「ご主人様! 新しい街ですの! 砂だらけですの!」 ケセドニアに着いた途端、ミュウが嬉しそうにぴょんぴょん跳ね回った。 「……ああ、そうだな」 「ルーク。私は少し私情がある。バチカルへはお前たちだけで先に行きなさい」 「はい、わかりました」 「ティア、ルークのこと頼んだぞ」 「えっ? あっ、はい、兄さん」 急にヴァンに名前を呼ばれたティアは驚きながらもちゃんと返事をした。 「バチカル行きの船は、キムラスカ側から出発する。まずは、キムラスカ領事館へ行きなさい。では、私はここで失礼する」 ヴァンはそう言うと、人ごみの中へと消えていった。 「では、さっさとバチカルへ向かいますか」 ジェイドがそう言うと、ルークたちはまずキムラスカ領事館へと向かって歩き出した。 〜Shining Rain〜 ディストのいる宿屋の部屋に再びノックの音が聞こえた。 「誰です?」 「私だ」 その声を聞いたディストは、扉へと近づき、開けた。 「どうしたんですか? 私に何か用でも?」 「アッシュとシンクはいるか?」 ディストの問いかけに、ヴァンはそう言った。 「アッシュはここにいますけど、眠っていますよ。後、シンクならついさっき追い出したばっかりですよ」 「寝てるだと?」 ディストの言葉を聞いたヴァンは、ベッドへと視線を向ける。 そこには、まるで死んでいるかのように眠っているアッシュの姿があった。 「……なら、ディスト。おまえにアッシュとシンクに伝言を頼もう。二人に次の任務を遂行しろとな」 「! そ、それは……つまり、あなたの計画が動き始めるということですか?」 ヴァンの言葉を聞いたディストは驚きの表情を浮かべた。 「そうだ。アッシュには、シンクとラルゴと共に導師を捕らえた後、アクゼリュスに向かってもらう」 「…………」 ついに、動き出すのか。 ヴァンの計画が。 「初めからわかっていただろう。アッシュを何の為に作ったのか?」 「ですが……」 アッシュを作った理由。 それは他でもなく彼の被験者、ルークを生かす為。 彼の代わりにアッシュがアクゼリュスと死ぬ為だ。 そんなことは頭ではわかっている。 「だから、言ったのだ。人形なんか可愛がるなと」 「だったら、どうしてですか? どうして、アッシュを手元へ置いておいたんですか? 被験者とレプリカを入れ替えればよかったじゃないか!」 そうすれば、こんなに苦しむことなんてなかったのに。 ディストの言葉にヴァンの表情が揺れた。 だが、ディストはそれに気付きもしなかった。 「それには色々と事情がある。とにかく、アッシュとシンクに伝言を頼んだぞ」 ヴァンはディストにそう言うとさっさと部屋を出て行った。 「……言えるわけないでしょうが」 ディストは小さく呟いた。 シンクにはともかく、アッシュには言えない。 そんな残酷なことを……。 「…………ディスト?」 「!!」 急に自分の名前を呼ばれたディストは視線をベッドへと向けた。 そこには上半身を起こしたアッシュの姿があった。 「アッシュ。……いつ起きたのですか?」 「たった今だけど。……どうしたの? 顔色よくないよ?」 「な、なんでもない……ですよ」 「……もしかして、ヴァンでも来た?」 「!!」 アッシュの言葉にディストは驚きの表情を浮かべた。 「……当たりなんだ。そっか……」 「アッシュ、その……」 「いいよ、ディスト。言わなくてもわかってるから」 「…………」 ヴァンがここに来たことと、ディストが俺に言い辛いなんて一つしか思いつかないのだから。 「俺、一人行けばいいの?」 「……いえ。シンクとラルゴと一緒にとのことです」 「そっか……。じゃあ、シンクを捜さないとな」 アッシュはそう言うとベッドから降り、身支度を始めた。 「シンクは今、この街にいます。私、呼んで来ます」 ディストは逃げるように、部屋を出ようとした。 