「まもなく、船は出航いたしますが、準備はよろしいですか?」

翌日の早朝にルークたちは、船に乗るために港へ行くと兵士がルークたちにそう言った。

「ああ」
「では、どうぞ」

ルークがそう言うと、兵士は横にずれ、船への道を開けた。
そして、ルークたちは船に乗り、ケセドニアへと向かった。






〜Shining Rain〜








ケセドニア、マルクト側宿屋
そこに一人の少年が現れ、ある部屋をノックした。

「誰ですか?」

すると、奇妙な、妙に癇に障るような声が返ってきた。

「僕だよ、ディスト」
「シンクですか。……どうぞ」

ディストの言葉を聞いたシンクは扉を開けた。
そこには、ベッドの傍で一人掛けソファに座り、何かの書類に目を通しているディストの姿があった。

「どうしましたか? シンク?」
「……アッシュは大丈夫なのか?」

シンクの言葉にディストは、あぁといった表情を浮かべた。

「アッシュなら、今はぐっすり眠ってますよ」
ディストはベッドへと視線を向けてそう言った。
それにつられてシンクもベッドへと視線を向ける。
そこにあったのは、夕焼けのように赤い長髪の彼の姿。
とても、穏やかで気持ちよさそうな寝息をたてて眠っていた。
シンクの手は自然とアッシュの頬に触れていた。
アッシュの頬は、とても暖かく触り心地がよかった。
それを感じたシンクはホッとした。
今、自分の目の前にいるアッシュはまるで、死んでいるように眠っているから。

「……シンク、あの後ヘマなんてしてないですよね?」
「……あいつらにフォミクリー計画の音譜盤(フォンディスク)を盗られたよ」
「そうですか……って、な、なんですって!?」

シンクの言葉にディストは大声を上げた。

「なんてことしてくれたんですか!? あれがもし、性悪ジェイドの目にでも入ったら……」
「大声を出さないでよね。アッシュが起きたらどうするんだよ」
「うっ……;」

シンクの言葉にディストは思わず口を閉じて、アッシュを見る。
アッシュは特に変わった様子はなく、起きる気配すらなかった。

「と、とにかく、ジェイドたちから音譜盤(フォンディスク)を取り返して来なさい!」
「わかってるよ。だから、先回りしてここに着たんじゃないか。経路の都合であいつらは一端ここを訪れてからバチカルに向かうからね」
「だったら、ここにいたらいつジェイドたちが港に着くかわかりませんよ。外で見張っていたらどうです?」
「何それ? 僕がここにいると不満なわけ?」
「当たり前でしょうが!」

シンクの言葉にディストは、はっきりとそう言った。
それに対してシンクはムッとした表情を浮かべる。

「僕からすれば、アンタとアッシュが一緒にいる方が不満なんですけど」
「なんですって!!」

ディストはシンクを睨みつけた。

「……まあいいけど、さっさと音譜盤(フォンディスク)を取り返してきたらいいんだろ」

シンクはそんなディストを相手にせず、扉へと手をかける。

「……ディスト」
「なんですか?」
シンクに返事を返したディストは、早く出て行けと言わんばかりの表情をしていた。

「アッシュに手を出すなよ」
「そ、そんなことしませんよ!!」
「あっそ、じゃあね」

シンクはそう言うと扉を閉めた。

















響け……。
アッシュは強く願った。
すべての意識をそこへと集中させて願う。
届け……。
俺の声を『アッシュ』に届けてと……。

















連絡船、キャッツベルト
ルークはその船の甲板にいた。

「すごいですの! 水がたくさんあるですの!」

ルークの隣で嬉しそうにミュウがぴょんぴょん飛び跳ねている。

「……そうだな」

ルークは目線を海へと向ける。

(これが海か……)

こうして海を見るのは、初めてだった。
海面から時々魚が飛び跳ね、それを狙って海鳥が水面下を飛んでいる。
その光景は本を読んでいても決してわからなかったことだ。

――――…………ルー……ク。

すると、突然頭の中に声が響いた。
その声は、タルタロスで聞いた声だ。
ルークはその声に答えようと口を開く。
そのとき

「ここにいたのか、ルーク」

背後から声をかけられ、ルークは振り向いた。
そこにはヴァンの姿があった。

師匠(せんせい)……」
「どうした? もうすぐ、バチカルに帰れるのに浮かない顔をして?」

ヴァンはそう言いながら、ルークの傍へと歩み寄る。

師匠(せんせい)。……俺は師匠(せんせい)のこと信じていいんですよね?」
「それはどういう意味だ?」
「今回の六神将の件は本当に師匠(せんせい)は関わっていないんですよね?」

短い間に様々なことが起こり、何がなんだかわからなくなっていた。
それに、ティアが言っていた通り、ヴァンは六神将の長だ。
だから、本当に今回の件に関わっていなかったとはどうしても思えなかった。

「私は今回の件は本当に関わっていない。安心しなさい」
「……そうですか」

いつものようにヴァンは笑って言ってくれたのに、ルークの気持ちは晴れなかった。
それがどうしてなのか、俺自身わからなかった。

「そろそろ、ケセドニアに到着するだろう。ルーク、おまえは上陸の準備をして来なさい」
「…………はい」

ヴァンの言葉に従い、ルークは甲板から離れた。
その時、ヴァンが何かを呟いたような気がしたが、それはルークには聞こえなかった。
























Rainシリーズ第3章第8譜でした!!
ルークはヴァンを少し疑い始めるましたね。
てか、せっかくアッシュが繋いだのに、ヴァンに邪魔させたし!!
次辺りで、ルークたちがケセドニアに到着します!!


H.19 9/30



次へ