タルタロスの船尾。
ルークたちがいる場所から最も遠いところに一匹の魔物が現れた。

「な、なんだ!?」

タルタロスの兵士たちが自然とそこへ集まる。
すると、その魔物から一人の少年が飛び降りてきた。
白い服を身にまとい、夕焼けのような赤い長髪の少年。
それは一瞬、天使が舞い降りたかと思った。
だが、それは間違いだった。
彼らにとって、少年は悪魔でしかなかった。






〜Shining Rain〜








少年、アッシュはゆっくりと歩き出す。
それを見た兵士たちは警戒し、剣を構えた。
そんな兵士の様子を見たアッシュは足を止めた。

「退け」

そして、静かにそう言い放った。
その短い言葉に多くの兵士は恐怖を感じた。
逃げたい、彼とやれば確実に死ぬ、と思った。
だが、自分たちは兵士だ。
逃げることは許されない。
死ぬことを覚悟で守らなければならないのだ。

「うおおおぉぉぉ!」

一人の兵士がアッシュに向かって走り出す。
他の兵士たちもその兵士に倣って走り出す。

「……やっぱり、ダメか」

アッシュは哀しそうに呟いた。
アッシュは腰にある剣をゆっくりと鞘から抜いた。
そして、自分に襲い掛かってくる兵士を一人残らず斬りつける。
そのたびに彼らの血が飛び、白い服が返り血で赤く染まっていく。
この七年間で鍛え上げられた剣の腕は、あのとき以上のものとなり、何一つ無駄のない動きで次々と斬っていく。

「まさか……≪鮮血のアッシュ≫か!?」

アッシュの動きを見た一人の兵士が声を上げた。
≪鮮血のアッシュ≫


それは神託の盾(オラクル)騎士団六神将アッシュの二つ名。
何故、彼にそんな二つ名がついたのか、ここにいる兵士たちはなんとなくわかった。
そして、彼は自分たちの上司、≪死霊使い(ネクロマンサー)ジェイド≫よりも強いだろう。

「そこを退け」

再び、アッシュは静かに言い放つ。
これが、最後の警告のように……。
だが、兵士たちはそれが聞こえなかったのか再びアッシュに襲いかかる。

「……ダメか」

アッシュは仮面の下で哀しそうな表情を浮かべた。
そして、アッシュは再び彼らと殺し始めた。





















あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。
きっと、数分しか経っていないだろう。
アッシュは剣に付いた血を振るって落とし、鞘へと収めた。
もう、ここに立っているのはアッシュだけだった。
出来れば、殺したくなかったのに……。
今、殺した兵士は殆ど知っていた。
自分が『ルーク』だったとき、タルタロスでお世話になった人々だ。
でも、何故だろう。
こんなにも人を殺したのに、胸が苦しくならないのは……。
きっと、この仮面のせいだろう。
この仮面を付けていると、自分が自分で無くなるような気がする。
感情が無くなるのだ。
だから、こんなにも人を殺してもなんとも思わないのだろう。
今、この仮面を外したらきっと、俺は壊れてしまう。
後悔に駆られて、一歩も動けなくなるだろう。
そう考えると、この仮面は俺にとって救いにもなっているのだろう。

「……ごめんなさい」

アッシュは苦しそうな声で小さく呟くと、手を合わせた。
そして、艦内へと足を動かした。





















艦内の中はとても静かだった。
タルタロスの兵士は殆どが殺されているのだろう。
すると、艦橋(ブリッジ)へと繋がる廊下で人が倒れているのを見つけた。

(あれは……)

ラルゴだ。
アッシュはラルゴにすぐさま駆け寄った。
床には彼の血が溢れ、辺りは赤一色だった。

(助けないと……)

アッシュは何の躊躇いもなく、治癒譜術(ちゆふじゅつ)を使った。
その途端、すぐに眩暈が襲ってきた。

(もう……ダメ…………)

身体を支えていられなくなったアッシュは、床に倒れ込もうとした。
そのとき

「馬鹿! 何やってるんだ!!」

床に接触する寸前に誰かがアッシュの腕を掴んだ。
アッシュは虚ろな瞳でその人物の姿を捉えた。

「なんだ……シンクか」
「なんだじゃないよ! リグレットに言われたばかりだろ! 治癒譜術(ちゆふじゅつ)を使うなって!!」

アッシュの反応に、シンクは怒鳴った。

「でも、ラルゴを助けないと……」
「だったら、僕がやる! アッシュは少しそこで休んでて!」

シンクはアッシュを寝かせると、ラルゴの治療を始めた。

(まったく、アッシュは!!)

アッシュには、わからないのだろうか。
アッシュの苦しそうな顔を見るのが、僕にとって一番いやなことだということが。
もっと、アッシュに自分の身体を大切にして欲しいのに……。
すると、アッシュはゆっくりと立ち上がり、艦橋(ブリッジ)へと歩き出した。

「ちょ、ちょっとアッシュ! そんな身体で何処に行くのさ!」

それに気付いたシンクは慌ててアッシュの腕を掴んだ。

「……ごめん、シンク。……俺どうしても行かないといけないんだ……」

苦しいはずなのに自分に笑顔でそう言うアッシュ。

「ア、アッシュ!!」

アッシュはシンクの手を振り解き、走り去っていった。
それはとても速く、シンクが追いかけても追いつけそうにないくらいだった。

「なんでだよ……」

今のアッシュにはそんな体力なんて残っていないはずなのに……。
何がアッシュを動かしているのだろう。
すると、シンクは一人の人物の名が浮かんだ。

(ルーク・フォン・ファブレ)

アッシュの被験者(オリジナル)の彼。
彼も今タルタロスに乗っているのだ。

「……一体どんな奴なんだよ」

アッシュをあそこまで動かすルークって奴は……。
シンクの両手は自然と握りこぶしを作っていた。





















もうすぐだ。
もうすぐ会える。
ずっと、気になっていた。
『アッシュ』が本当に生きているのか。
この目で確かめないと信じることが出来ない。
早く『アッシュ』に会いたい。
その気持ちだけが、今の自分の身体を動かしていた。
























Rainシリーズ第2章第10譜でした!!
アッシュ、タルタロスに乗車!しかも、人を殺しまくってますよ!!
いやだ!!アッシュは人殺しなんてしない子なのに!!(おい!)
そして、リグレットの言い付けも守らないしww
シンクじゃないけど、もっと身体を大事にしろよ、アッシュ;
次ぎあたりにアッシュはルークと再会(?)すると思います♪(言い切れよ!!)


H.19 5/3



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