「アッシュ」
「うっ………」

シンクに呼びかけられ、アッシュは起きた。

「今から、タルタロスを襲撃に行くよ」
「……そうか、わかった」

アッシュはシンクの言葉を聞くと立ち上がった。
やっとだ。
やっと、『アッシュ』に会える……。






〜Shining Rain〜








「アッシュ」

魔物にまたがると、リグレットが近づいてきた。

「少しは休めたか?」
「はい。もう、大丈夫です」

リグレットの問いにアッシュは短くそう言った。

「そうか。でも、無理はするな」
「……はい」

アッシュはリグレットの言葉に頷くと、リグレットは優しい笑みを浮かべた。

「では、今から導師イオン様奪還のため、タルタロスの襲撃を開始する」

リグレットの凛とした声があたりに響き渡った。





















「な、なんだ!?」

館内にけたたましい音が響き渡り、ルークは辺りを見回した。
アニスは素早くイオンの傍により、背中を庇うようにして周りを見ていた。

「敵襲?」

ティアは杖を強く握る。

艦橋(ブリッジ)、どうした!?」

ジェイドは近くにあった伝声機を操作した。

『前方二〇キロ地点上空にグリフィンの大集団です!』
おかしい。
グリフィンは単独行動をとる魔物のはずだ。
なのに、それが集団で現れるだなんて……。

『総数は不明! 約十分後に接触します! 師団長! 主砲一斉砲撃の許可を願います!』
「艦長は君だ。艦のことは一任する」
『了解! ……前方の魔物の大群を確認! 総員第一戦闘配置につけ! 繰り返す! 総員第一戦闘配置につけ!』

すると、さっきまでダラダラしていた兵士たちは、あっという間に消えていった。

「皆さんは、船室に戻ってください」
「……わかった」

今、ここにいたら邪魔にしかならない。
それをわかっているルークはジェイドの言葉に従い、自分たちはいた船室へ戻ろうと足を動かした。
その時。

ドオォォン

轟音と共に船体に振動か伝わる。

(なんだ?)

ルークはふと、窓の外を見た。
すると、今までただ緑の色としか見えなかった景色が今は、一本一本の木が見えるまでになっていた。

(速度が落ちている!?)
「どうした!?」

ジェイドもそれに気付き、伝声機に向かって叫んだ。

『脇の森林地帯からライガの群れが現れて取り巻かれました! 館内に入り込まれ、機関部が攻撃を……』

その直後、何かを割く音、破裂音、耳を塞ぎたくなるような悲鳴が聞こえ、やがて静かになった。

艦橋(ブリッジ)! 応答せよ、艦橋(ブリッジ)!」

ジェイドがいくら呼びかけても、返事はない。
ジェイドは眼鏡の下で眉をしかめた。

「……! ティア! 危ない!!」
「えっ?」

ルークは叫びながら、剣を抜くとティアを突き飛ばした。
そして、そのままティアへと振り下ろされた何かを剣で受け止めた。

キイィィィン

それは、鎌だった。
その衝撃は剣から腕に伝わり、痺れてきた。

「ほお、なかなかやるようだな。だが……」

巨漢の男は口元に笑みを浮かべて鎌を薙ぎ払い、ルークを吹き飛ばした。

「甘い!!」
「くっ……!!」

鎌がルークに向けられる。

「ルーク!!」
「おっと、大人しくしてもらおうか」
「…………」
「それでいい。マルクト帝国第三師団団長ジェイド・カーティス大佐。……いや、《死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド》と呼ぼうか」
「≪死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド≫!? ……あなたが!?」

ティアは驚いたような声を上げた。

「これはこれは、私もずいぶんと有名になったものですね〜♪」

ジェイドは、どこまでも涼しげな笑みを浮かべて言った。

「戦乱のたびに(むくろ)を漁るおまえの噂、世界にあまく轟いている」
「あなたほどではありませんよ。神託の盾(オラクル)騎士団六神将≪黒獅子(くろじし)ラルゴ≫殿」
「ふ、まあいい。いずれ手合わせしてみたいと思っていたが、残念ながら今はイオン様を貰い受けるのが先だ」
「それは応じられませんね〜♪ それに、あなた一人でこの私に対抗しようとでも?」

