ダアトを出たアッシュは、すぐにある場所へと向かった。 目指すはフーブラス川。 そこに、彼女がいるだろう。 彼女に、アリエッタに頼みたいことがあるのだ。 〜Shining Rain〜 フーブラス川へ着いたアッシュは、急いでアリエッタがいるであろう場所へと向かった。 ルークたちに見つかるといけないので、アッシュはセントビナー側からフーブラス川を横断した。 すると、紫色の霧の向こうに美しい桃色の髪が見えた。 間違いない、アリエッタだ。 アッシュは口を押さえると、一気に障気の中を走り抜けた。 そして、すぐにアリエッタへと駆け寄った。 アリエッタの顔を覗き込むと、彼女は何処か苦しげな表情を浮かべていた。 障気を少し吸ってしまったのだろうか。 アッシュは急いで治癒譜術をかけようとした。 「……うっ」 すると、アリエッタは小さく呻き声を上げると、徐々に彼女の瞼が上がっていった。 虚ろな瞳は徐々に光を取り戻し、その瞳にアッシュの姿が映った。 「兄さま……」 「よかった。気がついたんだね、アリエッタ」 アリエッタは身体を起こし、辺りを見渡す。 「……兄さまが、アリエッタをここに運んでくれたんですか?」 アリエッタの問いにアッシュは首を横に振った。 「ううん、俺じゃないよ。ルークたちがだよ」 「あの人たちが…………」 アリエッタはぬいぐるみをギュッと抱き締めた。 「でも、アリエッタはあの人たちのこと……嫌いです」 「……どうして?」 ライガ・クイーンは助けられた。 だから、アリエッタがルークたちを嫌う理由なんてないはずなのに……。 「……だって、あの人たちは兄さまのこといじめたんもん」 アリエッタは泣きそうな顔でそう言った。 どうやら、原因は俺にあったようだ。 タルタロスで、俺はひょんなことからジェイドとやり合いとなった。 そのときに、ジェイドに右肩をやられたのだ。 それを見ていたライガがアリエッタに伝えたのだろう。 「アリエッタ、もうその傷は治ったから。もうそんなこと、しなくていいよ」 「でもっ……」 「それより、アリエッタ。アリエッタに頼みたいことがあるんだ」 アッシュは話の話題を変えようとアリエッタにそう言った。 「……頼みですか?」 「うん。……ルークをコーラル城に連れて来て欲しいんだ」 「ルーク?」 「イオンたちの中にいる燃えるような紅の長髪と翡翠の瞳を持った彼だよ」 アッシュの説明にアリエッタは、ああといった表情を浮かべた。 「……誰も傷付けずにコーラル城に彼を連れて来れるよね? アリエッタ?」 「……わかりました。兄さまの頼みですから」 アリエッタは少し考えてから、笑みを浮かべてそう言った。 「ありがとう、アリエッタ」 それにアッシュも笑顔で答えた。 アリエッタは、合図を送ると、空から数匹の魔物がこちらに向かって飛んできた。 魔物がアリエッタの近くに着地すると、アリエッタはその魔物一匹に掴まった。 「アリエッタ」 「? なんですか?」 アッシュはアリエッタに歩み寄ると、ポケットから青い袋を取り出した。 「これを持って行くといい」 「なんですか、これは?」 「睡眠薬だ。ディストが作ったものだから心配ないだろう。ルークが暴れたら、これを使えばいい」 そう言ってアッシュはその袋をアリエッタに握らせた。 あのとき、ディストから押し付けられた薬が役に立ちそうでよかった。 出来るだけ、『アッシュ』を傷付けたくないから。 「わかりました」 アリエッタはその袋をポケットにしまい、再び魔物に掴まった。 「……では、いってきます」 「ああ、いってらっしゃい。俺はコーラル城で待ってるから」 アリエッタの言葉にアッシュは笑って答えた。 それにアリエッタも笑みを浮かべ、そして魔物に合図を送った。 魔物はそれに答えるかのように、翼を広げて飛び立った。 アッシュは、アリエッタがカイツールのほうに行くのを確認すると、自分はコーラル城へと向かって歩き出した。 