のある部屋にいた。

「わかっていますよ、アニス。ちゃんと、部屋で待ってますから」

アニスの言葉にイオンは優しくそう言った。

「では! 行って来ます、イオン様!」

アニスはイオンにそう言うと、部屋から出て行った。






〜Shining Rain〜








アニスが部屋から出て数分が経った頃、イオンのいる部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「アニスですか?」

何か忘れ物でもしたのだろうか?
イオンはそう思い、ドアを開けた。
だが、そこにいたのはアニスではなく、赤い露出度の高い服を着た女だった。
後ろには、海賊のような格好をした男と、ハゲ頭に髭を生やした男の姿があった。

(この人たち、確か……『漆黒の翼』)

ケセドニアでルークの財布を掏ろうとした人たちだ。

「アンタが導師イオンだね?」
「はい、そうですが。……何か用ですか?」
「あたしらは、ある人にあんたをある場所に連れてきて欲しいって頼まれたんだよ」
「ある人? 誰ですか?」

イオンの問いにノワールは不敵に笑った。

「それは逢ってのお楽しみだよ。その人はアンタに凄く逢いたがっていたよ。ついて来てくれるよね?」
「……わかりました、いいですよ」

アニスに部屋から出ないでと言われていたが、イオンはそれを承諾してしまった。
どうしても気になったのだ。
自分に逢いたがっている人が誰なのか。

「だったら、ついて来な」

ノワールはそう言うと踵を返し、歩き出した。
イオンは彼女の後に続いて、部屋から出て、歩き出した。





















バチカルの外に出て、暫くすると雲行きが怪しくなってきた。
確か、預言(スコア)ではにわか雨が降ると詠まれていたことをイオンは思い出した。
すると、イオンの目にタルタロスが入ってきた。
そして、そのすぐ近くには自分と同じ萌え立つ緑を思わせるような緑色の髪の少年と夕焼けのように赤い長髪の少年の姿があった。
少年らはイオンの姿を見ると、こちらへと近づいてきた。

「頼まれた通り、導師を連れてきたよ。アッシュ」
「!?」

ノワールが言った名前で目の前にいるのが誰なのかわかった。
神託の盾(オラクル)騎士団六神将特務師団長≪鮮血のアッシュ≫だと。
名前は知っていたが、実際に彼を見たのは初めてだった。

「ありがとう、ノワール!」

アッシュが笑みを浮かべてそう言うと、ノワールの頬が仄かに赤くなった。

「い、いいってことよ! 他でもない、アッシュの頼みだからね/// じゃあ、あたしらはこの辺で/// あんたたち、いくよ!」
「「へい、姉さん!」」
「あっ、ちょっとま――」

ノワールはそう言うと、逃げるようにその場から立ち去った。
アッシュは一度声をかけたがその声は届いていないようだった。

「…………また、謝礼金を渡せなかった;」
「またって; ……いいじゃない? あいつらが受け取らなかったんだから」

アッシュの言葉にシンクは呆れながらそう言った。

「そっか……」

それに納得したようにアッシュは呟くと、イオンへと視線を向けた。
そこにある髪と同じ色の瞳は、まっすぐ俺を見つめていた。
そして、雲行きの怪しかった空からはついに雨が降り出した。
冷たい雨が身を濡らし、髪から滴り落ちる雫は仮面の中を濡らした。

「……あなたが、≪鮮血のアッシュ≫……ですか?」

すると、イオンがそう口を開いた。
何処か驚いているようだけれど、穏やかな声。
それがとても懐かしく感じた。

「……ああ、そうだよ」

アッシュはイオンの問いに頷いた。
≪鮮血のアッシュ≫
ローレライ教団に所属する者は一度は耳にする。
イオンもそうだった。
彼が剣を振れば戦場は血の海と化すと……。
だが、目の前にいる彼は、とてもそんなことをする人には見えなかった。
すると、アッシュはさらにイオンに一歩前に歩み寄り、手を差し伸べた。

「……ここだと、濡れる。とりあえず、タルタロスの中に行かないか?」

アッシュは優しくそう言った。
優しい声。
それは何処かで聞いたことのある、聞き覚えのある声だ。

「……俺は、おまえの身体のことが心配なんだ。……イオン」

アッシュが自分の名前を呼んだとき、イオンは驚いた。
自分でもなんで驚いているのかわからなかった。
ただ、不思議な感じたした。
彼は初めて自分の名前を呼んだのに、懐かしい感じがしたから。
彼をずっと前から知っているような気がした。
イオンはアッシュの手を掴もうと、手を伸ばした。
彼の手を掴みたくて。
彼と一緒に行きたくて……。
後もう少しで、彼の手に触れられたその時

「イオン!!」
「!!」

ひとつの声がそれを遮った。
イオンはその声がするほうへと視線を向ける。
廃工場の入り口のところには、燃えるような紅の長髪と翡翠の瞳を持つ少年の姿があった。

「ルーク……!?」

イオンは驚いたようにそう呟いた。
何故、ルークがこんなところにいるのだろうか?
イオンにはそれがわからなかった。

「…………やっと、来た」
「「えっ?」」

アッシュがそう静かに呟いたので、イオンとシンクは声を出した。
イオンとシンクの声はほぼ同時に出たので、ひとつの声となった。
静かに呟いたアッシュの声は、とても嬉しそうで、アッシュの顔にも笑みが零れていた。

「アッシュ。……それって、どういう――」
「イオンを返しやがれ!!」

シンクがアッシュに尋ねようとすると、また声が響いた。
ルークを見ると、ルークは腰にあった剣を抜き、こちらへと向かって走ってきた。

「……シンク、イオンを!」

アッシュはそう言うと、ルークへと向かって駆け出した。
そして、アッシュの腰にあった剣を抜き、ルークの剣を受けて止めた。
辺りには、雨の音と剣同士がぶつかって出来る金属音だけが響き渡った。
























Rainシリーズ第4章第2譜でした!!
漆黒の翼に連れて行かれるイオン様。ダメじゃん!!アニスとの約束破ったら!!
そして、初めてアッシュとご対面ww何気にイオンとアッシュは今までに会ったことがなかったらしい;
そして、次回!ついに、アッシュの仮面が!!


H.19 12/18



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