それにラルゴは含み笑いを浮かべた。

「おまえの譜術(ふじゅつ)を封じれば、な」

ルークにしか聞こえないような声で呟き、ラルゴは懐から小さな箱を取り出すと、それを高く放り投げた。
箱はジェイドの真上へ行くとその途端、箱は展開し光を放った。

「ぐっ……」

光に包まれたジェイドは苦しげに呻いて膝をついた。

「まさか、封印術(アンチフォンスロット)!?」

ティアは驚いたような声を上げた。
封印術(アンチフォンスロット)
それは、全身のフォンスロットを閉じて譜術(ふじゅつ)を封じる術だ。

「導師の譜術(ふじゅつ)を封じるために持ってきたのだが、こんなところで役に立つとはな」

ラルゴは大鎌を横抱きに構えて突進した。
交差したと思った瞬間、金属音が響き渡り、二人の位置が入れ替わった。
ジェイドの手にはどこから出したのか一振りの槍が握られていた。

(どうすればいい?)

ルークは辺りを見渡した。
すると、ルークの目に天井にある譜石(ふせき)が映った。

(あれだ!)


「ミュウ! 天井に火を噴け!」
「みゅう?」

ルークの言葉にミュウは不思議そうに首を傾げた。

「早く!」
「は、はいですの!」

ミュウは慌てて言われた通りに天井に火を噴いた。
火球はまっすぐと譜石(ふせき)へと飛び、当たった瞬間譜石(ふせき)が爆発的に光った。
ラルゴは咄嗟に目を庇ったが、間に合わなかった。

「……今です、アニス! イオン様を!」

これをチャンスだと思い、ジェイドはアニスに言う。
アニスはイオンの手を引き駆け抜ける。

「落ち合う場所はわかりますね」
「はい、大丈夫です!」

ジェイドの脇をすり抜ける時アニスにそう言うと、アニスは笑みを浮かべて言った。
そして、ラルゴが現れて扉の向こうへと消えていった。

「行かせるか!!」

目を閉じたまま、ラルゴはジェイドへと大鎌を振るう。

「させませんよ」

ジェイドは槍を持ち直して、そして何の躊躇いもなくラルゴを刺した。

(……さ、刺した)

大鎌が手から滑り落ちて、床に落ちる。
そして、ラルゴも倒れこんだ。
ラルゴの身体から血が大量に流れ出す。
ルークはそれをただ呆然と眺めていた。
ジェイドは槍を現れたときのように光の粒子にして消すと、眼鏡の位置を直し小さく溜息をついた。

「イオン様のことはアニスに任せて、我々は艦橋(ブリッジ)を奪還しましょう」
「でも、大佐は封印術(アンチフォンスロット)譜術(ふじゅつ)を封じされたんじゃ……」

ティアは、驚きと心配が入り混じったような声でジェイドに問う。

「ええ、これを完全に解くには数ヶ月以上かかるでしょう。でも、あなたの譜歌(ふか)とルークの剣があればタルタロスの奪還も可能です」

その問いにジェイドは涼しげに答える。
まるで、何事もなかったかのように……。

「わかりました、行きましょう。……ルーク」

ティアがルークに呼びかけてもルークは反応しなかった。

「ルーク!」

再び呼ぶと、ビクッと肩が震えた。

「あ、ああ。……わかった」

それを聞いた二人は艦橋(ブリッジ)へと向かって歩き出した。

(……仕方がないんだ。ここはもう戦場なんだから…………)

()らなければ、()られてしうのだから……。
ルークはそう自分に言い聞かせ、二人を追って歩き出した。
























Rainシリーズ第2章第9譜でした!!
第2章第9譜にして、やっとラルゴの登場ですよ!!
てか、ながすぎだよ!!アッシュが全然出てこないし!!
次は、アッシュがいっぱい出るといいな〜www


H.19 4/24



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