歯車がゆっくりと、音をたてずに動き出す。
それは、預言(スコア)に詠まれていた方向とはまったく違う方向へと確実に動いていた。
だが、それは決してあのときは違うものであることを、アッシュは知っていた……。






〜Shining Rain〜








ルークたちは、バチカルの廃工場の中を進み始めた。
ヴァンは囮となって船に乗った為、ルークたちと共に行動はしなかった。
しかも、イオンが漆黒の翼の連中に連れられ、それを捜す為にアニスも同行することになったのだ。
本当だったら、普通に街の外の出てアクゼリュスに向かうはずだったが、六神将のシンクがいるらしくそれが出来なかった。
なので、ルークたちはバチカルの廃工場にいるのだ。
工場跡なら、排水を流す設備があり、外へと通じることが出来るからだ。

「やっと、見つけましたよ」

すると、突然後ろから声が聞こえてきた。
ルークが振り返るとそこには、肩でそろえた金髪に挑戦的な濃い緑の瞳の少女が立っていた。

「ナ、ナタリア!? どうしてこんなところにいるんだ!?」

ルークは思わず声を上げた。
「決まっていますわ。宿敵同志が和平を結ぼうと言う大事なときに、王女のわたしくが出ていかなくてどうしますの?」
「ば、馬鹿か、おまえ! 外の世界は、お姫様がのほほんとしていられる世界じゃねぇんだぞ! 下手したら魔物だけじゃなくて人間とも戦うんだぞ!」

それは、旅をして得た事実だ。
それを聞いたナタリアは余裕の笑みを見せる。

「わたくしだって、三年前、ケセドニア北部の戦で慰問に出かけたことがありますもの。そのくらい覚悟は出来ていますわ」
「慰問と実際の戦いは違うしぃ、はっきり言ってお姫様は足手まといになるから残られた方がいいと思いま〜す」

呆れたように言ったアニスに、同感と言わんばかりにティアは頷いた。

「そうですよ。ナタリア様。お城へお戻りになったほうが……」
「お黙りなさい!」

ガイの言葉を遮ってナタリアは一喝した。

「わたくしは、ランバルディア流弓術の免許皆伝ですのよ! それに治癒士(ヒーラー)としての学問を修めていますわ! そこの頭の悪そうな導師守護役(フォンマスターガーディアン)や、無愛想な音律士(クルーナー)よりも役に立つはずですわ!」
「な、何よ! この傲慢女!」

アニスがそう言うとナタリアはフッと笑った。

「下品ですわね。浅学が滲んでましてよ?」
「呆れたお姫様だわ……」

ティアが小さく溜息をつくとジェイドは楽しそうに笑った。

「これは面白くなってきましたねぇ〜」
「どうするんだ? ルーク?」

ガイに問いかけられたルークは溜息をついた。

「……ナタリアのことだ。ここで追い返しても、また一人で追いかけてくるだろう。だったら、俺たちと行動させたほうがいいだろう。俺たちの知らないところで危険な目にあったら困るからな」

ルークの言葉を聞いたナタリアは嬉しそうな表情を浮かべた。

「まあ、ルーク。わたくしことをよくわかってくれていますのね。嬉しいですわ!」
「……すまないが、みんなそれでもいいか?」

ルークたちは、ティアたちを見渡してそう言った。
それにティアたちは、仕方なさそうな顔をした。

「親善大使はあなたですもの。私はあなたが決めたことならそれでいいわよ」
「私はそのほうが面白そうなので、別に構いませんよ」

ティアの言葉に続いてジェイドがそう言葉を続けた。

「私も別にいいですけど、ルーク様も大変ですよねぇ〜」
「あら? 何がですの?」

アニスの言葉が引っかかったナタリアはそう聞き返した。

「だたでさえ、アクゼリュスの救援でルーク様は忙しいのに、それに世間知らずのお姫様のお世話もしないといけないからに決まってるからじゃないですか」
「まあ! なんて、失礼なこと仰いますの!」
「失礼も何も事実でしょ!!」

そう言ってナタリアとアニスは言い合いを始めた。

「まあまあ、二人とも。喧嘩はそれくらいに……」
「ガイは黙ってて!!」「ガイは黙ってなさい!!」

二人を宥めようとしたガイの言葉をアニスとナタリアは同時に怒鳴って遮った。

「大体、ルーク様の婚約者だからといって、いい気にならないでくださいよね! ルーク様はアンタだけのものじゃないんだから!!」
「まあ! 導師守護役(フォンマスターガーディアン)のあなたにそんなこと言われる筋合いはありませんわよ!!」
(何故、ここで俺の話が出るんだ?)
「……どうでもいいが、俺たちは一刻も早くアクゼリュスに向かわないといけないんじゃないのか? ナタリア」
「あっ……」
「アニスも、イオンを早く捜さないといけないんじゃないのか?」
「あっ……」

ルークと言葉にナタリアとアニスは言い合いをやめた。

「俺たちには余り時間がないんだ。そういう言い合いは全て終わってからやってくれ」
「……すみませんでした、ルーク」
「ごめんなさい、ルーク様」
「わかればいいんだよ。それより、さっさとここから抜けるぞ」

ルークがそう言うと、廃工場の中に進み始めた。
ティアたちもそれに続いて進み始めた。





















バチカルの廃工場から少し離れた場所にタルタロスは停まっていた。
そして、そのすぐ近くには夕焼けのように赤い長髪の少年と萌え立つような緑を思わせる緑色の髪の少年がいた。
今はまだ晴れているが、預言(スコア)に詠まれていたとおりにわか雨が降るらしく雲行きが怪しくなってきた。

「ねぇ、アッシュ。あいつら、ちゃんとイオンをここに連れてくるかな?」

シンクは、そうアッシュに話し掛けた。
シンクたちは、漆黒の翼にイオンをここ、バチカルの廃工場前につれてくるように依頼したのだ。

「ああ、彼女たちなら、大丈夫だ」

アッシュはシンクに視線を合わすことなくそう言った。
アッシュはここに来てからただ一点を見つめていた。
廃工場の入り口をずっと……。

「でも、なんであいつらとの待ち合わせ場所をここにしたのさ?」

シンクはそれをずっと疑問に思っていた。
別にバチカルを出たら何処だっていいのに……。

「ここに人が訪れることはない。それに……」
「それに?」
「…………いや、なんでもないさ」

アッシュはやっとシンクを見て微笑んだ。
仮面がなければ、美しい翡翠の瞳も見れたのに……。

「……どうやら、導師のお出ましのようだ」
「えっ?」

アッシュが自分から視線を外してそう言ったので、シンクもそちらへと視線を向ける。
そこには、赤い露出度の高い服を着た女の隣に萌え立つような緑を思わせる緑色のの少年がいた。
自分と同じ顔を持つ彼が……。

「……シンク、いくぞ」

アッシュはそう言うとイオンの元へと歩き出す。
シンクもそれに続いて歩き出した。
























Rainシリーズ第4章第1譜でした!!
やっと、バチカルの廃工場まで来ましたよ!!
そして、ナタリアも仲間にvvアニスとの喧嘩が楽しいww
次はイオンがノワールたちと会うところになります♪


H.19 11/29



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