マルクト側カイツール そこにルークたちは辿り着いた。 そこにはとても巨大な門がそびえ立っていた。 すると、その門も前に黒髪のツインテールの少女とマロンペーストの髪を一つに束ねた男の姿があった。 「アニス、ヴァン師匠!」 ルークは二人の名前を呼び、そのまま歩み寄った。 「きゃぁ♪ ルーク様ぁ♪ おひさしぶりですぅ〜」 「ルーク、無事で何よりだ。ずいぶん大変なことに巻き込まれたようだがな」 「ヴァン!」 ティアはヴァンの姿を見るなり、ナイフを構えた。 「ティア、武器を下ろしなさい。おまえは誤解しているのだ」 「誤解ですって? だったら、どうして六神将は和平のために動くイオン様の邪魔をするの? 六神将は兄さんの直属の部下よ!」 ヴァンの言葉に、ティアは張り詰めた声でそう叫んだ。 「確かに、六神将は私の部下だが、彼らは大詠師派でもある。私は大詠師派ではない」 「ふぇ? 本当ですか、総長? それは初耳ですぅ〜」 ヴァンの言葉にアニスは心底驚いたような表情を浮かべて言った。 「六神将の長であるから、そう取られがちだがな。一応、彼らにはこれ以上手出ししないように伝えておこう。……効果の方はどれ程になるかわからぬがな」 「…………」 ティアはヴァンの言葉にナイフを静かに下ろした。 だが、ヴァンのことを完全に信じていないようで、ジッと彼のことを見つめている。 それにヴァンは苦笑した。 「では、私は先に国境を越えて、船の手配をしておく。ルーク、おまえはここで休んでから、港に来なさい。後、これがファブレ公爵から預かった、臨時の旅券だ。いくつか予備があるから、ティアはそれを使いなさい」 ヴァンはルークに旅券を手渡すと、キムラスカ領地へと歩いていった。 ふと、ルークは旅券に目をやる。 これで国境が越えられるんだ。 「あの〜ルーク様。私の旅券落としちゃってんで、その旅券もらえますか?」 「あ? ああ、予備の旅券が二枚あるから、使うといい。……それより、大丈夫か? タルタロスで魔物と戦って、落ちたって聞いたが?」 ここへ来る途中にイオンがアニスことの話を聞いて、ルークは少し心配していた。 「そんなんですぅ〜。アニスちゃん怖かったですぅ〜」 「そうですよね。『ヤロー、てめー、ぶっ殺す!』って悲鳴上げてましたものね」 「イオン様は、黙っててください!!」 イオンの言葉にアニスは顔を少し赤くしてそう言った。 「でも、ちゃんと親書は守りましたよ! ルーク様、褒めて、褒めて♪」 「あ? ああ、えらかったな」 「きゃわん♪ ルーク様に褒めてもらった♪」 ルークの言葉にアニスは飛び跳ねた。 それによって、彼女の背中にある不気味な人形トクナガも一緒に跳ねた。 ルークは改めて、アニスのことが苦手だと認識した。 「ほんとに無事で何よりです」 「大佐もアニスちゃんのこと心配してくれてたんですか」 ジェイドの言葉にアニスは更に嬉しそうな表情になった。 「ええ、親書がなければ話になりませんからね」 そんなアニスに対して、ジェイドはさわやかな笑みを浮かべてそう言った。 「ぶ〜。大佐って意地悪ですぅ」 「まあまあ、とりあえず、宿屋に入ろう。今日はみんな疲れただろうし;」 ガイはこの場をまとめようと苦笑しながら、提案した。 「そうですね。明日も早いですからね」 ジェイドはその提案に乗り、さっさと宿屋へと入っていった。 それにガイたちも続いた。 だが、ルークだけはヴァンが消えていった門をずっと眺めていた。 「ルーク! はやく来いよ!」 「あ、ああ。わかった」 ガイの声にルークは踵を返して、宿屋へと入った。 Rainシリーズ第3章第2譜でした!! ついにカイツールまでやってきましたよ!! 残念ながら、ここでアッシュはルークを襲いません!! 一足はやく、コーラル上へ向かってしまったからです。 次回はルークがアリエッタに攫われます!! H.19 7/13 次へ |