「ディスト……ごめんな」 ディストが扉を開けると、アッシュはそうディストに言った。 「…………」 ディストは返す言葉が見つからず、そのまま無言で部屋を出て行った。 『始まるのだな』 ディストが部屋からいなくなると、部屋にローレライが現れた。 『すぐにやるのか?』 「ううん、たぶん違うと思うよ。シンクと一緒だからまずはイオンを捕まえてから行くと思うよ」 俺が『アッシュ』の代わりにアクゼリュスを崩壊させることをシンクとアリエッタは知らないのだから。 「だから、頼んでいたものはもうちょっと後でいいよ」 『……わかった。だが、無理するな』 それにローレライは優しく言った。 「うん」 「あらん」 ケセドニアの市場の中を歩いていると甘ったるい声が聞こえ、ルークの行く手を遮った。 目の前に現れたのは、露出度の高い赤い服を着た女だ。 「この辺には似つかわしくない、品のいいお方♪」 「な、なんだ」 「せっかく、お美しいお顔立ちですのに、そんな風に眉間を皺を寄せられては……」 女はルークの顔を手でスルリと撫でた。 「ダ・イ・ナ・シ、ですわョ」 指は顎から喉、それから胸へと滑った。 そんな女に対し、ルークはさらに眉間に皺を寄せて、その手とは違う、女の腕を握った。 そして、その腕を勢いよく上へと上げた。 その手には財布があった。 「俺の財布を掏るとは、いい度胸だな」 「……はん。ぼんくらかと思ったけど、違ったようね。ヨーク!」 「へい、ノワール姉さん!」 ノワールと呼ばれが女は掏った財布を手首を使って投げた。 それを、海賊のような格好をした男が受け取る。 「後は任せた! ……ずらかるよ、ウルシー!」 ノワールはそう言うと何処からともなく現れたロープを掴み、あっという間に建物の上へと消えていった。 「てめぇ! 俺に財布!」 駆け出しそうになったルークだったが、それより早くティアの手をからナイフが飛んだ。 ナイフはヨークと呼ばれた男の靴を地面に縫い付け、それによってヨークはばたりと倒れた。 ティアは素早くその場へと駆け寄ると、起き上がろうとしたヨークの首筋にナイフを突きつけた。 「動かないで。盗った物を返せば無傷で解放するわ」 「ちっ……」 ヨークは財布をティアに手渡した。 ティアはナイフを構えたまま、後へとゆっくり下がる。 すると、ヨークはすぐに立ち上がり、再び下りてきたロープを掴み、壁を登った。 その建物の上にはずんぐりとしたハゲ頭に髭を生やした男とノワールの姿があった。 「……俺たち『漆黒の翼』を敵に回すたぁ、いい度胸だ。憶えてろよ」 建物上に辿り着いたヨークがそう吐き捨てると、三人はあっという間に消えた。 「あいつらが『漆黒の翼』だったのか」 以前、タタル渓谷で辻馬車の御者に『漆黒の翼』と間違われたのだ。 (俺は、あんなのと間違われたのかよ!) その事実にルークは今更ながら腹が立った。 「はい、ルーク」 ティアはルークに歩み寄り、ルークに財布を手渡した。 「ありがとう、ティア」 「どういたしまして。それより、さっさとキムラスカ領事館に向かいましょう」 ルークの言葉に優しい笑みを浮かべると、ティアはさっさと歩き出した。 それに倣って、ルークたちも歩き始めた。 Rainシリーズ第3章第9譜でした!! ヴァンさん、かなりも悪者ですww サイトにアップする前に姉に呼んでもらったところ、「ヴァン、死ねばいいのに」というコメント頂きました。(!!) でも、ディストの気持ちもわかるなぁ〜。なんで、ヴァンはアッシュを手元に置いたんだろう??(あんたがさせたんでしょうが!!) そして、漆黒の翼の登場。こっちのルークは財布を掏られたことは気付きましが、ちゃんと取り返せなかったね; 頑張れよ、ルーク;でも、ティアのおかげで財布は無事手元に戻ってきたしいいか。 H.19 10/5 次へ |